表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第一章 未だ朧な世界
23/35

21 都市防衛戦Ⅳ

「このままじゃ、避難地点に着く前にsalv4に追いつかれる。」


 進行中、レンが、誰もが耳を塞ぎたくなるような現実を告げた。


「追いつかれるまで、あとどれくらい?」


 氷宮詩玖ひみや しぐの表情は変わらない。淡々とした声で蓮に問いかける。


「残り、三十分です。」


 蓮は正直に答えた。


 この状況で選択肢は二つしかない。


 ひとつは、途中で救出した二人を置き去りにすること。


 もうひとつは、salv4に追いつかれて戦うこと。


 後者は、言うまでもなく自殺行為だ。


「その……私たちを、ここで降ろしてもらえませんか。」


 氷宮に片腕で抱えられていた若い女性が、かすかな声で言った。


 俺たちは足を止め、彼女たち二人に視線を向ける。


 俺でもわかる。今の俺たちは、何かを決めなければならない。


「ダメだ!たとえsaliveの群れに見つからなかったとしても、あいつらがぶつかった建物が崩れて、君たちは生き埋めになる。たとえ奇跡的に助かったとしても、この街を奪還できる保証はない。ここに残れば、確実に死ぬんだ!」


 白夜花びゃくや かは、誰一人見捨てようとしなかった。


「でも……私たちを連れて行ったら、あなたたちまで死んでしまうんじゃ……?」


 女性は、今の状況を理解しているようだった。


「だけど……」


 花でさえ、その言葉の先を失った。


「もし他の適応者だったら、最初から私たちなんて見向きもしなかったでしょう。ここまで運んでもらえただけでも、本当に感謝しています。あなたたちみたいな人がもっといれば、人類にはきっと希望があります。だから――どうか、生き延びてください。」


 氷宮に下ろされた女性は、怨みの言葉ひとつなく、むしろ微笑みながらそう言った。


 一方、そばにいた年配の女性は、何も言わず、ただ静かに俺たちを見つめていた。


 その目に、何を思っていたのかはわからない。


「……すまない。近くに隠れられる場所を探して、なんとしても生き延びてくれ。チャンスがあれば、必ず助けに戻る。」


 氷宮がそう言って頭を下げると、俺たちは二人が近くのアパートの地下室に身を潜めるのを見届けてから、再び撤退を続けた。


 去るとき、俺は最後にもう一度だけ彼女たちを振り返った。


 二人は互いに寄り添い、穏やかな目でこちらを見ていた。


 彼女たちがその時どんな気持ちだったのか、俺には想像もつかない。


 ……いや、それどころか、こんな状況で自分がどう感じているのかさえ、わからなかった。


 氷宮たちは「生きる」ために必死に戦っている。


 だが、俺にとって「なぜ生きるのか」という執着そのものが、理解できない。


 目を覚ましたとき、俺には生きる意思なんてなかった。


 死ななかったのは、ただ「死ぬ理由」もなかったからだ。


 けれど今は――


 氷宮たちも、まいも、しゅくも。


 みんな、俺に生きてほしいと願い、そのために努力してくれた。


 命を賭けてまで。


 その想いが、今の俺が生きている理由になっている。


 ……それでも、俺は他人が「死」を前にした時の感情を想像できない。


 蓮はかつて言っていた。


「生への執着も、死への恐怖も、生物進化の遺伝子が決めるものだ」と。


 だが、さっきの二人の眼差しには、そのどちらも感じられなかった。


 自分の意思で何かを決めようとしているつもりだ。


 けれど、どうしても理解できないことがある。


 ――人間とは、どうあるべきなのか。


 そして、俺はどうあるべきなのか。


 二人を置き去りにしてから、俺たちの移動速度はぐんと上がり、salv4の影もようやく振り切ることができた。


 もともと蓮を抱えていた舞の役目も、花へと戻された。


 舞は三階級適応者の中でも突出した実力者らしく、彼女が全力を出すと、進行は一気に楽になった。


「蓮、避難地点まであとどれくらい?」


 しばらく進んだあと、氷宮が振り返って問いかけた。


「およそ五キロ。このままの速度なら三十分ほどです。向こうからの通信では、待てるのはあと一時間が限界とのことです。」


 蓮は手にした装置を確認しながら答えた。


「他のみんなの権能残量は?」


 氷宮が声を張る。


 返ってきた答えは――


 殿しんがりを務めるバージョン・ジンが二割弱、


 花だけが二割強、他は一割半前後、


 そして氷宮自身は、わずか一割。


「ジン、私と位置を交代して。速度を上げる。途中で何かあったら困るから。


 レイア、これから少し無理をしてもらうわ。」


「問題ない。」


 俺は短く答えた。


 氷宮の指示に従い、隊列がすぐに組み直される。


 速度は三割ほど上がり、風が顔を切る。


 ……だが、その直後。


 前方で、轟音が響いた。


 続いて衝撃波。


 先頭にいた俺の身体が、吹き飛ばされる。


 咄嗟に全身の権能を展開して衝撃を和らげようとしたが――


 意識の暗転を、止めることはできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ