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移住計画

作者: 空谷あかり

 もはや燃料が尽きかけていた。

「ダメです。はやく着陸しないと」

「だが、どこに!」

 その時、彼らの耳に朗報が飛び込んできた。

「適合する惑星を発見しました!」

「重力、大気、申し分ありません。Sクラスです!」

 一同がどよめく。探して探して、やっと発見した新しい星だった。これで移民ができる。彼らの星はもう人口過剰で住むところがないのだ。

「しかし……」

 映像を中継するオペレーターが口ごもったのを、リーダーは見逃さなかった。

「なんだ?」

「先住の種族がいるようです。彼らを駆逐し、我々が住むのは少々難しいと思われます」

 映像が切り替わる。そこには彼らよりはるかに巨大で強力な種族がはびこっていた。

「むう……」

 宇宙船の中は静まりかえった。知恵と武勇を誇るリーダーも、その種族の大きさと凶暴さを目の当たりにし、しばらく考え込んでいた。

「いかが致します?」

 副官がたずねる。ビューがいくつか切り替わり、今は惑星を支配する種族が狩りをするシーンが映っていた。彼らは移民者たちよりはるかに大きな獲物を捕らえ、引き裂き、貪り食っていた。

「奴らに勝てるのか……」

「我々はエサになってしまうぞ」

 移民者たちも、武器を持っていないわけではない。その体は適度についた筋肉によりかなりの俊敏さを誇っており、一撃で相手をしとめる訓練を誰もが積んでいる。さらに各々の足にはよくできたパットが標準装備されていて、接近戦ならかなりの勝算が見込めた。

 だが、この惑星にいる先住種族はあまりにも大きすぎて、到底歯が立ちそうになかった。数名でかかれば戦えないこともないだろうが、そんな消耗戦はしたくない。たとえ勝てても、損害のほうがはるかに大きいことが目に見えている。

「こいつらと戦うのか」

「そんな……むちゃだ」

 先住者にはある程度の知能が備わっていて、文明もあった。しかしそれでもそこに映る連中の凶暴ぶりは、彼らの知っている生物とはまったく違うものだった。ときおり覗く、知性があるとは思えないような残酷さと、彼らの数倍はある体躯とがさらに恐怖をそそった。

 次々と映像が送られてくる。彼らの作った建造物、道具によって水上を渡るところ、作られている社会のありさまなど、ありとあらゆるところからの情報が入っていた。奴らは惑星中にはびこっていた。

 そこには自分より下位の他種族を使役する様子もあった。それを見た乗組員の中には悲鳴を上げる者もあった。彼らには考えられないような、想像を超える絶対服従を強いられていたからである。

「……ひどい。あれじゃ奴隷だ」

「狩りの手伝い、見張り、家畜の管理に警備まで……働かせ過ぎてる。あれではおかしくなってしまうぞ」

 一生彼らのために働き、死んでいく。それを当の下位種族たちは気にもとめていなかった。その様子がまた、独立心旺盛な移民者達に衝撃を与えた。

 ことにリーダーはその映像を食い入るように見ていた。下位種族は彼らと姿が若干似ており、それがいっそう船内の怒りと恐怖をあおっていた。

 違う映像が映る。それは巨大な先住種族が、長い尾をした小動物に悩まされている絵だった。また映像は切り替わり、今度は木でできた小屋と植物の生い茂る水辺が写った。

「降下しろ」

 リーダーはしばらく送られてくる情報を確認していたが、とうとう決断を下した。副官をはじめ、そこにいる者たちの間からどよめきが上がった。

「どうやって連中と戦うのですか」

 不安げな副官に向かい、リーダーは不敵に笑った。さっき見た一枚の映像に、彼は活路を見出していた。

「なに、いい方法がある」

 どこにも非のうちどころのない上策であった。彼はあらゆる角度から検討してみたが、まずいところは発見されなかった。

「次の船を至急呼び寄せろ。うまくいけば我々全員が、この星に住むことができる。もしかしたら」

 彼は一度言葉を切った。

「この星全部が我々のものになる」

 副官は信じられないといった面持ちでリーダーを見つめた。彼は自信たっぷりににやにやと笑った。

「俺の言うとおりにすれば大丈夫だ」

 リーダーの命を受け、オペレーターは母星に向かって通信を送った。パイロットはゆっくりと船首を傾け、あらかじめ探知しておいた、砂だらけの地域に向かって降りていった。


 床にかがみこんだ美知子は、窓枠をかりかりとかく音に気がついた。

「うにゃー」

 見ると縞模様の仔猫が、彼女の飼い猫がえさを食べるさまをじいっと見つめている。どうも捨てられたらしかった。

「あらあら」

 窓を開けるととことこと入ってきた。それを見た飼い猫は、えさ皿の前からどいて場所を譲った。仔猫は当然のように彼女の猫が残したえさが入っている皿に顔を突っ込み、食べ始めた。

「あらら」

 美知子はうなってしまった。飼い猫の方は自分のえさを食べる仔猫を見つめてはいるが、怒ってはいない。むしろ歓迎しているような感じである。

「にゃーん」

 飼い猫は彼女の顔を見て、甘ったれた声で鳴いた。おねだりをする時の、一番かわいい声である。

「うーん。もう一匹かあ……どうしようかなあ……」

「うにゃあん」

 食事を終えた仔猫が一生懸命、口のまわりをなめまわしている。見え隠れするピンクの舌が可愛らしい。

 迷った末、美知子はこの仔猫を飼うことにした。愛猫が仔猫をいたく気に入ったようだったからである。仔猫の愛くるしいしぐさと顔立ちも、なかなか彼女の好みだった。

「よし、チィちゃんにしよう。あんたは今日からチィちゃんよ」

 飼い猫は満足げに足元でねそべっている。仔猫はそんな飼い猫のしっぽにじゃれつき、その辺を転がりまわっていた。

「しょうがないわね。まったく」

 そしてドアを閉め、猫達のためにそそくさと買い物に出て行った。


 リーダーの作戦は成功している。私達の知らぬ間に、彼らはこの星中に満ち、増え続けている。そしてこれからも私達とともに増え続けることだろう。無防備なふりをして。

明日は猫の日ですね。

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