マイナ免許証に関する疑念
マイナンバーカード普及のために健康保険証機能をつけるとか、現行の紙の保険証を廃止するとか、国の偉いさんたちは必死みたいだが、保険証の次には運転免許証の機能取込み、さらには現行免許証の発行終了が控えている、らしい。ただこれも現場が混乱するのが容易に推測されて、萎える。
◎よく見られる風景その1【運送会社にて】
トラックやバスやタクシーや、車で仕事する会社では、始業前に有効な免許証を携帯しているか(違反で取り消されていたりしないか)毎回確認される。何年か前は、消防車を運転する職員(機関員)が免許を取り消されていたのを隠して運転していた(当然、無免許)という事案もあったなあ。
この免許証チェックが、マイナ免許証になるとどうなるか。マイナカードには免許証の情報、持っている免許の種類(大型中型準中型やそれぞれの2種免許が必要な業務もある)や有効期限が記載されていない、当然、対面、人の目で免許証チェックしても有効な免許かどうかわからない。今のマイナ保険証と同じ仕組みでマイナ免許証が運用されるとしたら、専用端末を準備して、顔認証か利用者証明用パスワードで認証して都道府県公安委員会のサーバーに運転免許証情報を取得しに行くこととなる。民間企業が公安委員会のサーバーにアクセスさせてもらえるか、その際のセキュリティー問題は、そもそも零細な事業所なら専用端末を設備運用する費用が出せるのか、等々の課題が予測される。
◎よく見られる風景その2【検問にて】
警察が車を止めて検問している。当然、免許証の提示を求められる。今までは警察官の目視で基本的に済んでいたものが、マイナ免許証だと専用端末で運転免許証情報を取得する作業が必須になり、検問の数だけ端末+回線が必要となる。当然時間はかかるし、一方では警察官の目が対象者の観察から離れて専用端末に集中しがちになるので、「やばいヤツを見逃しちゃった」なんて事案が続発するかもしれない。
◎よく見られる風景その3【レンタカー、カーシェアで】
旅行先やちょっとした所用でレンタカーやカーシェアを利用する。当然、免許証の提示を求められる。マイナ免許証では当然、サーバーに免許証情報を取りにいかなければならないが、その1【運送会社にて】と同じように専用端末が必要になる。アクセスできるか問題、費用が出せるか問題、などが同様に予測される。
◎よく見られる風景その3ー1【国外で運転する際に】
日本国外で当該国の運転免許でなく日本の免許で自動車を運転する場合、「道路交通に関する条約」(1949年道路交通条約、ジュネーヴ条約と称されることもあるが、「戦時傷病者保護に関する条約」1964年およびこれを含めた「戦争犠牲者保護に関する4条約」とは異なる)加盟国においては国際免許証(中身は日本の免許の事項を英訳した文書)の携帯で運転できる。ただしアメリカなど一部の国においては(正本である)日本の運転免許証を合わせて携帯することが求められ、グアム島においては日本の運転免許証でそのまま運転できる。ここで日本の国内規格のマイナ免許証を提示した際、アメリカなど国外では専用端末がないので運転免許証正本であると確認できない。仮にアメリカの警察から在外公館(大使館、領事館)に問い合わせがあったとしても、現在、在外公館にはマイナンバーの端末がない(マイナンバーカードは日本国内での使用のみが想定されているため)ため運転資格の有無を証明するものがなく、いきなり撃たれはしないだろうが無免許運転扱いされる可能性が高い。アメリカさんがソーシャルセキュリティーナンバーカードに運転免許証を付帯する、なんてことをやればまた別だけど。
◎よく見られる風景その4【免許証を落としただけなのに】
運転免許証を紛失したら、速やかに警察に紛失届を出し、運転免許試験場で手続きを取れば基本的に即日再交付される。当然、再交付されるまでは運転することができない。これがマイナ免許証「だけ」になり、現行の運転免許証が交付されなくなった後は、
①警察に紛失届を出し、
②市区町村役場で再発行手続きをし、
③カード出来上がりの通知書と本人確認書類を持って市区町村役場に受け取りに行く
ことになり、②〜③の間が1ヶ月かかるとされるので、この間1ヶ月は運転できないこととなる。また、③の本人確認書類の準備で詰む可能性がある(この時点で紙の保険証が廃止になっているので後は年金手帳と……、社員証も学生証も医療受給者証もない……、詰んだ)。
◎じゃあ「対案を出せ」と言われたら
運転免許証は身分証明書「にも」なるが、本来の用途は「資格証」である。なので、資格証機能を券面に表示できない(有効期限がいつまでで、どの種類、どの限定条件かが確認困難な)マイナ免許証は、導入すべきではない。一方、マイナンバーカードの券面に個人番号を表示する必要はない(就職時くらいしか番号を使わないので、住民票かマイナポータルアプリで確認すれば足りる)し、署名用電子証明書は持ち歩く必要がないので、普段の身分証明は運転免許証で足りる。優先度は、運転免許証>マイナンバーカードになる。
どうしてもマイナンバーカードを優先したい場合は、券面に運転免許証の情報を記載する必要がある。ただし表面の追記欄および臓器移植意思表示欄を充てたとしても表示領域が不足するので記載情報を簡略化する必要も考えられるが、限定解除時および免停処分時などの裏書き欄がないので、運用上の問題解消は困難であろう。また、運転免許試験場等で即日再交付できる体制も必要であるし、住所を含めた記載事項が変更になった場合は追記ではなくカード作り直しで対応することとなろう。この場合、(住所が変われば電子証明書が無効になるので)運転免許試験場等で再交付されたマイナンバーカードへの電子証明書設定作業のみ市区町村の窓口で行うか、全てを運転免許試験場等に委託することとなるだろう。
◎余談1【マイナ保険証はこのままで良いか】
先日、「高齢者のマイナ保険証は暗証番号なしで交付できる」との総務省の方針が出された。色々と突っ込みどころがあるのだが、現行のマイナ保険証端末では顔認証または暗証番号認証がされなければ健康保険証情報を読みにいかないので、少なくとも認証なしで(または医療機関等のスイッチ操作で)健康保険証情報を国保連ほか保険者団体に読みに行くように機器を設定するか改修する必要がある。これがソフトウェアで改修できない機器であれば、対応機器に入れ替える必要がある。
現行のマイナ保険証は、紙の保険証情報にプラスして高額療養費限度額認定証の機能を持っている。これば市区町村に出向かずとも自動で限度額が適用されるので紙の保険証に対して便利になった機能であるが、他の医療介護関連の機能はマイナ保険証に搭載されていない。具体的には介護保険被保険者証(令和24年度からの一部機能の一体化が検討中)、公費負担医療受給者証、乳幼児医療費証、特定疾病療養受療証、などがこれにあたる。これらの各種受給者証は各自治体独自の負担軽減・助成制度などもあり全国一律の運用でない場合があるが、このような独自の部分を含めたばらつきこそITで対応すべき部分である。また身体障害者手帳を含め、一部自治体ではクレジットカードサイズのカード化が検討されていたものがマイナ保険証導入でうやむやになった実態もあり、マイナ保険証であれば全て統合できる。まあ、マイナンバーカードがなくても、保険者の枠を超えた統合共通保険証を提供してあったなら、それでよかったのだが。
◎余談2【国家公務員の入館証利用】
マイナンバーカードは免許証、健康保険証への利用の前に、図書貸出カードなど行政サービスへの広汎な利用が検討されていた。その中で曲がりなりにも稼働しているのが、中央官庁の入館証としての利用である。これはICチップの空き領域に対応アプリをインストールして使われるもので、ベンダーはNECであるのだが……、マイナ保険証と同様にICチップのシリアル番号をキーにしてサーバー側で認証処理するのならばNFC対応スマホで入館するシステムを使えたのにね、と(マイナンバーカードいらなくなるか)。
まあ、国家/地方を問わず、公務員は職務遂行の際に資格証を提示する必要がある職務があるので(「マルサの女」のアレとか)、身分証明書としてのマイナンバーカードだけでは不足する。KKRホテル&リゾーツの宿泊施設を割引利用する際もプラスチックの保険証(国家公務員共済組合員証)の呈示が必要だから、マイナンバーカードの普段遣いは国家公務員でもメリットを感じないのかも知れない。