昔話をいたしましょう2
私が六歳になったある日、レオンお兄様が森へ行こうと言い出しました。
大人達に言えば確実に反対される危険な冒険です。けれども私達は、その好奇心を抑えることもできず幼い三人で森に入ってしまったのでした。
公爵領のすぐ側に広がる森は、進むと王都へと続く森。しかしながら開拓は進んでおらず、今もなお妖精が豊かに暮らす緑豊かな地です。
つまり、人間が住まう場所ではないのです。
「お兄様、妖精さんがもう帰ろうって言ってるよ?」
私は花魔法しか使えないので、花の妖精だけしか見えませんが、花の妖精は優しく可憐で親切な子ばかりで、よく話しかけてくれるのです。
他の属性の妖精は、わざわざ呼んだり契約しなければ会話もしない者ばかりだそうです。
「ローズ、冒険とは限界に挑戦してこそ楽しいものだ!」
レオンお兄様は、好奇心旺盛。私の言葉は届きません。
「レオン、私も戻った方が良いと思う。私の妖精も戻れとうるさい」
ウィルも魔力が強く妖精に好かれているそうで、水や風、火の妖精が見えると言っていました。
「あと少し! もう少し進んだら戻ろう! あと少しだけ!」
そうして、お兄様に着いていった結果、私達は見事に森で迷子になりました。
夜が近づくと、森は恐ろしい場所に変化します。闇の妖精が怖いと、妖精達も隠れてしまい、明かりもなく帰り道も分からず、私達はたまたま見つけた洞穴で途方に暮れていました。
森は大変広い土地にあり、大人もなかなか寄り付かない場所です。むやみやたらに歩いて妖精王の怒りを買えば、恐ろしいことが起きる、と言われています。
「きっと誰かが私たちを捜索してくれているに決まっているよ。大丈夫」
ウィルは冷静に説明してくれますが、私は泣いてばかりいました。
「ひっく……さ、さむいっ……。うぅっ……かえりたい。おとうさま、おかあさまっ……」
レオンお兄様は足を捻挫し、立てない状態でその場を動けません。
「悪かったよ、ローズ。頼むから泣き止んでくれよ……。いたたた」
「私が治癒魔法が使えたら良かったんだが……まだ習得してないんだ……悪い」
「バーカ。俺が一番悪いのは分かってるよ。とりあえずローズを慰めてやってくれ」
そうお兄様に頼まれたウィルは、「覚えたてだけど、火が出せるよ」と言いました。
私は寒くて寒くて、火が出せるなんて素敵、早く出してとせがんだのです。
ウィルの魔力は強く、そのコントロールはかなり難しい、と後で知りました。
中でも火の魔法は、当時習得したばかり。焚き火を起こす程度なら良かったのですが、ウィルは助けを呼ぼうと空高く上げる火魔法を使おうとしたのです。
そして、ウィルに過剰に近寄ってしまった私と、まだコントロール出来ず、出てきた大きな龍のような炎が───。
「ローズ!!!」
「うぅっ!」
どうしてそうなったのか、一瞬のことで分かりませんでしたが、胸が焼け落ちたのではないかと思うくらいの衝撃とともに痛みが襲ってきました。そこからは激痛で何も覚えていません。
「ローズ? ローズ! ローズ!! ローズ!!!」
「ウィル! お、落ち着け! 水魔法だ! 冷たい水をかけろ!」とお兄様の叫び声を聞いた気がします。そこで意識は途絶えました。
すぐさまウィルの水魔法で冷やされましたが、救助が来るまでの間に発熱し、屋敷に治癒魔法の使い手が駆けつけた頃には、もう傷は手遅れになっていました。
私の胸には大きな火傷の痕が残ったのです。