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君を失いたくない(ウィル視点)

 婚約披露パーティ前日。王女はパーティに参加する。その後、従者やメイドたちと陸路で帰るそうだ。近衛兵が厳重に警備して送り届けることになっている。


「少しなら使えるようになったわね」

「ありがとうございます」

「はぁ~……。何とか間に合ってよかったわ。古傷を癒すのはまだ無理かもしれないけれど、かすり傷くらいなら綺麗に治せるでしょうよ」


 結局そのくらいの治癒魔法しか習得出来なかった。鍛錬の方法や文献も借りたので、自分でも練習していけそうだ。


「明日でお別れなんて寂しいわ。あなたのような魔力量多い魔術師はとっても貴重なの! 我が国に来てほしいくらいよ!……そうね、貴方も一緒に来ない? 転移の力があるのなら、頻繁にこちらにも戻れるし。一緒に魔法研究しましょうよ!」


 急に思いついたように提案され、王子も私も固まってしまった。だが、すぐにローズの顔が浮かぶ。彼女と物理的に距離を生むのはもう嫌だ。


「申し訳ございませんが、お断りいたします」

「いい案だと思ったのに。明日も誘うわ。正式に返事を頂戴。一晩よく考えるのね」


 簡単には引き下がらない王女の意志の強さに、王子も私も慄いたのだった。


***


 翌日、屋敷にマーガレット王女を案内する。超大型来賓なので極秘に転移でお連れした。ローズにもまだ知らせていない。


「ウィリアム様ったら、本当に私の国に来てくださらないつもりなの?」

「申し訳ございません」

「もったいない。貴方ほどの魔力があるのなら、我が国で魔術研究をしたほうがさらに強くなれるわよ。新しい技術もきっと身につく」

「魅力的なご提案なのは存じています。だが、私は我がハレック王国でも権力者だ。そう簡単に国は捨てられない」

「爵位くらい我が国でも差し上げます。貴方が危惧しているのは別のことでしょう?」

「はい。婚約者と離れ離れにはなれない」

「お熱いこと。ご本人に言ってやりなさい」

「ありがとうございます。では失礼します」


 そうして部屋を出ると、床に黄色の花が一輪落ちていた。


「カレンデュラ、素敵ね」


 王女がそういったが、これは彼女がここにいた証拠だ……。どこまで話を聞いていたのか。探したが姿は見えなかった。

そこへ執事が血相を変えて走ってきたのだった。

 ローズが居なくなったと知り、彼女を探して魔力を辿ると、庭園の一角にたどり着いた。だがここで途切れている。なぜだ。どこへ消えた? 何度も魔力を辿ろうと試みるが、やはりそこで途切れていてどこに行ったのかわからない。

 ──ローズを失う? 初めてその想像をしてしまい、体中が凍り付いた。彼女を危険に晒すくらいなら、早く決断してしまえばよかったのだ!

 

『ウィル、君の婚約者は土の妖精王のところにいる』


 幼い頃から慣れ親しんだ水の妖精がやってきた。土の妖精王!? 妖精界に連れていかれたということか?


「連れて行ってくれ! 頼む!」

『連れてはいけない。だけど、土の妖精王が作った扉の場所を教えよう』

「扉?」

『伯爵家からやってきた花の妖精の為に、妖精王が作ったようだよ。……ここだ』


 花の妖精というのは、ローズが友達だと言っていたで「デイジー」のことだろうか。デイジーが伯爵家の庭に帰れるように扉を作ったということだろう。その扉に入れば、妖精界に行けるはず。

 水の妖精が指さしているのは、薔薇の茎と茎の間。人間がやっと通れるかどうかという隙間だった。魔力を駆使して扉に手をかざすと、意外にもあっさりと扉が開いた。


「ローズ!!」


 眩い光に包まれながら、私は臆することなくその扉の先へ進んだ。


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