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怖くて聞けない(ウィル視点)

「おい、ウィル! お前どういうつもりなんだ! 呼ばれればホイホイと王女のもとへ通って! 屋敷にも全然帰宅してないそうじゃないか!」


 レオンが怒って執務室に入ってきた。この男といい、アークライト伯爵といい、ローズのこととなると血が上るようだ。


「今はまだ言えない。だが噂は事実無根だ」


 そう、噂は『エルフィストン公爵は王女に気に入られ、アークライト伯爵令嬢を捨てて隣国へ婿に行く』というものに発展してしまった。ローズのことを気に食わない輩が、勝手に幻想を噂話にして流しているようだった。

 

「分かっているさ! だけど、噂の真偽をきちんとローズにだけは説明しておけよ!」

「そうだな……」


 この騒ぎの中で、気づいてしまったのだ。私の側にいれば、こうして何か起きる度に彼女も噂話の的となり、好き勝手言われてしまうのだと。

 プロポーズの言葉でさえ、「胸を見せろ」と迫ってしまった口下手な自分。地位や魔力は備わっていても、人格者ではない。彼女はいつか自分に嫌気がさすのではないだろうか。そして、治癒魔法を私が身に着け、彼女の傷痕が綺麗消えてしまえば、彼女はこう思うのではないか、「自由だ」と。

 傷のせいで結婚できない、と思っていた彼女だが、あの天使のような花咲く笑顔を振りまけば、どんな男も振り向くだろう。腹立たしいが、キズモノではないと知れば、引く手あまただ。

 ならばこのまま──。


 傷痕を消してやりたいと願って始めた治癒魔法の訓練だが、いざ治せるかもしれないと思うと躊躇する心に気づいてしまった。自分勝手なその思いに戸惑い、最近は彼女を避けてしまっている。

 恐らくそれをレオンが嗅ぎつけたのだろう。小さくため息が漏れた。


***


「あなたねぇ、やる気あるの?」


 王女は治癒魔法の特訓中とても厳しい。


「あはは、ウィルが怒られるだなんて珍しいなぁ」

「……申し訳ありません」


 王子も文句も言わず、空き時間になると三人での鍛錬に付き合ってくれている。

初めのうちは順調に治癒魔法の基礎を身に着けていったのだが、彼女の傷痕を治すことに対して迷いが生じてからは伸び悩んでいた。


「やる気がないのなら今日はおしまいよ。お茶にしましょう」

「……申し訳、ございません。メイドを呼んでまいります」

「ウィル、癒したい者がいるのならば、マーガレット王女にお願いしたらよいのではないか?」

「そうね、そのほうが早いわよ。誰かいるんでしょう? 古傷を負った人」


 訳知り顔で言い出した王子を思わず睨んだが、王女も感づいていることに少々驚いた。

王女は余裕ぶった顔で、「貴方が魔力を使うとき、いつも似たような感情を感じ取れるから分かるわよ」と誇らしげだ。彼女の魔力量だと、感情までも読み取れるのか。


「治癒することを悩んでいる。心の奥底で迷っているのね。どういう事情かは分からないけど、傷もその人とともに生きてきているわ。消すことを本人が望んでいるかどうか、確認したほうがよろしくてよ」

「その通りだね。ウィル、君は言葉が足りない。きちんと確認しておいで」

「……はい」


 王子と王女に諭されて、「傷痕を消したいかローズに尋ねる」ことになってしまった。だが何日経っても聞けないばかりか、目も合わせられない。彼女の瞳に自分がどのように写っているのか、言葉にして明らかにするのが怖くなってしまったのだ。傷痕が消せると知ったローズが、「消したいです! そしたら婚約解消できますね!」などと、明るく言われてしまったら。そんな想像をしてしまい、聞くのが恐ろしかった。



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