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戻らないといけません


『ローズ? どうしたの?』


 気付けば庭園のローズガーデンに来ていました。ドレスが汚れてしまうのに、立っていられず座り込み、泣いてはいけないと思うのに、涙が止まりません。デイジーが私を心配して、私の顔のそばを飛んでいます。一生懸命涙を拭ってくれるのですが、次から次へと涙が流れます。


「っ。ううっ。……ひっく」

『ローズ……』


 すると、突然私とデイジーを光が包み込み、あたり一面真っ白になりました。思わず目を閉じ、光が収まったので目を開けると、そこは今いたローズガーデンとは全く違う景色が広がっていました。


 木々が瑞々しく風に揺れ、草原は小さな花の絨毯のようになっています。色とりどりの花が美しく、妖精がたくさん飛んでいて、楽しそうな声が次々と聞こえてきました。溢れんばかりの光が差し込む、明るい森。


「ここは?」

『妖精のお家だよ。土の妖精王様が、ローズを連れておいでって言ってくださったの!』


 なんと人間である私が、妖精界に来てしまったようです!以前本で読んだことのある妖精の世界、妖精界。人間には入ることのできない世界だと聞いていたのに。


「わ、私戻らないと!」


 今日はパーティ当日です!お客様が来るまではまだまだ時間がありますが、それでもここでのんびりしているわけにはいきません!だけど帰り方がわからずオロオロとしていると、銀色の髪の毛を靡かせながら、屈強な身体の神々しい方がやってきました。


『ここに居ればよい』


 ローズがうれしそうに微笑みながら、頭を下げます。見ると、周りにいたどの妖精も礼をしていました。それを見て、この方が「土の妖精王様」なのだと察しました。私も慌てて淑女の礼をします。


「お、お初にお目にかかります。ローズ・アークライトと申します」


 すぐに顔をあげるよう言ってくださり、周りの妖精たちはどこかへ飛んでいきました。楽しそうな声がまた響き渡ります。


『我はアース。そなたがいつも花の世話をしていることは見ている。礼を言う』

「デイジーや他の妖精さんが色々と教えてくれるおかげです。こちらこそ、素敵なお花をいつもありがとうございます」

『妖精界へよく来た。ここで暮らすとよい。花も喜ぶ』

「いいえアース様、私は人間です。元居た世界に帰らねばなりません。突然いなくなれば、皆驚くと思います……」


ウィルが悲しんでくださるかは、分からないけれど。


『では少し休んでいくといい。こちらの時間はあちらより遅いのだ。急がなくても大して時間はたたない』

『そうだよー! ここはゆっくりなの!』

「……ありがとう、ございます」


 どのくらい『ゆっくり』なのかは分かりませんが、これ程泣き腫らした顔で戻るわけにもいかず、少しだけお言葉に甘えることにしました。


『そなたが泣くと、あれも泣く。早く泣き止め』


 デイジーが私を心配そうに見てうるうるとしています。目にいっぱい涙をためた姿も実に愛らしく、その姿をアース様はとても愛おしそうに見ていました。


「アース様はデイジーをとても大事にされているのですね」


 そう言うと、アース様は優雅に微笑みました。その顔はとても優しく慈しむような顔で。

 あの丘でプロポーズをしてくれた時のウィルの顔と重なりました。今ではそれも、私の願望が作り出した幻なのかもしれないけれど……。



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