心配でたまりません
ウィルが旅立って三日目。そろそろ帰還されるはずが、何の連絡もありません。何かあったのか、やはり私との結婚が嫌になってしまったのか、私は不安でいっぱいでした。
落ち着きのない私を見かねて、どこの準備に行っても「ここはいいから少し休んで」と言われてしまいます。皆さんに気を遣わせてしまって、申し訳ないです……。
今もジェームズお爺様とお庭のお手入れをしようとしたのですが、元気のない私を妖精さんもジェームズお爺様も心配してしくださって、部屋に戻るよう言われてしまいました。
仕方なく自室に戻ろうとしていた、その時。
「なんですってぇ! ローズ様に脅迫状!?」
アンナの叫び声が聞こえました。ここは使用人の方のダイニングルーム。一休みしているところだったのかもしれませんね。それにしても、私に脅迫状? どういうことかしらとドアをノックしようとしたところで、ロバートの声も聞こえました。
「そうです。婚約されてから何通も。私の方が相応しいだとか、伯爵令嬢じゃもったいないうちの娘を! というような身の程知らずのものばかりです。もはや慣れてきましたけどね。しかも大旦那様がかなりお怒りで。国王も巻き込んで貴族がどんどん没落しそうな勢いで懲らしめられてますよ」
「当たり前です! あんなに可憐で美しく、教養もあって勤勉で性格もよくって、素晴らしいご令嬢などいませんわ!!」
「アンナの言う通りです。ですが、くれぐれもローズ様のお耳に入らぬよう……」
私は二人の会話に衝撃を受け、ドアをノックできずにその場を離れました。
何通も。たくさんの方が私とウィルの婚約を「相応しくない」と思っているそうです。そうですよね、特に秀でたもののない私が、あんなに完璧な公爵様と結婚だなんて。身の程知らずですね。
お義父様は優しいから、お怒りになってくださっているのかもしれないけれど、ただの嫁のためにそこまでの権力をふるうのは本意ではないはず。今までの貴族同士の関係を悪くさせてしまったかもしれないと思うと、申し訳ない気持ちになります。
ウィルに会いたい……
まだ一度も「好きだ」とか「愛している」という私を想う言葉は言っていただいていません。キスもしたけれど、優しいから。責任感で結婚してくれるような方だから、私がリラックスできるように気遣っていたのかもしれません。
だけど。私はとっくに、ずっと前から、ウィルのことが──。
***
ウィルが出発して五日目。
公爵家から王宮に伺いを立てると、アレク王子とレオンお兄様、ウィルの三人で隣国へ出発し、帰還は遅れると連絡があったとのこと。
何かトラブルが起きているかもしれないけれど、転移できない隊が行っても行き違いになる可能性もあること、間違いなく王子本人の直筆で心配せぬよう文に書いてあったそうで、もう少し様子を見るとのことでした。
心配でたまらないけれど、花魔法しか使えない私は、転移で駆けつけることも出来ないし、何かあってもお守りできない。待つしかない自分が情けなく、ますます自己嫌悪に陥っていました。
『ローズ! 遊びにきたよ!』
デイジーが遊びにくるのは久しぶりです。この数か月で何度かは来てくれていましたが、私も忙しくなかなかゆっくりお話しできていませんでした。沈んでいた気持ちがゆっくり上昇します。
「デイジー! あぁ会いたかったのよ。元気?」
『うん! 土の妖精王様が伯爵邸と公爵邸をつなぐドアを作ってくれたの! だから前のおうちのお友達ともすぐに会えるし、皆で公爵邸にきて遊んだりしてるんだよ』
「まぁ! そんなことができるの? 妖精王様はすごい方なのね」
自分たちの王を褒められると嬉しいのか、デイジーは笑顔でくるくると回りました。
『ローズも前のおうちに帰りたかったらすぐに帰れるよ!』
「人間も通れるの?」
『わからない! 王様に聞いてみるね!』
「そうね勝手にドアを使ったら悪いもの。一度ご挨拶してみたいわ」
人間が妖精王に会うなんて難しいでしょうけれど。でもデイジーが大切にされているようでよかったです。デイジーはふわっと私のそばに飛んでくると、顔色をのぞき込みました。
『ローズ最近忙しそう』
「うーん、そうね。パーティの準備で大忙しなの」
『大丈夫? ウィルのせい? ウィルこの家にローズを呼んだのにほったらかし』
いつも姿を現すわけではない妖精ですが、デイジーは普段から私のことをよく見てくれているようです。ウィルが家にいるかどうかもご存じなのですね。
「それは仕方がないのよ。大丈夫です。それよりも……」
『それよりも?』
それよりも。私はここにいていいのかしら。ウィルは、大丈夫かしら。無事に帰ってくるかしら。不安と寂しさがこみ上げて、気づけば私の頬が濡れていました。
『ローズとっても悲しい顔してる。泣き止んで? これあげるよ!』
デイジーが綺麗な黄色の小さな小さなお花を出してくれました。妖精の魔法の花は、土の上で育つお花よりも輝いていて、生き生きとしています。
「……まぁ素敵。可愛いお花」
『どこにいても、ずっとローズのそばにいるよ。ローズが大好きだよ』
「デイジー。大好きです」
私はその小さな友人をできるだけ優しい力で抱きしめさせてもらったのでした。




