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治療します

 お爺様が私を案内したのは、庭園の端。そこには枯れかかった桜が植えてありました。まだ若い木のようで背も小さく、いまにも枯れて枝が落ちてしまいそうです。


「桜、ですか……珍しいですね」

「東の国からの使者が、苗木を持ってきてくれたのじゃ。可愛らしい花が咲くので、前公爵様が毎年楽しみにされておった。じゃが、ここ数年このように元気がないのじゃ……」


 よく見ると、枝の一本が切られた痕がありました。


「枝が……。桜は枝を切ってはいけないと聞いたことがあります」

「庭師の弟子が誤って切ったのじゃ」


 お爺様はとても傷ついた顔をしています。庭師として、これほど広大な庭をお手入れできることは誉でしょう。

 だけど、お弟子さんの失敗で、前公爵様の毎年の楽しみを奪ってしまった。前公爵様はそれくらいで庭師をクビにすることもないお方だからこそ、余計にご自身でその失敗が悔やまれるのでしょう。出会ったばかりの小娘に意見を求めるくらいに。


 お爺様の前公爵様への思い、そして庭師としての誇りを感じ、胸が熱くなりました。よし、私にできることがあればやってみましょう!


 見たところ妖精は居ないようでしたが、呼びかけてみることにしました。


「桜さん、妖精さん、いませんか?」

『……だぁれ?』


 弱弱しい声が聞こえたと思うと、桜の木に小さな妖精が現れました。まだ小さな女の子の風貌で、淡いピンク色のワンピースを着ています。だけど少し元気がありません。


「こんにちは。妖精さん、ローズ・アークライトと申します」

『ろ?』

「ローズですわ。──妖精さん、突然ですが、貴女の木がとっても弱っていますよね? 元気になるようにお手伝いしたいのです」

『わぁ、ありがとう! 枝が切られて痛くって、元気がなくなっていたの。たぶんおいしい土があれば、少しずつ元気になれると思うんだけど』

「では、私の魔法で土に栄養を足してもよろしいですか?」


 お爺様のほうを見ると、小さく頷きました。許可してくださったのだと判断し、土に魔法をかけます。花魔法は土属性の魔法。土の形を変えることや地面を揺るがす攻撃魔法などは全く使えませんが、こうして花に関係することであれば、土にも変化を与えることが出来ます。つくづく花関係にしか役に立たない私です。


『あーおいしい』

「切ってしまった枝の切り口も、保護魔法をかけさせていただいてもいいですか?」

『うん! 痛いところが剥き出しで、病気になってると思うの』

「分かりました。では病気が治るように元気になる魔法もかけますね」


 そう言って切り口に向かい、優しく魔法を展開しました。これで病気も治るはず。


『ありがとう! 今年はお花がたくさん咲かせられるように頑張るね』

「はい! わたくしもお手伝いしますね!」


 少しだけ元気になった妖精さんは、また姿を消しました。私はお爺様に向き直り、「今年はお花をたくさん咲かせたいとおっしゃってました」とご報告しました。


「……助かった。礼を言うぞ、アークライトのお嬢様」

「いいえ、お役に立てならよかったです。あの……」

「ジェームズで構わん。庭は好きにいじってよい」

「まぁ! ジェームズ様、ありがとうございます! うふふふっ! 嬉しい! アンナ! 聞きましたか? お許しをいただいたわ!」


 突然の私の興奮状態に、アンナもジェームズ様も驚き顔です。でもこの素晴らしい庭園を私もお世話できるだなんて、うれしくて飛び上がりそうだったのです!


 次の日から、空き時間は汚れても良いワンピースに着替えて、軍手を装着し、帽子をかぶって庭で作業するようになりました。早速現れた私に、ジェームズお爺様は呆れ顔でしたが、全然気にしませんよ!


「さぁ、たくさんお水を飲んで、元気に育ってくださいね」

『ありがとう!』

「いえいえ。大きく育ってくださいね」


 この庭園にいらっしゃる妖精さん達とも仲良くなってきました。もちろんデイジーもこちらにいます。私は大好きなお花や花の妖精に囲まれて、とっても楽しく過ごしています。


***


「ローズ様、お召し替えを」


 自室に戻ると、アンナが着替えを促してくれました。着替えていると、メイドのマリーさんが私が脱いだワンピースを持っていくところでした。毎日土をつけて帰ってくるので、お洗濯が大変だろうな、と思うと、申し訳なく、思わず呼び止めてしまいました。


「ま、マリーさん!」

「はい、お嬢様?どうされましたか?」

「いつもありがとうございます。これ、よかったらもらっていただけますか?」


 ミモザのお花。私が大好きな可憐なお花です。感謝の気持ちを込めて、マリーさんにプレゼントしました。すると、驚いた顔だった彼女の顔が一気に笑顔になりました。


「まぁ素敵なお花。ありがとうございます」

「こちらこそいつもお洗濯ありがとうございます。助かります」


 マリーさんはニコニコと笑ってうれしそうに「栞にして大事にしますね!」と宣言し、部屋を出ていきました。


 公爵家では貴族から使用人の方への贈り物は珍しいのかもしれません。使用人も家族同然だと育てられてきたので、線引きが難しいですが、喜んでもらえたようだったので私はとても嬉しくなりました。


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