後戻りしない気ですか
「では、婚約式を始める」
婚約式を仕切るのは新郎か新婦の父親が行うのが通例です。貴族同士の婚約の場合、爵位が上の家長が行うため、今回は前公爵様が取り仕切ってくださることとなりました。ちなみに神官様からは結婚式の際に祝福をしていただきます。
「ウィル、石と台を」
指輪の台座は午前にお店を訪れてから、そのままお互いの指にはまっています。
ウィルは、彼の瞳と同じ色の魔法石を手に取り、神殿に掲げました。
「誓いの言葉を述べよ」
「ウィリアム・エルフィストンは、ローズ・アークライトを将来の伴侶とし、守り支え、婚約を結ぶことを宣言する」
ウィルが高々に宣言しました。なんということでしょう。フルネームで呼ばれてしまいました。フルネームを名乗り、そして呼ぶことは、この国では大変重要な時にしか行いません。
神に誓う時、爵位を襲名する時、王の前で忠誠を誓う時くらいです。妖精との契約でも使いません!
結婚式でもないのに、フルネームを使用するなんて。後戻りできませんよ? いいんですか!?
そう内心で慌てながらも、震える手で私も自分の瞳の色の魔法石を手に取りました。
彼がフルネームを名乗るのならば、私も合わせなければなりません。
「 ローズ・アークライトは、ウィリアム・エルフィストンを将来の伴侶とし、守り支え、婚約を結ぶことを宣言いたします」
緊張しながらも、そう言い切ると、横からふぅと息を吐く音が。ため息ですか!?
そ、そんな、嫌なら言ってくださいよ! フルネームなんか使うからですよ! どうしよう泣きそうです。横を盗み見ると、ウィルの口元が少し弧を描いていました。ため息を吐きつつ笑顔? なぜ!?
もう~、全く分かりません!
前公爵様のご尊顔は逆光でよく見えません。私達、フルネームでやっちゃいましたけど、大丈夫でしょうか? 後方には両家親族がいますが、皆様も私達の宣言を聞いて、ため息をついてたらどうしましょう。ちょっと落ち込みますね……。あとでデイジーに癒してもらおう。
「では、石に魔力を注ぎ、台に石を固着させその誓いを強固なものにせよ」
考え事をしていましたが、そんな場合ではありませんでした。
前公爵様のお言葉で私は顔面蒼白になりました。私は魔法学園に通っている頃から、花魔法以外は本当に失敗ばかり。他の属性の魔法はもちろんできませんし、何かに魔力を流すのでさえ苦手です。こんな、石を台に固着させるだなんて! 花を咲かせる何十倍も難しく感じます。
急に青い顔になった私に気づいたのか、ウィルが小声で「どうした?」と聞いてくださいました。
「わ、わたくし、魔力を流すのが下手で……!」
こんなことも出来ないのかと、失望させてしまうでしょう。やはり王国髄一の王宮魔術師の嫁が、こんな出来損ないだなんて、婚約破棄になるでしょうか!? あああ、どうしましょう。どうお詫びすれば!?
「落ち着け。台座に魔法石を当てながら、石の中に花を咲かせてみろ」
そう言いながら、ウィルは私の手を取り、台座に彼の瞳の色の魔法石を当て、手をかざしました。
私の手に優しく温かい少量の魔力が流れてくるのがわかります。柔らかな光が二人を包みました。とても心地の良いふわふわとした感触です。
光が収まると、台座に魔法石が固着され、魔法石の中に白い小さな小さな薔薇が咲いていました。
「まぁ……素敵……!」
私の左手に、赤い指輪が完成しました。薔薇の台座に赤い宝石、その中には白の小さな薔薇。ステンドグラスからの淡い光に照らされて、きらきらと反射する様は見たこともないほどの輝きでした。
こんなに素敵な婚約指輪をする日が来るなんて……。
「さぁ、ローズもやってみるんだ」
不安になりながらもウィルの顔を見つめると、彼は優しく手を握って微笑んでくれました。確かに、「魔力を流す」と考えるよりは、「石の中に花を咲かせる」方が、まだ出来るような気がします。
私は彼の左手の台座に青の魔法石を当てました。
「ふぅ……」
深呼吸をして、青い宝石の中に、彼が咲かせてくれたものとそっくりな白い薔薇が咲きますようにと願います。すると、先程と似たような優しい淡い光が私たちを包みました。
彼の魔力と私の魔力が少しだけ混ざったような、不思議な感覚。彼と私が見えない深いところで繋がるような──。
恐る恐る目を開けると、彼の左手にも、青い指輪が完成していました。薔薇の台座に青い宝石、その中には白い小さな小さな薔薇。
「っ!! できた! できました! ありがとうございます! ウィル!」
思わず声を張り上げて喜んでしまいました! すると、ウィルの手が私の腰に回りました。急にかなり密着したので声をあげることも出来ませんでしたが、これは抱きしめられているのですね!
「これで君は私のもの。早く結婚しよう。ローズ」
耳元で呟かれたもので、もう私の心拍数は大変なことになりました。私達の周りに花が咲き始めます。止められません!
おほん、と前公爵様が咳払いされたので、しぶしぶといった様子でウィルが私を離します。
「これで婚約式を終了する。……羽目は外さないように」
苦言をこぼされ、私は俯いて赤くなるよりほかなかったのでした。
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