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ドレスを作っていただきました

 伯爵家に送り届けられた私は、午後から公爵家に訪問すべく、体中を磨きあげられました。

 先程の抱擁を思い出すと顔から火が出そうでしたが、メイドの皆さんが大慌てで準備していて、忙しくてそれどころじゃないのがちょうどよいです。


「公爵様ったら! もう少し前々からお知らせいただきたいものですわ! 午前は婚約式に備えてお嬢様を磨き上げたかったのに!」


 キィーと奇声でもあげそうな勢いで、メイドのアンナが怒っています。

 そう、驚くべきことに、今日は午後から両家顔合わせをしたら、そのまた婚約式もしちゃおう! という計画らしいのです! 急展開すぎて、理解が追いつきません……。


 アンナも予想外だったのか珍しく慌てています。まあ仕方がないですよね、私、お嫁さんじゃなくて花屋さんになる予定でしたからね。



 公爵邸に到着すると、豪華な玄関ホールにてウィルのご両親である前公爵様とカタリナ様が迎えてくださいました。


 両親とともに簡単な挨拶を終えると、カタリナ様が、ニコニコして私の手を取りました。


「ローズちゃーん! 待ってたのよー! さあ、あっちのお部屋に一緒に行きましょうねー!」

「カタリナ様!? えっ! あのその、ええっ!」


 いつの間に現れたのか、両脇に公爵家のメイドさんがいます! そしてカタリナ様が示す方へと連行される私。何が起きているのでしょう? 婚約式の前に嫁姑対決でしょうか!?


 連れてこられたのは、衣裳部屋。

 豪華なドレスが列をなす見事なクローゼットの先頭に、一際美しい白のドレスが飾ってあります。

 首元から胸にかけて見事なレース使いで、腰から下はふんわりと広がるプリンセスドレス。背中は大きく開いているけれど、腰に大きなリボンがあり、後ろもまたレースが贅沢にに使われています。


「ローズちゃんにドレスを作ったの! ダリアちゃんにサイズを聞いたのよ!」


 なんとお母様に? 昨日の今日で? もう昨日から疑問ばっかりで頭がパンクしそうです。

 でもこの美しいドレスが、私のサイズに合わせて仕立てられたことは、胸元を大きく隠す、流行とは異なるデザインであることから明らかでした。

 恐縮で言葉が出せないでいると、カタリナ様が優しく微笑みながら手を取ってくださいました。


「ローズちゃんを想って作った私渾身の一着なのよ。今日はこのドレスで婚約式をしましょうね!」

「……素敵なドレス……ありがとうございます……!」


 思わず涙ぐんでしまいました。こんなに素晴らしいドレスは、今まで着たことも見たこともありません!

 お花が大好きな私ですから、ドレスのデザインはお母様にお任せしてばかりで、今まであまり興味はありませんでした。

 だけど、いつか、素敵なドレスを着て、愛する人と婚約式が出来たら、と夢見たことはありました。

 嬉しくて、胸がいっぱいになりながらも、残る不安。私は気がかりなことを聞いてみることにしました。


「あの、でも……カタリナ様はよろしいのですか?」

「何がかしら?」

「私が、ウィルと婚約することです。ウィルは公爵家を立派に継いで、王宮魔術師としても活躍しています。容姿も教養も身分も、きっともっと相応しい方がいるのではないでしょうか」


 私の不安を感じ取ってか、カタリナ様は私の手をそっと両手で包んでくださいました。


「ローズちゃん、私ね、ローズちゃんが小さな頃から、貴女が大好きなの。お花の魔法も大好きよ。だから私は大賛成なの!嬉しくてたまらないのよ!」

「カタリナ様……」


 なんて有難いお言葉。

 でも、胸の傷を確認したら、婚約破棄を言い渡される気がします。

 そうしたら、このドレスも、この指輪もみんな公爵家にお返ししなくてはいけないのかもしれませんね。あぁ残念。


「少し気が早いけれど、私のことも『おかあさま』って呼んでちょうだいね! じゃあお着替えが終わるのを待ってるわ〜!」


 カタリナ様はお元気に衣裳部屋を退出され、残されたメイドさんと私は急いで準備をしたのでした。


 白のドレスに合うイヤリングも貸していただき、髪は頭の上に上品にまとめられ、私は無事婚約式にふさわしい姿に変身することができました。

 やっぱりお花がないと落ち着かないので、髪に白の小さなお花を飾っています。


 そして、公爵領の一角にある大聖堂にやってきました。ハレック王国の国民は必ず結婚前に、こうした大聖堂で婚約式を挙げます。

 それは、貴族も平民も関係なく、神官の承認の有無も関係ありません。互いに未来を誓い合うことが重要視されているのです。

 貴族に関しては、婚約式で互いの瞳の色や髪色の魔法石を贈りあうのが流行っているそうですが。


 さすが公爵領といった荘厳な大聖堂には、色とりどりのステンドグラスがあり、そこから入る日の光がとても美しく、神々しい雰囲気です。

 既に、前公爵様とカタリナ様、両親とお兄様が待ち構えています。そして、私と対のような白のタキシードに身を包むウィルも。


 ウィルの濃紺の髪に白のタキシードはよく似合っていて、長身の彼が着ると物語の挿絵から飛び出してきた王子様のような装いになりました。荘厳な大聖堂と一体化したような、神々しい姿を見て、私はこの景色を一枚絵にして壁に飾りたい、などと妄想を繰り広げてしまいました。


 ウィルは、私を見て驚いた顔をしたかと思うと、丘の上で見たあの甘い微笑みをくれました。


「……綺麗だ……」

「ありがとう、ございます」


 何が何だかわからず、混乱しながらも、憧れのウィルからの求婚に喜びを感じていたのは本当で。

 もしこの後婚約破棄されるのだとしても、彼の笑みをこの目に映せたことは、とても幸せなことだと感じていました。今、この瞬間の幸せだけで、今後どんなことも乗り越えていける気がしていました。


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