いつからですか
次に転移したのは、公爵の小高い丘。小さな草花が咲き誇り、木は丘の上に一本だけ。
公爵領の豊かな街並みが見渡せる、私の大好きな場所です。
幼い頃はレオンお兄様とウィルと三人でピクニックをしたなぁ。懐かしい思い出の大切な場所。ウィルも覚えていてくれたのでしょうか。
「懐かしいですね」
「あぁ」
短く私の呟きに応えたウィルは、優しく微笑んでくれました。転移した状態のまま景色を眺めているので、まだウィルの手は私の腰に回されていて、背の高い彼は私を見下ろす形になっています。密着度にドキドキしてしてしまいます!
思わず俯いた先に、自分の手が見えました。いつもと違うのは、薬指に光る、金の指輪。
「あ、あの……、薔薇の、台座……」
「ローズをイメージして作らせた。私と対になっている」
そう言って私の目の前に彼の左手が差し出されました。まだ魔法石のはまっていないその台座には、私のものと左右対称になった薔薇が彫られていて、大変美しい造りになっています。
「いつから準備されていたのですか? 婚約は昨日決まったことなのに……」
「気に入らなかったか?」
「いえ! あの! とても、素敵です……!」
むしろ、すごく気に入っています。私はお花が、中でも薔薇が一番大好きです。自分の名前と同じ花ですし、彼が好きだといっていた花でもあるから。もう覚えていないかもしれませんが。
この素敵な指輪に、他でもないウィルと、お揃いで、お互いの目の色の魔法石を埋め込む予定だなんて! 本当に婚約するみたいで、信じられません!
ですが、この婚約は、キズモノにしたことに対する責任感から決心してくれていたこと。
昨日思い付きのような演技をしてくださったのも、私が気に病まないように配慮してくださったのかもしれません。
「なぜ、そんなに浮かない顔をしている?」
「だって契約魔法で婚約してしまったら、本当に私と結婚しなくてはなりませんよ?」
婚約式をとても大切にする国民性から、婚約を覆すのはかなり醜聞を買います。
そのようなリスクを前公爵様も私のお父様もお許しになるはずもなく、婚約式を私と行ったと周りが知れば、結婚しなくてはいけなくなると思うのです…。
やっぱり婚約者じゃなくてもお胸を見せたらよかったのかしら。
ウィルを見ると驚いた表情をしています。
「ウィルは、わたくしの胸の傷を確かめたかっただけなのでしょう?」
「嫌なのか?」
ウィルは不安そうな顔で私の手を取り、「私と結婚するのは、嫌か?」ともう一度訪ねてきます。
顔が、顔が近い!
「嫌じゃないですけど!! わたくしは花魔法しか使えない、ただの、伯爵家の娘で……きゃっ!」
そこまで言った瞬間、ウィルに抱きしめられていました。殿方に抱きしめられるだなんて生まれて初めてかもしれません! 大きな胸板に、しっかりと抱き留められて、私は気を失うかと思いました。
そして抱きしめられたことで、その先はもう何も言えなくなってしまい、二人とも何も話さないまま、私は伯爵家へと送り届けられたのでした。




