ピッタリです
私達を包む光が落ち着くと、そこは見慣れた街並み。王都の大通りに来ていました。
そして目の前にあるお店が目的地だったようで、ウィルが手を引いてくれます。
重厚な扉を開くと、老齢の品のいい殿方が、待ち構えていたかのように腰を折りました。
店の中、というよりはお洒落な応接室といった雰囲気です。
「公爵様、お待ちしておりました」
「例のものを。……婚約者のローズだ」
ウィルが私を婚約者として紹介したことに驚きつつ名乗ります。
「ロ、ローズ・アークライトと申します」
「お初にお目にかかります。私は公爵家の方々と古くからお付き合いさせていただいております、ロバートと申します。この度はご婚約おめでとうございます」
ロバートさんは丁寧に私にご挨拶してくださいました。
「あ、あの、ありがとうございます」
「ほっほっほ。可愛らしいお方ですなぁ。公爵様がついにご婚約と聞いて、私は本当に嬉しく思います」
ロバートさんは店内の奥にある個室に案内してくださり、お茶を振舞うと、ここで待つよう指示され席を外しました。
そこで初めて、私は今日の目的が何なのかウィルに聞いてみることにしました。
「……あの……ここは?」
「公爵家が懇意にしている宝石商だ。婚約するのだから、契約用の魔法石が必要だろう?」
「え……あの、でも……」
この婚約は胸を見たら解消するんじゃないんですか……?
でも、そんな鬼畜な婚約破棄計画を店内で披露するわけにもいかず、私はうろたえながらも黙って座っていることしかできません。
我がハレック王国の婚約式には、魔法石が必須です。
金や銀の台座となる指輪と魔法石を用意し、相手の台座に自分の魔力で魔法石を癒着させることで、共に生きるという誓いを立てることとなり、婚約が成立します。
婚姻は国王に書類を出せば完了するので、この国では婚約式のほうを重要視するカップルも少なくありません。
私には縁遠い話だと思っていましたので、あまり詳しくはありませんが、名の知れた貴族になると、結婚式も豪華らしいです。
あまり間を開けず、ロバートさんが戻ってきました。
「お待たせいたしました。こちらでいかがでしょうか」
そこには美しい赤と優しい青のとても煌びやかな宝石が二つ。そしてその宝石を埋め込むのにピッタリな台座がついた、対の指輪がありました。
濃紺のビロードに乗った宝石達は店内の大ぶりなシャンデリアの光を浴びて、眩いばかりの輝きを放っています。
「公爵様の瞳の色、最高級のルビーでございます。こちらは、奥様の瞳に合わせて希少なサファイアをご用意いたしました」
どうして昨日の今日で瞳の色にピッタリの宝石が用意できたのかしら。ロバートさんは、すごい腕利きの宝石商なのかもしれないですね。流石、公爵家御用達!
「うむ、これをいただこう。台座は?」
「金でございます。こちらは、我が国一の技師が3ヶ月かけて作成いたしました」
「見事だ」
三ヶ月? あら、三ヶ月って言いました?
しかもこの台座付きの指輪、小さく薔薇の花が彫ってあるんですが……。
私の名前……なんて考えすぎでしょうか。昨日の今日でちょうどいいものを売っているなんて!
「サイズを魔法で調節させていただきますので、奥様の指に一度はめていただけますか?」
『奥様』という破壊的な言葉に衝撃を受けて固まっていると、ウィルが手を差し伸べてきました。
「ローズ、手を」
「は、はい!」
ウィルが優しく私の手を取り、するすると薬指に薔薇の装飾がされた指輪が入っていきます。
「ピッタリ……」
「これはこれは。サイズ直しは不要でございますね?」
「はい……」
指輪のサイズなんて測ったことないのですが、驚くほどピッタリです。もう抜けそうにない程、ジャストサイズなのですが……、これ大丈夫でしょうか。
私達、たぶんすぐに婚約解消するんですけれど……。
「では、奥様も公爵様にはめていただけますか?」
「……っ!!」
大きくて骨ばった男の人の手。お父様やお兄様の手だって、そんなに握ったことはありません。
ダンスの練習も女性の先生です。手を握ることすら緊張するような女だと知ったら、ウィルは呆れるかしら。
慌てながら必死に指輪をはめると、それは魔法で調節する必要もなくウィルにピッタリでした。
「ほっほっほ。こちらもピッタリですな」
穏やかにロバートさんがそう言うと、ウィルは満足気に頷き、「このままいただいていく。代金はあとで公爵家へ請求してくれ」と言って立ち上がりました。
ウィルは私の手を取り、ロバートさんに挨拶をすると転移魔法で店をあとにしました。
ロバートさんの「末永くお幸せに」というお声が、転移の直前に聴こえてきて、私は少しだけ胸がチクリと痛くなりました。
今日も読んでくださった全ての方に感謝します!
毎日更新いたしますので、最後までお付き合いいただけましたら幸いです!




