雪だるまの一生
ある雪の夜、一体の雪だるまが道端にいました。近所の男の子が作ってくれたようです。目には2つのオリーブ、鼻には人参、口元はりんご。頭には黒いバケツがかぶせられ、木の枝で作られた手には手袋がはめられ、首にはマフラーが巻かれていました。
そこに赤い服を来たおじいさんがやってきました。
「やぁ、雪だるまくん。わしはサンタクロースなんじゃが、ちょいと君のバケツを借りてもいいかな。さっき立ち寄った家の煙突のすすで汚れてしまったんじゃ。次に行く家に申し訳なくての」
「もちろん。どうぞ使ってください」
雪だるまは二つ返事で、バケツをサンタに渡しました。サンタはバケツを持ってどこかに行ってしまいました。
サンタがいなくなった後、トナカイがやってきました。トナカイは雪だるまの顔をじっと見つめ、お腹を鳴らしました。
「ねぇ、君。お腹がすいているのなら、僕の鼻をお食べよ」
雪だるまは言いました。トナカイはびっくりしました。
「お前、馬鹿なのか。見ず知らずのトナカイになんで自分の鼻をやるんだ」
「だって、君はサンタさんを運ぶんだろう?きょうはクリスマスイブだから、サンタさんを乗せる君が倒れたら、世界中の子どもたちが悲しむよ。それに僕はあと数日できっと溶けてなくなってしまうから、人参は必要ないさ」
「たとえ数日の命でも俺がお前の身体の一部を奪っていい理由にはならない」
「うーん、でも、僕は君のことをひと目見て気に入ったんだ。素敵な赤い鼻で、僕の人参の鼻とちょっと似ているから」
「俺はこの赤っ鼻をみんなに馬鹿にされている」
「どうして?とてもピカピカしていてきれいだよ。僕のは光ってないけれど、きっと美味しいと思うんだ。だから食べてよ」
「…」
トナカイは黙ってしまいました。そして徐に雪だるまに近づき、鼻をパクっと食べました。
「食べてくれてありがとう。お仕事頑張って。さようなら」
「馬鹿なやつ」
トナカイはそう言い残して、サンタの向かった方向へいなくなりました。
トナカイとは反対の方向から今度は旅人がやってきました。旅人は凍えていました。
「こんにちは、旅人さん。良かったら僕のマフラーと手袋を使いなよ。とっても寒そうだよ」
「ありがとう、心優しい雪だるまくん。じゃあ遠慮なく使わせてもらおう」
そう言って旅人は雪だるまからマフラーと手袋を取りました。
旅人が立ち去った後、同じ方向からウサギがやってきました。ウサギは何も言わずに、雪だるまの口元にあるりんごにかぶりつきました。
「わぁ、びっくりした。ウサギさんはお腹が空いていたの?」
「私もびっくりしたわ。あなたしゃべれるのね。とても美味しいりんごだったわ。ごちそうさま」
ウサギはそう言って、さっさといなくなりました。
すっかり夜がふけたころ、フクロウがやってきました。
「君の目がとても美味しそうだから、食べても構わないかい?」
「いいよ、その代わりに良かったらお日様が出てくる時間を教えてほしいな」
「おそらく、あと数時間後だよ」
「そっか、じゃあ僕はもうお別れだね。教えてくれてありがとう。どうぞお食べよ」
フクロウは雪だるまの目元をつついてオリーブをついばみました。
「そうだね、君はあと少しで溶けてしまうね。寂しいかい?」
「うーん、どうかな。最後にいろんな人や動物たちにプレゼントができて嬉しかったよ」
雪だるまは答えました。
「そうかい。ごちそうさま」
そう言うと、フクロウは東の空へ飛び立ちました。
◆ ◆
雪だるまはのっぺらぼうになりましま。夜が明けて、雪がやみ、太陽が姿をあらわしました。雪だるまはどんどん小さくなり、最後にほんのひと欠片だけになりました。
雪だるまはぽつりと言いました。
「本当はね、もっともっと皆と話したかった。でも仕方ないよね。雪だるまだもの」
そこへ、赤い鼻のトナカイがやってきました。
「やっぱり、お前は馬鹿だなぁ。最初からそう言ったらいいのに」
そう言うと、トナカイは黒いバケツの中に欠片になった雪だるまを入れて空に飛び立ちました。
◆ ◆
雪だるまは小さな形で作り直され、サンタクロースの家の前に立っています。クリスマスの時期が近づくと、木の枝と長靴で作られた足で歩いて、サンタクロースの仕事を手伝っているそうです。
「幸福な王子」と「赤鼻のトナカイ」への敬意をここに。