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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

月と白蝶

 儚く照らす月明かり、光は月明かりのみの暗い小屋の中僕は1人本を読む。


 これまで読んできた本は数しれず。


 別に読書が好きな訳では無い。むしろ退屈さえ感じる。


 それでも私が本を読むのはこれしかする事がないからだ。


 


 僕は今独り古びた小屋の中、キラキラと月明かりに照らされた埃と少々見える文字をひたすらに感じている。




 もう、幽閉されてから何年の月日が流れただろうか。もはや時の流れさえ狂ってしまったように思う。こうして、静寂の中独り居るとどうにも世界が静止しているように感じる。




 親の顔も兄弟の顔も自らの顔さえも忘れてしまった。ただひたすらに文字に溺れるだけの僕は果たして生きてると言えるのだろうか。




 ふと、そんな事を考えていると、1匹の月明かりに照らされて淑やかに光る白蝶が小屋のそこそこ大きな子供一人が悠々と通れる程の大きな木窓の縁に止まった。




 その蝶は僕を見つめ、何か言いたげな顔をしてヒクヒクと羽を動かす。




 いつもなら無視するこの光景、何故だろうか。もしかしたら白蝶の美しさに心を惹かれてしまったのかもしれない。


 僕は独り言ではなく、蝶に語りかけ始めた。




 「君は一体幾重の人をこれまで見てきたんだい」




 少し間を置くが当然返事など返っては来ない。


 僕はその普遍的な光景になんだか少しガッカリしながらも続けた。


「きっと同じ人間の僕よりも虫である君の方が沢山色んな人を色んな風景を見てきたのだろうな」




 「君はいいな。自由で、見ろ僕の事を。体中に見えない鎖が繋がってる。君とは真反対だ」




 「僕も君みたいに翼が欲しかったな。自由にあの綺麗な月の浮かぶ夜空を飛んでみたかった」


 そう言って僕は届きもしないのに、月に手をのばした。




 依然として白蝶は月に照らされるばかり、何もせず、そこにいる。




 「なぁ優しさとはなんだと思う。僕は己の持つ優しさを自信を持って生きてきたつもりだった。なのに、どれだけ人に優しくしようとも、誰も僕が本当に辛い時には優しくしてくれないのだ」




 「まったく、不義理な世界だ。本の中では冷たく生きる事が賢く生きる事で、人に気を遣うなどとは馬鹿のすることだと書いてある」




 「もしも、本当に世界がそうであるならば、僕はこんな世界要らないと思う。君には理解出来ないだろうか?まぁそれならばいいさ」




 強く優しく清く正しくあらねばと生きてきたが、それすら叶わぬ世ならば捨ててしまおう。




 私は蝶の立つ窓枠に立った。




 ひゅるりと冷たい風がさす。




 そんな僕の肩にあの白蝶が乗っかってきた。





 月明かりに照らされキラキラと輝く蝶を見て気づく。


 「あぁ、そうか。お前は僕の苦しみを終わらせに来てくれたんだね。ありがとう」





 そうして僕はその夜やっと自由な蝶になったのだ。





-終わり-

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