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私警察官。今、遺体の前にいるの。2



「この人に直接聞いてみる。とは?」



 ツキノさんの提案に、私は遺体に目を向けながら返します。



「うん。この人の霊に(・・)直接聞いてみるってこと。今ここにはいないみたいだから、来てもらわないとだけどね」



 はぁ……この男の霊を呼び出すと。そんな事、本当にできるのでしょうか?



「ホントに良いの? 先生。お願いできる?」



 コマツ部長が、すがるような視線をツキノさんに向けます。



「うん。ちょっと待っててね」



 そういうと、ツキノさんは遺体に近づくと、その頭に手を添えました。自らも目を閉じ、お経のようなものを呟き始めます。




「……あの人、何をしているんですか?」




 いつの間にか隣に来ていたハタノ君が、私に上目遣いを向けてきます。



「彼女――ツキノさんは霊媒師だそうです。被害者の霊を呼び寄せているようですが」


「霊? それって……信用できるのでしょうか?」


「幽霊は嘘をつけないそうですよ。けど、そうですね」



 ハタノ君の危惧は、私にも分かります。

 つまり、ツキノさんの狂言である可能性です。彼女はこれまで多くの民事事件を解決した実績があるとの事ですが、それを含めて真っ赤な嘘である可能性も―――と。



「…………っ!」



 突然、彼女の上体がカクンと倒れました。そのまま寝台にもたれ掛かり、膝をついてしまいます。



「……来たわね」



 コマツ部長が呟いた時、ゆらりと彼女が顔を上げした。その顔は、どちらかと言うと温厚そうに見える彼女本来のものとは、全く異なるモノだったのです。



『……ンだ、コレ』


「「「!!?」」」


 

 ギョロリと剥いた上目――黒目の大半が、目蓋の裏に隠れてしまっています。眉間に皺が寄り、目の端が鋭く釣り上がっています。



「タニオカさん、ね?」


『ぁア? ンだよサツかよ。確かに俺ァタニオカだけどよ、サツ何の用だァ?』



 コマツ部長の問いかけに、本来より数段低くなった声が答えます。……と言うか、口が動いていません。どうなっているのでしょうか?



『―――ア』



 彼女――タニオカを名乗った存在が、ふと横を向きます。自分自身であった遺体の存在に気付いたようです。



『……そっカ。俺ァ死んじまったんダっけか。なんか呆気あっけねェモンだな』



 そのように呟きます。表情そのものに変化はありませんが、物悲しい雰囲気を感じますね。



「この度はお気の毒様ね。誰があなたを殺したか分かるかしら?」


『アア。俺を殺ったのハ、ミキヤっつぅガキだ。『隠形おんぎょう』で上手く姿を消しちゃいたが、俺ニァ分かんダネ』



 犯人を尋ねる質問に、タニオカ氏はその名前を答えます。こちらの世界で『隠形』というのは個人の『異能』の一つであり、自分の姿を隠す事ができる力を指します。



「ミキヤ、ね。特徴は?」


『年は十四。男の割にはチビで、俺の胸元くれぇしか身長がねぇ。今は俺ンちに住んでいる。もともとァウチで金借りて返せなくて首吊ったバカのガキなんだけどよ。悪ィのは親で、ガキに罪はねェだろォ?』



 思った以上にスラスラ答えが出てきます。……コマツ部長が聞いてない事まで答えていますね。



「あなたが身寄りのない子を引き取ったって事? ヤクザにも、人の情があるって事かしら?」


『なんダそりゃ。まァ俺がカワイソウだと思って引き取ったのハ、そうダけどよ』



 タニオカ氏がミキヤ君という子供を引き取ったのは、彼の善意によるものであったようです。


 ……ならばなぜ、彼は殺されてしまったのでしょう? それも包丁で何度も刺されるよな、強い恨みを感じさせるようなやり方で。





『本当にヨォ……可愛がってヤったんダゼ。手塩ニかけてなァ……』



「!?」




 これまで無表情だったタニオカ氏の口角が、ゆっくりと吊り上がります。それは、酷く醜悪な、禍々しさを感じさせるものだったのです。


 ―――事実、次にタニオカ氏から語られたのは、ロクでもないものでした。



『ミキヤは初めて見タ時からタイプ(・・・)でヨ。飯食わせて寝静まっタ所で、暴れねェように手首縛ってヨ。んでもって白粉おしろいして、口に紅引いてやってヨォ』


「あんた……何をしたのッ!?」



 コマツ部長から悲鳴に近い声が飛びます。……この男、何を言っているのでしょうか!?



ナニ(・・)に決まってんダロッ! 俺も最初は優しくしてヤろうと思ったんだけどよ。嫌だとかヤメロとかヌかすから、頬を張ったらガタガタ震えてヨォ。可愛かったんダぜェ』



「何、言って」



『ンな恐い顔するなよォ。だってコレは、ミキヤのためデもあるんだゼェ。ミキヤだって独り立チするのニヨ、働けルようになんねェとダロ? 働かざるモノ食うべカらずっつうしヨ』


「それは……」


『ダから俺ァ、客ノとり方(・・・・・)を教えてヤったんだヨォ。手取り足取り、取りヨォ! ケハ、ケハッ! ケハハハハハハハハハハ』



「「「「ーーーーッ!!」」」」



 室内に、タニオカ氏の哄笑こうしょうが響きます。


 ……一体何が面白いと言うのでしょう? 聞くに耐えないとは、まさにこの事です。



『……ツーかヨ。俺ハこんな良くしてやったのニ、何デ殺されねェとイケねェんダ? アー、何かムカツイてキタ。ミキヤの奴もコロしてヤラんと気がスまネェ。……決メタ。八ツ裂キニシテヤル。オレノモノヲブチコミナガラ、イキタママ―――』



 パン―――と、音が鳴りました。


 彼女の両手が、自らの頬を張ったのです。






「…………サイアク」






「ツキノさん、ですか?」




 不思議と、彼女が戻って来た気がしました。


 完全に血の気が引いてしまい今にも泣き出しそうな顔ですが、焦点の合ったように見える瞳は本来の彼女の物です。



「トイレどこ」


「先生?」



 心配そうに声をかけるコマツ部長に、ツキノさんは吐くように呟きます。




「―――きもちわるい」


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