後日談196話、炎と水が合わさって――
まさしくドラゴンのブレスの如き炎の柱が、ミストのドラゴンブレスを相殺した。これにはミストも目を見開いた。
一方、涼しい顔で炎の守護者サラは、ソウヤたちを見つめている。
「我が槍の竜からすれば、今の攻撃は大したことがなかったな」
彼女はただ槍の穂先をブレスに向けただけであった。まったく動じることもない余裕の態度。これを見たソウヤは、彼女から底知れぬ強者の余裕を見た。
「妹たちも厄介だったが、彼女はその上なのが見ただけでわかる」
ソウヤは斬鉄を構えた。汗が額から滑り落ちる。これは緊張のためではない、周りの気温も上がっているのだ。
「あっつ……!」
ミストが苛立ちの声をあげた。彼女もまた竜爪槍を手に臨戦態勢である。
「正直、やりづらいったらありゃしないわ!」
「この程度の暑さで根を上げるのか?」
汗ひとつかかず、サラは冷ややかな態度を崩さない。
「所詮は、その程度だということだ。発火する前に大人しく帰るのだな」
「煽るのがお上手だこと」
ミストは薄く笑みを浮かべた。
「でも、あんたに近づきたくないのは本当ね。これはこれで参るわね」
暑い。炎の守護者自身がマグマのような熱を辺りに放っているのだ。チリチリと肌が焼けるような感覚に、ソウヤも顔をしかめる。
これはこれ以上前にでたら、ドラゴンであっても焼ける。で、あるなら――
「岩を飛ばすまで!」
ソウヤは斬鉄を地面に叩きつける。魔力が迸り、地が割れ、岩の塊が列をなして守護者に襲いかかる。
「どこかで見た攻撃だ」
ゆらり、ゆらりとサラは岩を避ける。さほど動いたようには見えなかったが、揺らめく炎のように、彼女に攻撃が届かなかった。
「そうだ、ノーマの奴に似ているのだな。お前は大地系の使い手か」
「……ひょっとしてオレ、滅茶苦茶相性が悪かったりする?」
ソウヤは、ジンを一瞥する。老魔術師は何事かを考えているようだった。この熱気に対する策だろうか、とソウヤは推測する。
だがそこへ介入者が現れる。
「あっちぃのだ。ソウヤ、ミスト、下がれ」
青髪ツインテール少女――アクアドラゴンが意識を取り戻して追いついた。水の守護者に後れを取った彼女であるが。
「火属性か。どちらが上か、ここで教えてやろう! 覚悟せよ、私は大海の支配者なり!」
アクアドラゴンがアクアブレスを放った。サラは感情のこもらない目でそれを見ると、槍を向けてファイアーブレスで応戦した。
ソウヤは目を剥く。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」
炎と水、それがほぼ同時にぶつかれば――
「爺さん! 防御魔法! 吹っ飛ぶぞ!」
それは勘であった。どちらかが圧倒的に強ければ、それがもう片方を飲み込む。しかしアクアドラゴンの圧倒的水量と、炎の守護者のマグマのような高温エネルギーがぶつかった場合に起こるのはおそらく、水蒸気爆発!
凄まじい爆発が起きた。ソウヤはとっさにアースウォールを自分とミスト、ジンの前に展開して壁を作る。しかし辺り一面を根こそぎ吹き飛ばし、洞窟通路の壁すら削る威力で空洞内がえぐられ、地形も変わる。
ソウヤはいつの間にかひっくり返っていた。やはりただでは済まなかった。とっさの岩壁ごときでどうにかなるものではなかったのだ。
全身が痛いのは吹き飛ばされた時に、体を打ちつけたのだろう。痛みを感じるなら軽傷だ。ジンの防御魔法がきちんと効果を発揮したに違いない。
「ミスト! 無事か!?」
「たぶん、生きてる……生きてるわよね?」
ミストの声が聞こえた。次にジンを探せば、岩陰から老魔術師が立ち上がるのが見えた。酷い目にあったものだ。
「アクアドラゴンは?」
ミストが言えば、ジンは答えた。
「気配は感じる。大方吹っ飛んだんだろう」
「はた迷惑な……」
「もともと、アクアドラゴンにとって閉所は相性がよろしくないからな。彼女が力を出すにはこの空洞は狭すぎる」
「確かにな」
ソウヤは立ち上がる。それでは仕方がない。
「爆発ってのは地形に沿って抜けるものだと思っていたけど……」
周りが抉れているのは、さすがに引いた。ジンは言った。
「地形に沿って抜けたから、アクアドラゴンは吹っ飛んだのだろう」
「クラウドドラゴンは大丈夫かな……。巻き添え食ってねぇかな」
「かもしれない。かなり広い範囲に衝撃波が飛んでいったからな」
老魔術師は頷いた。ミストは首を振った。
「でもまあ、あの炎の守護者も吹っ飛ばしたんなら、イーブンでしょうよ」
「へっくしょん」
可愛らしいくしゃみが聞こえた。見れば、ずぶ濡れの炎の守護者、サラが立っていた。
「寒い……」
次の瞬間、炎が吹き出たかと思えば、彼女を濡らしていた水分が一瞬で蒸発した。
「守護者を吹っ飛ばしたって?」
ジンが皮肉れば、ミストは肩をすくめた。
「吹っ飛んでなかったわね」
竜爪槍の穂先を守護者に向け、霧竜は不敵に笑みを浮かべる。
「でも、あの鬱陶しい暑さは吹っ飛んだようね! ナイス、アクアドラゴン!」
「……あれをやると腹が減るんだ」
サラは何でもないと言わんばかりに淡々と告げ、槍を構えた。
「炎を燃やすのもエネルギーが必要なんだ。この意味、わかるな?」
「だから何だ?」
ソウヤも斬鉄を握る手に力が入る。サラは、冷淡な目を向けた。
「だから、腹が減ったと言ったのだ」
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