後日談192話、大地の守護者
「あのコったら、また一人で勝手して……」
大地の守護者ノーマは、眼鏡をわずかに押し上げると小さく溜息をついた。
「まあ、いいでしょう。シルフィのやんちゃは今に始まったことではないし」
ドンと、巨大な戦斧を地面に叩きつけた。
「さあ、ここを通りたいのはどなた?」
重い――ソウヤの大地の守護者への第一印象はそれだった。体格はシルフィやディーネとさほど変わらないスラリとしているのに、何故かどっしりした印象を与える。鎧に隠れているが、胸部装甲が他の二人より大きいようにも思える。
「でかい……」
「ソウヤ?」
呟きをジンが拾ったらしく怪訝な顔をされてしまう。
「何でもない」
「言えよ。胸に目が言ったんだろう?」
老魔術師は、核心をついた。
「必要ない情報かもしれないが、胸のサイズは四姉妹一だよ、彼女は。次席はディーネ」
「その情報、必要か、爺さん?」
「知りたいんじゃないかと思ってね」
軽く冗談めかすジン。
「それで、誰が行くね?」
「彼女のことを知っているんだろう? オレが行ってもいいが、相性がよさそうなヤツが出て、さっさと神竜のもとへ行こうぜ」
水、風、大地ときて、四姉妹の最後の一人、おそらく火属性で、たぶん長女とも戦うことになるのだろう。温存策というわけではないが、まだ続きそうな展開なので、手早く終わらせるべきだ。
「君なら、いい勝負をするだろう。魔王を倒せる実力者だ。勝てるとは思うが、あまり相性がいいとは言えないな」
「見るからにパワー型だもんな」
あれだけ大きな戦斧を持っているのだ。あれをぶん回す剛力があるなら、豪腕でならすソウヤにも引けを取らないだろう。むしろ単純な力比べで守護者が上だったらどうしようというところである。
「彼女はパワー系と思っているなら、君は戦わないほうがいいかもしれない」
ジンは言った。
「彼女は物理攻撃系だ」
「……それ、パワー系とどう違うんだ?」
「戦えばわかるよ」
「それなら、ワタシがやるわよ」
ミストが竜爪槍を振り回し、前に出た。
「何となくだけど、ニュアンスは伝わった」
「もういいかしら?」
ノーマは薄く笑みを浮かべた。
「一応、ここの守備を任されている身だからね。あなたたちが善人だろうが悪人だろうが関係ない。大人しく帰るなら見逃すけれど、進むのなら……命はないかも、ね!」
戦斧を唐突に振りかぶると、ノーマは自身の得物をぶん投げた。まさかの投げ斧。ミスト、そして範囲内だったソウヤは回避した。
「っぶね! ……首がすっ飛ぶところだった」
とんだギロチンもあったものだ。
その間に、ミストは大地の守護者へ素早く駆ける。
「得物を放り投げてしまってよくって!?」
「よくって、よっ!」
丸腰に見えたノーマが片腕を頭上に掲げると、地面から光る石――否、尖らせたダイヤモンドの塊がいくつも飛び出してきた。
ダイヤモンドスピアー。まるで意志を持つ生き物のように、ダイヤモンドの塊がミストへと飛ぶ。まるでミサイルだ。
「それくらい躱してみせ――!?」
ミストは足に違和感をおぼえた。硬い地面だったはずが泥のように柔らかく、足がそこに突っ込んだのだ。
「私の属性は大地なのよ」
ノーマの右手は頭上、しかし左手は下、地面の方向を向いている。
「ここがむき出しの地面である限り、私のテリトリーでもある! 貫かれなさい!」
ダイヤモンドの槍が、ミストの体を貫いた。勢いあまって貫通し、後ろに飛び抜けるくらいに。
「ミスト!」
ソウヤは叫ぶが、ジンは冷静だった。
「大丈夫だよ、彼女は」
老魔術師は告げる。
「彼女はミスト。霧だからね」
すっと広がる霧。ミストだったそれが霧へと姿を変えて広がる。
「おっと、これは計算外……」
ノーマは眼鏡を小さく押し上げた。
「人にしては魔力や生命力が段違いにおかしいと思ったら、人間ではなかったのね。これは参ったわ……」
霧がノーマに迫る。さらに突然に竜爪槍が伸びてきて、大地の守護者は後ろへ飛び退きながら、アースウォールの魔法で石壁を作り、盾とした。
ガキンと金属と岩がぶつかる嫌な音がした。しかし次の瞬間、石壁は砕けた。
「しかも力もあるって、いやにスペック高いわね」
ノーマはそう分析する。そこにはすでに敵対の色がない。それを霧となったミストも感じ取る。
『あなたが、物理攻撃系だと言われた意味が何となくわかったわ。あなた、この状態のワタシを攻撃できる手段、ないんでしょう?』
「っ!」
『図星のようね』
「ああ、そうですよ、図星ですよっと。もう!」
苛立ちまじりにノーマはため息をつく。
「私の攻撃は、すべて衝突。当たる体がないアストラル体などには、この通り手も足も出ないってわけよ」
お手上げ、と肩をすくめるノーマ。
「ちなみに、あなたも私を攻撃できる手段、ないわよね?」
すっとノーマが地面に沈んだ。あっという間に大地に飲み込まれたように体が消える。
『地面の中にいる私を、あなたは攻撃できるかしら?』
『……』
『図星ね。フフ……』
やり返した気分なのか、楽しそうな声を出す大地の守護者である。
『なら、私とあなたは互いに攻撃できないから引き分け。あなたはここを通っていいわよ。でも――あとの二人は、黙って通すつもりないけれどね』
攻撃の対象が、ソウヤとジンに向いた。地面にいるノーマに対する攻撃手段がないミストは人の姿になるが、すまなそうに黒髪をいじった。
「ごめーん、ソウヤ。さすがにこの状態ではどうにもできないわ」
「とりあえず、突破おめでとう」
ソウヤは斬鉄を構える。こちらはミストのようにはできないので、地面の中のノーマを攻撃できない一方、向こうは下から突き上げやダイヤモンドを飛ばす魔法なので対空もできる。
「面倒な相手だ」
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