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ゼロ時空の魔術師  作者: 猫隼
1-1・過去の影
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7・大地の牙

-ーテザリナ軍兵舎-ー


 テザリナ軍の剣士団と銃士団は、それぞれ九つの部隊の他、独立部(どくりつぶ)という内部諜報機関を有している。


 アルヴィンは銃士団の独立部の幹部の一人。

切り揃えられた青みがかった黒髪に、猫目の青年。


 従者騎士団のミーカスとシトレナの会話を盗み聞こうと虫型のマシンを送ったが、見事に壊されてしまった時、彼は銃士団の兵舎の屋上にいた。


「奴らは危険な存在だぞ」

「メニミア」

アルヴィンは振り向きもせずに、その名前を呼ぶ。


 独立部の幹部仲間。

別に雨が降ってるでも、陽が照ってるわけでもないのに、傘を開いている女性。


「騎士団共なぞ、我々には関係なかろう」

「そうだな」

「騎士団でなくとも」


 理由を話す気はアルヴィンにはなく、メニミアもそんなことを期待していたわけではない。


「何が目的であれ、あんな奴らと関わってしまうことなら諦めた方がよい」

一応は、忠告をするメニミア。

「諦めてくれたなら、あるいは諦めてくれるならな」

そんな意味深な言い方をするアルヴィン。

「まったく、意味がわからん」

メニミアにはそうだった。



-ーハイジェンの北門-ー


 今度はルセルと共に、北門近くまで来たマリーとシャノン。

「ルセルのそれは、魔術武器(まじゅつぶき)なの?」

ルセルの大剣を指差して尋ねるマリー。

「ああ、これを俺に造ってくれた人はダイチノキバって呼んでた」


 優れた魔術師は呪文や儀式なしで魔術を使うための、魔術武器と呼ばれる特殊な道具を造ることができる。

それは武器自体に貯めたマナを、対応する感応数の者が自在に活用できるというもの。


 魔術武器は、感応数が対応している者でないとまともには使えない。

しかし、感応数を変化させれる魔女は、自らの高すぎるマナの影響により、それを使おうとしてもコントロールが乱れやすい。

また、武器同士の影響もあるので、複数の同じ感応数対応の魔術武器を併用することも不可能。

つまり、実質的に魔術武器は、必ず一人の者しか使えず、各自が使えるものはたった一つのみ。


「造ってくれたって、魔術武器を?」

マリーよりも、魔術に詳しいシャノンの驚きは大きかった。


 魔術武器は、自分の感応数と同じものしか造れない。

そして、魔術武器を造れない魔女が変化させた場合を除いて、同じ感応数を持つ複数人が、世界に同時に現れた歴史記録はない。 

つまり、他人の魔術武器を造れるはずがないのである。


「詳しい事は俺も知らないんだけど、特殊な技術を使ってるって聞いてる」

「その人って?」

マリーが聞く。

「もうずっと前に死んでる。そしてその人は、自分の持ってる技術全部、自分の命と一緒に失われるようにしていたから、もういろいろ謎のままだよ」


 しかし彼女はいなくなっても、ルセルの手元に武器は残った。


「けどとにかく、今はこれがあって助かる」

「それって」

改めて、その鞘に収まった大剣を見るシャノン。

「俺は魔術師でも魔女でもないし、今ある分のマナしか使えないけど、それでもこれはなかなか強い武器だ。たいていの敵なら倒せると思う」


 実際は、なかなか強いなんて、かなり控えめな表現だった。

ダイチノキバは、世界を滅ぼすための武器の一つとして造られたもの。

水、火、風、地、金、電気、虚空という、物質属性と呼ばれる自然界の性質の内の、地属性における最強クラスの兵器。



 北門前にいた数十人の中には、ルセルが知っている者も、ルセルを知っている者もいなかった。

マリーとシャノンには茂みに隠れてもらったまま、彼は一足先に平然と姿を見せた。

大剣はもう鞘から外していた。

刃はかなり荒く切れ味はかなり悪そうだが、実際にそれは斬るための武器としては全く使えない。


「ここを通る。邪魔しないでほしい」

剣の先を、地につける。

そしてルセルが通ると言った瞬間に、銃士団の何人かの銃口が向けられたが、別に彼は気にもしない。


「悪い冗談だよ、そんな事が出来ないのはわかってる」


(大地の手)


 まさに一瞬だった。

その場にいたほとんど全員、地面から盛り上がった土に手足と口を完全に包まれ、身動き出来ず、声も出せなくなってしまう。

弓をもっていた、右目の下辺りに逆三角の模様を描いているような男性に対してだけは、動きを止めない代わりに、スポーツで使うボール程度の大きさの岩を放ったが、かわされてしまう。


 早すぎるのか、何か特殊な仕掛けか、男はどこからも矢を取っていないようだったのに、弓を構えるのとほとんど同時に、矢を放ってくる。


「ルセル」

とっさに茂みから出てきたマリーだが、矢を目で追えても体が間にあわない。


 しかし余計な心配だった。


 飛んできた矢に操った岩を当ててへし折るルセル。

男はさらに連続して数本の矢を放ってきたが、ルセルは全て止める。


-ー


(地属性の魔術武器?)


 他に説明もつかないので当然だが、矢を放ちながら、男の方も感づいてはいた。


 さらにそこで姿を見せた、逃亡者を手助けしているらしい少女の方を見る。

魔術武器を使う少年の方も再度確認する。

その注意は、少女が現れてからもこちらに向いている。


(それなら)


 男は、一つの策を試してみた。


-ー


「マリー、そっち」

矢の放つ手の微妙な動きからルセルにはわかった。

男が魔術で、矢が途中で進路を変更するようにして、ルセルに放ったと見せかけ、マリーを狙っていること。


「うっ」

なんとか飛んできた矢を、剣で叩き斬って止めるマリー。


(しょうがないか)


 どうも、ルセルの予想していたより男は強かったようだった。

だから、もう使わないでおこうと思った武器のマナをもう少し使う事にする。


「落ちろ」

「ぐっ、あ」

急激に質量が増加した男の足元の土。

さらに、局所的に縛られたその重力によって、彼は地面に叩きつけられてしまう。


 ルセルはすぐさま、男が手離してしまった弓を適当に蹴り飛ばし、後は、ダイチノキバによる術を解除し、土の質量や重力を正常に戻す。



「なんで、俺も、他の奴らと同じように拘束しなかった?」

叩きつけられた衝撃の痛みをこらえながら、とりあえず体は起こした男。

「感じ的に、あなたがこの中で一番、階級の高そうな人に思えたから。それで、あなたは、名前?」

「ヴィクターだ、俺は。お前は?」


 別に、負けたのが悔しそうでも、強い痛みを与えられたことに怒っているのでもなく、今はただ、ルセルのことが気になっているようだったヴィクター。


「俺はルセル」

その名前を聞いても、特に何か感情を露わにしたりはしないヴィクターを確認してから、ルセルは告げた。

「ヴィクター、多分、剣士団所属の人だと思うんだけど、もしもエレオノーラという人と話ができるなら、なるべく早く伝えてほしい」


 その警告が、今、ルセルがマリーたちのためにとれる、おそらくは最善のことだった。


「俺の友達を見逃してくれるなら、俺はあなたたちに何もしない、てルセルが言ってたって」

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