テレビで言っていた。自分が人間だと思い込むペットが増えているらしい。
俺はキーちゃん。この佐藤家に飼われているペットだ。
テレビを観ると自分を人間だと勘違いしているペットが増えているという話をよく聞く。
全くもって愚かしい。全くもってバカバカしい。人間も問題だがペットも愚かしいばかりだ。
一緒に生活する中で、過度に密着しすぎると群れの中で自分自身を飼い主と同じ種族だと思い込むらしい。
ペットにはペットらしい扱いというものがあるし、それを越えてしまっては互いに歪んだ関係性になっていく。
俺と佐藤一家との関係は完璧な飼い主とペットだといえるだろう。
エサには不適切なものをあげてはならない。佐藤家の残飯程度で十分だ。
過渡なカロリー摂取はペットにとっても良くはないし、俺と佐藤一家との関係は万全。
寒すぎず暑すぎない寝床、好きなだけ眠っていられて飢えることがない住処。それが愛ある関係というものだ。過不足はどちらも良くはない。
しつけをしすぎるのも悪いことだ。俺と佐藤家のように走り回れる空間を与え、広々と生活させてやった方が良い。俺と佐藤家とは違う生物なのだから観ているものが異なるのが当たり前だ。
休日になれば追いかけっこ。俺が前を走り、飼い主の佐藤のお父さんがテンション高めに追いかけるのだ。中々にスリリングで楽しめる。
俺がペットでないなら掃除機は毎日掛けているだろうに、この家はなんと多くて一ヵ月に一度くらいしか掛けないでくれている。
ガスコンロの下にも飛び散ったテンプラカスや野菜クズが落ちている。
冷蔵庫の裏から中へ抜けるルートから、レタスの破片でビタミン摂取。
パラダイスだ。暗がりから抜けていくと、今日も佐藤家長女のミナちゃんが俺の名前を大声で呼んでくれる。
「お父さぁあああああん! キーちゃん出たぁあああああああああああ!」
「なにが出たってー?」
「キーちゃん! キーちゃんだって!」
「ああ、ゴキブ……」
「その名前を云わないで! もうGとかゴ……とかも云いたくないの! キーちゃん! キーちゃんで!」
さあ、飼い主さんの運動不足を解消に追いかけっこだ。
人間だと思い込むペットが居るというらしいが愚かしい。俺は何も勘違いしていない。
昆虫の中で最高峰の知能を持つ俺は、この佐藤家の大事な一員で、愛されているペットだ。
今日も飼い主の置いておいてくれた、床のかっぱえびせんがウマい。
最初は同じタイトルの全然違うオチだったんですが、諸事情から変更。
ペットの名前はそのときはポチでした。察せ。