#5 賢者殿は、訪問者にお怒りのようですよ。
ちみっこが村に出かけている間に、訪問者がいらしたようです。
色々思うところがあるようで、ちみっこ賢者様が少々お怒りになっておりますがどうやら手土産片手に
情報収集へ赴くようです。
「最近のお父様のご容体はいかがですか?ダン殿?」
レオが初めて訪れた異界の村あるディノート。村長の父親を治療したことで村との親睦が深まった。
「レオニード殿のおかげで、外に散歩に出られるまでになりました。」
「畑の方はどうですかね?」
前回訪れた際には戦後処理が進んでおらず、火薬で荒地になっていた畑を見渡す。
「まさか、残りの火薬が肥料になるなんて思っていませんでしたからね。」
「森でできた腐葉土も活用してもらっているみたいですし、あとは暖炉や焚火で出た灰を畑の土に混ぜて畑の質を安定させれば、もう大丈夫です。」
きれいに芽吹いた土地を見渡して、目を細める。
「まさか本当に魔の森に住んでるなんてなあ…。時たま売ってくれている肉の燻製も行商が買い付けにくるほど人気だよ。」
「お役に立てているのであれば本望です。燻製は簡単ですので、お教えしますよ。村が落ち着いたころに声かけてください。過度の技術のみの提供は文化の毒になりますが、燻製は保存食としても優秀ですし戦争が起きそうなのであればあえて干し肉を燻製にしておくのもお勧めです。」
「しばらくは戦ここいらで起きそうな戦はないと思うが、食料の備蓄はしておいて損はない情勢なのはたしかだしな。村の状況が落ち着いてきたら教わることにするよ。」
「そういえば…。なんで私情をダン殿に明かしたか?という質問に答えてませんでしたね。答えは簡単です。お父様の状況が良くないのにも関わらず、村の人がその事情は『具合が悪い』ということ以上の情報がなかったことと、戦後復興が遅れているといっても村が疲弊しているというのとは違う状態でしたから。私の思う”口が堅くて、信のおける人”という条件に当てはまったのです。」
レオの観察眼に驚嘆しつつも、あどけない表情に毒気を抜かれてため息をつく。
「まったく…お見通しってわけですかい。」
「わたしは何もです。」
ぽそっとつぶやいて目線を落とした。
「無駄な殺生は好まないのですが、この場合仕方ありませんね」
自分の家のご近所で複数の殺気と戦闘の跡が見られます。森を荒らされるのは心が痛むので、仕方ないので人に加勢して獣は保存食になってもらいましょう…。
腰の魔導書を開いて、ひとまずは使い魔を二人とも呼びましょう。
「ケット・シー!クー・シー!」
無詠唱での召喚ではあるものの少しは時間を費やします。
「レオ!」
「主!」
村から帰ってきたらこの状況だということを二人に説明します。ひとまずは獣を片して人がここで何しているのか聞き出そうと思います。
遠くで叫び声が聞こえてくるので少々急いだほうがいいようですね。
クーの背に乗って、気配のする方へと急ぎます。
「ケットとクーは一応口は閉じていて。信用できる人間かどうかわからないから。」
「了解!」
現場に到着いたしました。現場には大きな猪と数人の人間、見たところ騎士と貴族風のお召し物を着た男性。
ケットが真っ先に飛び出していき、猪の目をつぶしています。クーは巨体を転がし、ひとまず人の安否を確認。
「ふたりとも離れてください。”巴炎法 第三陣”」
魂から紡ぎだした無属性の攻撃巴導術で、猪の心臓を貫きます。
「大丈夫ですか?こんな森の中にそんな革の鎧で何をしに…?」
私の目には見覚えのある家紋が飛び込んできたが、件の王子ではないことは明白です。
「無謀にもほどがあります!」
幼児にしかりつけられている中年男性というのも見目に珍しい。
「大体…連れている騎士も何で革の鎧に戦用の大槍なんですか…。」
「…面目ない上返す言葉もない。」
けが人以外は外に出てもらい、パーティの中心人物と思しき男性と話をしていた。
「この家紋をお持ちといういことは件の王太子殿のお国の方であるとお見受けいたします。何故このような無謀なことを…、王太子殿にも全く同じような説教をさせていただいたのですがご本人から何も話は聞いていないのですか!?」
レオにしては珍しく、丁寧口調のまま語気を荒げる。
「殿下からはそっとしておくようにと仰せつかりましたが…。」
「が…。何ですか?国の重臣が、主の忠告に歯向かったと!ケット、王太子殿のところに行って報告してきてください。」
レオの言葉にハッとして首を上げる。
「何ですか?まずいのですか?」
ギロリとにらみを利かせ、次の言葉を遮った。
ケットはいたずらに笑いながら光に溶け込むように消えていく。
「どうしても知りたかったのです…錬金薬について。」
「やはり…あの薬を王太子殿に渡したのは間違いでしたね。」
「いえ!王女を救っていただいたことには大変感謝しています!」
「王女は国の存亡には直接かかわらないからと命を軽んじた発言をされたと王太子殿は申しておりましたが?それについては異議はございますか?私はここまで妹のために薬草を取りに来た王太子殿に敬意を表して薬を渡しました。これは私の自己中心的な善意だったので、あの薬の技術自体はこの国には毒だったようですね。」
普段は幼児にしか見えないその躯体がいつもよりも大きく感じるほど怒気を含んでいる。
許せないのは、技術が知りたいのであれば信を得た王子を説得してレオに接触すればよかったものを説得が得られなかったからといって力づくでかなえようとしたこと。
「本当に、面目ない」
「家に居るか居ないかもわからない状況だったとおもいます。盗人にでも入るつもりですか?錬金薬を?」
「そんなつもりは…!ただ、殿下に話をしても断られるだけで」
「時間をかけて説得すればよかったのでは?少なくとも、王太子殿には我が家へいつ来てもいいと申し上げてありました。」
大の大人がどんどん小さくなっていく。
「もう二度とこんなことはしないでください。一人で死ぬのは勝手ですが、騎士の方々にも各々人生があることを努々忘れぬように!」
「はい…。」
腸は煮えかえっている。護衛連れてまで森に来てそのうえ運悪く巨猪に見つかり、レオたちが加勢しなければ確実に死んでいたであろう状況だった。
「錬金薬についての出どころですか?おおよその情勢は把握しておりますので、帝国の動きに対しての備えとして治癒、回復系の錬金薬などのレシピについてでしょうか?」
ハッとしてレオを見据える
「我が国の実状は少なからずご存知かと思いますが工芸に難があり、素の材料を輸出して国益を得ておりました。帝国側から武器や防具、錬金薬などを輸入することでうまく関係を作ってきたのですが。最近になって帝国側が輸出について規制をかけ、買い付けられる量が減り物価が高騰しております。武器や防具などは、ドワーフの民に精通しているものがいるため徐々にではありますが国産のものが出来上がってきました。ただし、錬金薬に精通するものはおらず、このまま戦になれば多くの国民が犠牲になりかねない状況です。」
「輸出制限…?それはもう、戦の狼煙ではないですか?」
「そうです、誠に恥ずかしながら焦りからこのような行動に出てしまいました…。」
「この森がどの国にも属さない不可侵の森であるのはご存知ですよね?私は王国に何の借もありません。私はここに住んでいる限り、貨幣といういものが必要ではないのです。錬金薬の製作は自国で賄っていただきたい。」
「・・・・・!」
「国の状況には同情しますが、長い間工芸について国が軽んじていたことは国の責任ですよ。」
自分は国にはかかわるつもりはない、どこか一つの国に加担すれば均衡は一気に崩れてしまう。
「ただ、努力するということならば手助けしましょう。錬金薬を作るのに必要な知識と技術は提供できます。」
「ありがとうございます…!」
うなだれる大人が涙声でうなずいている。
「少しでも不穏な空気があれば、私の護衛が黙ってないので変なことは考えないようにしてくださいね。」
レオの影からぬッと顔をだすクー。
「これからお教えするのは初歩、錬金の基礎です。王太子殿にお渡ししたレベルの薬が作れるようになるには20年かかると思ってください。」
護衛の騎士たちの様子をうかがうと首を横に振られた、本人たちも上役には逆らえないので異議はあったが仕方なく護衛に当たったという感じが空気から読み取れる。
「王宮の騎士も大変ですね、みなさん貴族階級の出でしょうに…。」
レオの呟きが虚空に消えたころ。ケットが王子のところに到着し、事の次第を伝えて激怒していたというのはまた別のはなしである。
「さて、錬金術を使用するにあたり私は魔導具を使いますが、これは巴導術式が使える場合のみ使用できる特殊なものなので魔力を媒体に魔導術が使える方はどうぞそちらを使ってください。」
「一つ…ハドウジュツシキというのは…魔法とはまた違うのですか?」
「私の一族では魔法といういのは魔力を媒体に祝詞を介して使うもので、魔導術とも違う漠然としたものという解釈です。
巴導術式とは魔力のない小人族が編み出した己の魂を媒介にした内なる力を外に発揮して他者に影響を与える術式。簡単に言うと己の魂の力を根源に陣を使って、魔導術を再現するというニュアンスです。正確には全く同じものという言わけではないですが…
1に通ずは己が巴2に通ずは己と他の巴3に通ずは己と他を介した強度1の力…図式の角は魂の発現強度を表します。
3以降は4、5、6、7、8、9、10と続きますが…使用者のレベルによって発現度合いがちがうのでどれが正解という意解釈は持たないほうがいいです。
1では個のみ、2では個と他を結ぶのみ、3は個と他を結んでできた力の強度1の発現。
陣式の解釈は以上です。
ですが、1は個、己の魂と申しましたがこれは妖精との契約が前提です。妖精とは、己の魂の具現化です。魂の輝きが強ければ強いほど、より強くイメージのハッキリした妖精と数多く契約することができます。契約とは、己の魂に妖精を住まわせること人族の言い方をすればこの場合、契約とは命の共有つまりは自分の魂を贄に妖精を召喚するということです。
自分の魂との契約故に1と定義されます。
長寿命の種族にしか向かない術式ですが、魔力の宿らない小人族にはなくてはならない術式です。」
「興味をそそられる術ではありますが…魂を贄にというのが少し引っかかりますな。」
「基本的には長寿な種族にしかおススメできないですね。人族が使った例がないので何が起きるか私も知りません。」
難しいうんちくをすらすら話しているが、大臣以外は理解が追いついていないようで首を傾げたりお互いに顔を見合わせたりしている。
「錬金術というのはこの地にもあるようですが、レシピ自体は存在しているもののその製法は口で伝え聞いたものを代々作っているということを村の長から聞きました。」
「そうです。具体的には魔法を齧った者が、魔法師になるべく勉強していく際に使う参考文献の一部に載っているおまけ程度です。その参考文献が引き継がれている状態です。」
ふむっと鼻を鳴らしてこの土地全体に根付いている錬金術、薬術についての問題点を頭の中で整理していく。自分が提示していい技術というものはどれくらいであるのか。
そもそも、この地の文献とは?印刷技術とは?とういった部分もひっかかり、急いては事を仕損じると改めて自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「薬草一つとっても扱い方は様々あります。」
「様々とは?」
「干した薬草を使うという場合も使い先は様々で各々効能がちがいますから。砕いた後油脂などに混ぜて外用薬にする、湯にくぐして茶とする等など。この地で何が一番使われているのかわからないので、できれば国で保管している錬金の本や、多く出回っている錬金薬を見せてもらいたいですね。」
ここは、情報をたくさん得る機会ではあるまいか?乗じて国の保管文書について明言してみる。影の中でクーがニヤリとしたことを知っているのはレオ以外わからないが、国に加担するというい状況を避けるために一言物申しておいたほうがいいと念をおした。
「錬金術をお教えするのは構わないのですが、先に申し上げた通り過ぎたる技術は国の毒となりうるものです。一度王都へお邪魔して、国の保管している書物を閲覧させてもらえないでしょうか?王太子殿にもご挨拶したいので。」
レオが大臣の虚をつく提示をしたころ、ケットが窓際に戻ってきてレオの思惑を読んでかニタニタ笑い楽しそうにしていた。
次回はちみっこ邂逅編。




