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#3賢者殿は、外界との交流をお望みのようですよ。

森暮らしのちびっこがちょっと過去に浸ります。

 人生とは、死ぬまでの道楽である。

 かの御仁はそれを信条に森の一部になるまで研究に没頭した。

 かの御仁が森の一部になる前に、その道楽は彼女の手に渡ることになる。


「どうしたんだ?ぼーっとして数式でも計算し間違えたか?」

 ケットのおちゃらけに少し表情が和らぐ。

「私にとっては少し前のことだけど、数えてみるととても長い年月なのだなと。」

「吾輩たちは主の使い魔故、主の魂の密度は誰よりもわかっているつもりです。主の魂は他の小人族とは比べ物にならない。」

「じい様にもそれはよく言われたよ。そのことを少し思い出していたんです。」

 それは、彼女が”世渡し”するずっとずっと前のこと、小人族の住まう森で師事した一人の小人とのこと。

 小人族は長寿であるが故、他の人族とはちがい繁殖という概念がないため人間からは『妖精』と分類されることが稀にある、それに起因する要因の一つとして、女の小人族は自分の魂を分裂させて子孫を増やし、男の小人族は森の命を保つために寿命とともに樹に帰る。そして女の小人族は分裂期を迎え魂の灯が消えるとともに土になる。

 男が森を作り、女が森を肥やすというのが小人族の中での一般的な生死である。彼らの概念としては『死ぬ』ことと同意ではないが意思を持たなくなることを『死』とくくるのであればそれはやはり寿命ということにほかならない。


「この出来損ないどもが!汚らわしい!森の民たる我々と同じ土を踏むとは!」

 ハイエルフたちは自分たちが森の民であるということが誇りである。その森を作っているのが長い年月を生き抜いた小人族のそれであるとは知らずに、彼らを弾圧し侮辱した。

「別な森に棲んでいるのだからわざわざ川を渡ってまで嫌味を言いに来なくてもいいと思うんじゃが?」

「黙れ!”精霊の忌子”が!」

「ほっほっほ!どっちが忌むべき存在かわからんのう」

 全く相手をしないで軽口をたたくのは見た目は少年のそれだが口調は長年生きた老人のようである。

「わしらはわしらの理で生きとる、わざわざ不可侵の領域を冒してまでなぜこちらに口激しにくるのかようわからんの。」

 老人の軽口に勢いを失ったハイエルフたちが遠ざかっていく

「今度来るときはいい酒でももってくるんじゃな!」

 手に持っていた杖をぶんぶんと振り回し、ハイエルフが去っていく方向から目線をもどした。

「さてさて、レオニード。女子の顔に石をぶつけるなどなんという下賤の極み。まったく血の気の多い若いエルフ連中は面倒じゃのう」

 そう言いながら、痣になってしまった目の下に指先を当てる。

「じい様、治癒は大丈夫ですよ。痣にはなっているとおもいますが、すぐに治ります。」

「女子の顔に傷を残しておくのは忍びないのじゃ、勝手にやらせておくれ。」

 指先に光が集中して徐々に赤みがひいていく。

「森とともに生き森を育みその恩恵を受けていることには変わりないのですが、なぜそんなに忌み嫌われねばならないのでしょうか。」

「わしらは魔力を持って生まれるものは稀じゃ。見鬼の才を持って居るものも稀。その違いを受け入れてお互いを尊重しあうことを森は望んでおるのじゃが、どうも彼らのプライドがそうはさせてくれないようじゃの。」

「共存とは難しいものですね。」

 眉を下げて悲壮な呟きは森に吸い込まれていく。


 「この地には、ハイエルフ族、ダークエルフ族、獣人族、人族 がいることは確認できたけど 小人族はいないみたいだなー。」

 使いに出されていた間の情報収集の結果について白猫が器用に紙束に書き記していく。

 「資源についても土地によってばらつきがあるようでした。工芸についても同様、防具や武器、アクセサリーなど金属を加工する工芸については先日の王子の国を例にとるならば、自国生産ではなく完全な輸入。関税もかかるため、冒険者等には住みにくい状況。逆にこの森から南西にあるファルファリア帝国は工芸はさかんでしたが、土地が痩せているため素材はすべて輸入しかし工芸に特化した国なため国力としては大陸の中で一番ではないかとおもいます。」

 犬が喋り、猫が書き記し、主が情報の大筋をまとめて頭に入れていく。

「なんともアンバランスな世界ですね。色々な理由で人同士の戦が起きそうです。」

「ここは以前の世界と違って、人自体の脅威になる宿敵がいないからいつバランスが崩れて下克上になってもしかたないな。」

「しかも国家間の移動手段が馬か徒歩とは…。天災で輸送路が乱されたらそれだけでも一大事ですな。」

 報告を聞きながらため息をつく。

「人同士、国同士の戦…不毛ですね。人も、動物も死ぬ。死という概念から遠い私でも、何も残さずに死に至ることは気の毒に思えます。」

 ランタンの明かりに呟きが吸い込まれていく。

「共存…。」

 お互い相容れぬ立場だとしても妥協点を見つけてうまく折り合いをつけていた世界。今いるこの地においての妥協点はどこなのか、大きな戦が起きたという話も近年は無いという。

 いつか貿易が国の軋轢を生んで、細い糸で結ばれた共存共生という関係が崩れてしまうような予感がする。人は欲深い、国が傾くのは実権を握るものの手腕そのもの。

「今はこの地を知ることが第一でしょ!おれは、レオには便利な魔導具の研究で食事忘れるくらいがちょうどいいと思ってる。」

「ふふ。ケット、ありがとう。起きてもないことを心配するよりは、今は自分の心配をした方がいいってことですね!」

 首を縦にふる、白猫と一角犬

「ふむ!では!反射炉の改良と、焼き物用の窯の改良をすすめましょう!」


「急な技術革新は、毒になるんじゃよ。」

 アダマンタイトと呼ばれる硬質な金属に錬金術で作ったインクで陣を描いていきながら老体はそう話した。

「毒?」

「なんの苦労もなしに、巨大な力を手に入れるということは前後の弊害がわからぬということじゃ。」

 話をしながらも手元はテキパキと作業を続けている。

「生活を便利にしようとおもって作ったものも、つくった意図や苦労がわからなければ兵器にされてしまうかもしれん。」

「戦争の道具も、元を正せば人の富の為だったということですね。」

 小人族の技術は、森の外の文明よりも数歩進んでいると老体は話す。欲にかまけてそれを無防備に外の世界に持ち出せばそれがさらに良くないことに使われるということを危惧している。

「うむ、じゃからの。わしが教えたことはすべての工芸技術に応用できるとともに、身を守る以上の武器にもなりうるという言ことをよく覚えておいてくれ。」

 調理であれば、炎の魔導具そこから強大な兵器が作れるという話はやぶさかでもない。

「鍛冶であれば、炎だけではなく鎚には非力なものでも金物が鍛えられるよう特殊な巴導陣が施されておるしどれも使い方を間違えれば、平和を脅かす武器に様変わりする。」

 それが身を守るのに必要なのであれば仕方がない、自分の身を守るために使うのであればそれはよし。だが、それはそれ以上になってはいけない。

「わしはもうすぐ森に帰る。その時までレオニード、お前に技術のすべてを託す。そこからまたお前が技術を磨いて少しずつ外の技術を育てていくんじゃ。大きく突出したものを突然世に出すことはしてはならない。お前が森の土に帰るまでゆっくり育てていけばいい。わしらの持っている道楽の時間は無限に近い、いかにそれを意味のあるものに費やせるか…それだけじゃ。」

 自分を低く評価することも高く評価しすぎることもあってはならない。相手を侮ってはならない、相手を上辺だけで憎んではならない人となりを知ってから相手を評価する。

「まぁ20年以上人の世界で上位戦闘職を収めたお前さんなら、こんなことは言わんでもわかっとるやもしれんがの。職人の道といういのは終わりがないんじゃよ。だからわしらの道楽としては一番良い選択じゃないかとわしは思う。」


「急に高度な技術を持ち込めば、この世界を壊しかねない…か。」

「…?どうしたんだ?急に。」

 ぽつりと、つぶやいたレオに白猫は怪訝そうな声を上げる。

「森の外の人と、そろそろ関わろうと思うんですが…この世界の技術的にどうやってかかわっていけばいいのかなと。」

「たしかに…獣の評価が武器をもった人よりも上というのもありますし。工芸の技術についても元の世界よりも劣っている。」

「あ、でも私何も考えずに王太子殿に錬金薬渡した…。」

「あ…。じゃあちょっとその反応を見ながら、病気で困ってる村でも探して賢者活動ってのはどう?錬金の薬なら調節も利くし。」

「一粒の水滴からどれほどの波紋が広がったかわかりませんからね。しばらくは”森の賢者”らしく暮らします。」

「それは…どこぞの猿人の通り名では…」

「・・・・。」


 彼女のもたらした一滴の叡智が安穏とした森から彼女を引っ張り出すことになることはまだ誰も知らない。

次回。ちびっこが街にでる!

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