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#2賢者殿のマイホームにご来客のようです。

どこかの国の王子が来客です。よく聞くあの花がないと死ぬって言われて旅立ったパターンのやつですね。

ちょっと色々認識と経験不足で、倒れていたところを賢者殿に拾われたみたいです。

「幼女⁉」

「失礼ですよ!まぁ、慣れた反応ではありますが。」


 私の名前はクリスティア・ロナウデス・ディクトリア、ディクトリア王国の第一王子だ。私は妹にかけられた呪いを解くために、『神樹の花(ルーファ)』という薬草を探し”魔の住まう森”にでかけた。

 ”魔の住まう森”通称魔の森はこの大陸にある5か国で締結された条約の下不可侵の森、どの国にも属さぬ場所。その代わり討伐や採集などは自己責任で自由に行ってよい場所となっている。

 魔物も多く、人など住んでいない場所とされ未発見の植物や鉱石なども数多く眠っているとされていたが…。今、私の前にはその常識を覆す状況が起きている。


「急に起き上がると、眩暈でまた倒れますよ。」

 2匹の使い魔に下がるように言いつけて、レオが食事の乗ったトレイを持って部屋に入る。

「私は…?」

「栄養失調でしょうね。倒れていたので…拾ってみたんですが、ご迷惑でしたか?」

 動物を拾ってきて動物本人に意思確認というのもおかしなはなしだが、目の前にいるのは人族の人間。

「いや…礼を言う。」

「自己紹介をしてませんでしたね!私はレオニード・D・リオンこの森に住んでいる小人族です。レオとでもお呼びください。」

「私はクリスティア・ロナウデス・ディクトリア…魔の森に幼女が一人で暮らしているなんて聞いたこともないのだが…?」

「幼女…?」

「違うのか?」

「少なく見積もって、(よわい)を最後に数えたのは40くらいでしたが…。いまはいくつか正確には覚えてないですね。」

 首をこてんと傾けて難しい顔を作って見せたレオ。

「見た目は4歳か5歳かそれくらいの幼女にしか見えぬのだが…。」

「小人族はそういう種族なのです。見た目は4~6歳程度で成長が止まりそれから最低でも300年近くは生きます。最長は2000年という記録もあるそうです。まあ、この地には小人族は私しかいないようなので幼女呼ばわりされるのも致し方ないかとおもいますが。」

 見目に合わぬ喋り方で自身のことについて説明する。”世渡し”についてはあえてここでは触れない。

「貴方は王族か貴族か何かでいらっしゃいますか?森が長いので世間には疎いのです。」

「私はこの森よりも南にいったディクトリア王国の第一王子だ。」

 ふうんと含みを持たせてうなずくと、トレイに入っているスープを渡す。

「なぜ王太子殿が護衛も連れず一人で野垂れ死ぬようなマネをしていらっしゃるのですか?」

「誰もこの森に入ろうとしないからだ。妹の…王女の命がかかっているというのに…。」

 またもふうんと鼻を鳴らして、客人の方をじっと見る。

「なぜ森に入らぬのですか?」

「この森に棲んでいて、危険を感じたことはないのか?」

 ちらりと窓の外に目線を動かすと眼下には緑が広がり頭上には鳥が舞う。

「危険とはなぜでしょう?」

 さっぱりわかりませんという声色で事の状況に疑問を呈する

「ある程度の剣術や武器などの技術をもってすればそこまで危険な森ではないと、認識しておりますが何か相違がありますか?」

 レオの言葉に耳を疑う

「強力な魔物が多く徘徊し、利を狙った冒険者が数多く死ぬ森だぞ。」

「はて…?強力…な魔物?」

 心当たりがございませんというように受け答えをする。彼女には自身が築いた城が危険な場所にあるという実感が全くないようである。

「大きく…狂暴でその身に魔力を宿した獣だ。」

「衣食住の為の狩りで狩るためには探しますが…襲ってはこないですよ?」

 再び首を傾け、王子の言っていることがわからないというように眉間にしわをよせる。

「…ああ!たぶん私と獣たちのレベル差がありすぎて襲ってこないんだとおもいます。」

 ひらめきとともに明るく王子に向かって口を開くが、その言葉に驚愕を隠せないでいる。

「レベル差⁉ここの魔物たちは少なくとも30以上あるはずだぞ!」

「30なら、私は襲われないですね~。」

 クスクス笑いながらぽかんとした王子から空になったスープの皿を受け取る。

「私でお力になれるかわかりませんが、お話を聞かせてもらえますか?ケガの治療代は情報と交換ということで。」


 この地にも個人のレベルやスキル差ステータス値というのは存在するようです。ただ、一定条件がそろわない限りレベルは頭打ちになってしまうとのこと。一般的に強者とされるものも30付近だという、それゆえこの森に生息する獣達からは見下されており襲われるというのが現状のようです。自分のレベルは王太子殿には伏せますが!

「君はレベル30を優に超えているのか?」

「ええ、個人情報なので具体的なステータスは伏せますが。大分昔に超えてますね。」

 王太子の呆れ面というのもレアですね。

「私の話はどうでもいいのですが、なぜ自分のレベルに見合っていないこの土地に()()()王太子殿がいらっしゃったのかが気になります。しかも栄養失調な上にケガによる貧血にまでなって。…国の存亡にすら左右する方が護衛も付けずこんな軽装備で。」

「私には妹がいるんだ、妹にかけられた呪いを解くために薬草を探しに来た。」

「呪いを薬草で…?」

「妹は、とある貴族からの求婚を断ったのだ。それの逆恨みに呪いの魔法をかけられた。かけた貴族は魔力持ちで禁術を持ち出したらしい。この森にあるという『神樹の花(ルーファ)』という薬草でしか解呪が不可能なんだ。この大陸中どの森でもなく、この森にしかない。それを探すために私はここまで来たんだ。」

「失礼を承知で申し上げますが、生えている領域などの下調べはされたのでしょうか?この森はご存知かと思いますがこの大陸の中央で5つの国に面している途方もない広さです。勘だけでどうにでもなるようなものでもなさそうですよね?生育条件、過去の発見例そういったものは調べていらしたのですか?」

 ご親族の命の危機で精神的に追い詰められている人に対してこういう物言いは残酷かもしれませんが、無知がすぎればミイラ取りがミイラになるのです。

「・・・・・・・・。」

「図鑑や、文献の挿絵だけで植物を探しに来たというのであれば、それは愚者ですよ。自分の命がどういうものかわかっていない貴方ではないとおもいますが…。」

「私は次期の王だ。だからと言って…血のつながった親族の命が尽きるのを見て見ぬふりはできなかった!家臣や王宮の魔法師たちにも止められた近衛騎士ですらこの森には匙を投げた。

命が尽きるのが私であったのなら国の軍ですら動かして薬草を探しただろう、王女が亡くなったところで国への損害は最小限だと…。」

「家臣がそんな陰口を言っているのを聞いて、たまらなくなって飛び出してきたということですか?」

「私の空馬が王城に帰って今頃騒ぎになっているかもしれないが…。妹の命を軽んじている発言は許せなかった!」

 王子といってもまだまだ子供ですね。仕方ない。

「はあ…。王太子殿、その姫の呪いは薬草で直るのですね?」

「そうだ。薬草があれば治ると、医者も宮廷魔法師も術をかけた貴族もこぞって同じことを言っていた。」

「だとすれば、それは『呪い』ではなく『病気』というステータスの状態異常です。」

「は?」

「おそらくその状態異常を取り除く条件がその薬草なのは間違いないと思います。ただ、姫の命がすぐにどうこうという話ではないでしょう。最悪の場合命も落としかねない状態異常かもしれませんが、貴方が飛び出して急いで探すというほど早急に対策が必要なことではないように見受けられます。」

「その根拠はどこにあるのだ!姫も見ずになぜわかる!」

「経験論です。気力の低下または無気力状態、意思疎通が取れない。症状はそんなところではないですか?今のところ大きな問題点としては自力の食事の摂取ができないといったところかと…」

「経験だけでモノが語れるとでもいうのか!」

「数多の戦場を駆け抜けあらゆる軍略を知り尽くした『軍師』としての経験論ですよ!王太子殿、戦闘の経験は?相手から術を当てられたり罠にかけられたりした経験は?自分の足で国を渡り歩いた経験は?」

「ぐ…!」

 大人げないですが、経験値を莫迦にされるのは癪です。ですが、経験値は理論値でもあるのです。

「私たち小人族は、ありとあらゆる厄災の自然現象を神の力、魔王の呪いで片づけない種族なのですよ。おのが眼で見定めてその経験があって理論があって、そこには数字だってあります。すべては術式、どんな難解な魔導術も巴道術式の陣式で再現できる。体内に魔力がなくても魔導具を使って同じ術を再現できる。経験はお金で買えませんよね、理論も数値だってお金で買えません。そこからお話しております。

 では、王太子殿。その目で確かめてください。私の経験を…!」


 手を引く先に聳え立つは光の城、光り輝くは硝子の扉。

「⁉なんだここは⁉透明な建造物?魔法…?」

「うんにゃ。硝子で作った植物を育てるために私が建築した施設で『温室』といいます。火と風と水の魔導石を使って温度と湿度を管理して薬草やら、珍しい植物を育てています。この建物自体が『魔道具』であり自立発動の魔導術式です。」

 胸を張って自慢げに温室の機能を説明しているが、理解はできていないだろう。

「貴重なガラスでここまでの強度の建物が作れるのか⁉」

「王子さん。今は建物よりも重要な事項があるでしょ!」

 片手に上呂もう片方の手にはスコップ、頭には手ぬぐいを被った白猫が二足歩行で直立している。

「レオも!魔道具の説明になると、人格かわっちゃうんだから。王子さんを連れてきたのは施設自慢じゃないでしょう!」

 白猫は道具をさっさと片づけて、いくつかに仕切られた温室の中を案内する。

「これは…!」

「アンタが言ってた『病気』というステータス異常の解除に使う薬草だよ。」

「あんなに、探してもなかったものが!栽培できるのか⁉」

 自分の使い魔に気が付いて、レオも王子の下へやってきた。その手には色のついた水の入ったガラス瓶も一緒に。

「”園芸師”という職業であれば、可能です。このガラスの空間は、太陽の光をある程度自然に取り入れるために作りました。あなたの望んだ薬草もこの森に確かに自生してはおりますが、数が少ないので。育成に必要な環境を調べてすべてをこの部屋で再現して栽培しております。

 育成の条件は確かに厳しかったのですが、固体自体の繁殖力は強くこのように増やすことができました。」

「妹は助かる…!助かるんだな!!」

 膝をついてうなだれる王子の肩をポンポンと叩く

「この薬をお持ちください。不安なようであれば花も一緒に。」

「この薬は…?」

「錬金術を使って精製した、『病気』の回復薬です。伝承では花とあったそうですが、その精製法まで載っているのかは私にはわかりかねるので薬と花と両方お持ちください。」

 王子の手の中にガラス瓶とともに花を渡す。

「なぜここまでしてくれるのだ…?」

「…そういえば、なぜでしょう?老婆心ってやつですかね。」

「国から褒章も出そう!身分も保証しよう!」

 レオはため息をついて首を振る。

「大きな波とは関わりたくありません。身分も不相応です。この森で自給自足、たまに人里に降りて人の手伝い。それが私が見つけた私らしい生き方です。

 昔は群を率いて戦に出ることもありましたよ。『軍師』という上級戦闘職を収めているので、味方の回復やフォロー全体の指揮。相手は国ではありませんでしたが戦いに身を置くことで自分の価値を見出していたこともありました。」

 すくっと立ち上がり辺りを見回す。

「長い年月を生きていると、それだけが生きる道ではないというのに気づかされます。今の私は何処の国にも属せず、この広大な森を統べり多くを知ることが道楽なんです。」

 そこまで話し終えるとスッと息を吸い指笛を鳴らす。

 温室の外で見回りをしていた一角を持つ巨躯の犬が姿を現す。

「吾輩が国の近くまで送ろう。森の近くまで恐らく貴殿の国の兵士が捜索に来ていた。」

 王子はその言葉に顔を上げる。

「本当に迷惑をかけた…そして世話になった。」

「また気が向いたらいらっしゃいませ。」

「そのときは、巴導術式とやらや魔導具の話をじっくり聞かせてほしい。」

 巨躯な犬が先導するままに、ガラスの城を抜けて母屋へと入っていく。

「王太子殿。大したものではないのですが、護身用に。”ミスリル製の剣”をお持ちください。あなたの下げているその剣よりは幾分か身を守るお手伝いができると思います。」

 王子に一本の長剣を手渡す。

「何から何まで本当にすまない…とても勉強になった。」

「王太子殿。”すまない”ではないですよ王族らしくここは好意を素直に受け取って”ありがとう”といってください。」

 ふわりと笑うその笑顔、はたから見れば幼児のそれではあるが瞳の奥には乗り越えてきた年数が垣間見えた。

「ありがとう!では、また礼に伺う。」

「いつでもお待ちしております。」

 予想外の来客は嵐のように去っていった、大きな波は好まないレオだが意図せずと国と関わることになっていくのはこれから先のはなし。

 望まぬ状況に至ったとしても彼女からすれば、それもまた必然。

 

森の中でひっそり暮らしていた賢者殿が少しずつ異世界の人の和に加わろうとしていきます。

その過程で彼女のスキルや知識経験がこの地に恩恵を齎すかもしれません。

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