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6.祝勝会①

村のあちこちで歓声と木製のコップを打ち鳴らす音が聞こえる。

村の一大事を乗り越えたということで、長老から直々に一晩の祝勝会が村民に伝えられていた。

作戦に参加し森で召喚陣を描きまくった人も、村で帰りを待っていた人も、誰もかれも脅威が去ったことを喜んでいた。

どこかでは、本当に悪魔なんでいたのか?なんて現実感のない言葉も聞こえたが、呑めるならなんでもいいじゃねぇか!という言葉にかき消されていく。

俺も何人かの村民に声を掛けられたが、功労すべきは召喚陣を描いて回ってくれた人たちだ。

そういうと、年の割に出来た奴だなと酒を薦められた。

コップを空にするとすぐに注がれるため、なるべくちびちび飲むようにしながら適当に歩きまわっている。

200人以上の村民が参加していた。これがこの村のほぼ全員だという。

「よう。楽しんでるか」

「ガイラムさん。楽しんでます、ちょっと酔っぱらってきました」

「はっはっはっ! いいじゃねぇか、みんな祝いてぇのよ」

「ガイラムさんは呑みたいだけじゃ?」

「言うじゃねぇか! はねっかえりは好きだぜ俺ぁよ」

肩に手をまわされてがっしり掴まれると、その力強さに驚く。

「いたっ、いやホントに痛いです」

「遠慮すんなって、ほらグイッといけいけ」

蛇に食わせるぞこの酔っ払い。と思いながら、手元の酒を煽る。

ガハハ、と笑っている酔っ払いは空になったコップに酒を注いだ。

「俺ぁな、いつか俺のガキと一緒にこうしてのみてぇんだ」

「ガイデルと?」

「おっ、何だ知ってんのか。生意気なガキだったんだが、最近はおとなしくなっちまってよ。弱ぇ癖に突っかかってきたころが懐かしいぜ」

不器用な人なんだな、と思った。

何かを忘れるように、ガイラムさんは酒を煽る。

「話をした方がいいですよ。一度、2人だけで話をしたほうがいい」

「なんでぇ、知ったような口きくじゃねぇか。所帯持ったこともないような見た目でよ」

「子供の目線で話しているんです。傷は浅い方がいい」

「傷だと? 俺のやり方があいつを傷つけてるっていいてぇのか!?」

並べられた机とコップが痛烈にぶつかる音がした。ガイラムがコップを投げつけたのだ。

まとめ役の人間が激昂した様子に、辺りが一瞬静かになる。

ここまで怒るとは思っていなかったが、それだけ蟠っていたっていうことなんだろう。

村民の一人が恐る恐る近づきながらガイラムに近づいて来る。

「まぁまぁガイラムさん、ここは一つ穏便に」

「うるせぇ!」

振りはらわれそうになった腕を、咄嗟に掴んだ。

さすが剣術スキルを取得できるほど鍛えた人だ。肩から持って行かれそうになったぞ。

「あ、ありがとよ」

「いえいえ、こちらこそ諌めようとしてくれてありがとうございます。ガイラムさん、暴力はやめましょう。ここは宴会の場ですよ。争うなら、そうですね…。飲み比べなんてどうです?」

「ほぅ、いうじゃねぇか。いいぜ。…おい、場所空けて準備しろ」

村民が怯えながら散っていく。

「準備ができたら呼ぶぜ。逃げんじゃねぇぞ」

「ガイラムさんこそ、一度水でも飲んできた方がいいですよ。俺、酒には強い方なんで」

言ってろ、と鼻を鳴らしてガイラムさんは姿を消した。

代わりに見慣れた顔が群集の壁から這い出してきた。

「英雄さん!」

「い、いいんですかあんなこと言っちゃって…。ガイラムさんってこの村一番の酒豪ですよ」

リリーとトラムードさん。

「呑み比べは村の祭事でもあるけれど、ちょっと過激ですね。無理はしないでくださいよ」

「……お前バカじゃねぇのかよ」

そして、モンテとガイデルだ。

「楽しめてる? トラムードさんと一緒にいたの?」

「そう! ガイラムがこんなとこにいたから今楽しくなくなったけどね」

「こらこらリリーちゃん、そういうこと言っちゃダメでしょ?」

「ふん!」

まだケンカは続いているみたいだ。

「というか、呑み比べってよくあるんだ」

「祭事の時だけです。ですから半年に一回、腕に…というより酒に自信のある村の人がでて競い合うんです。ガイラムさんは連覇保持者ですよ」

「ふぅん。まぁでも大丈夫だと思うよ。追いつめられると力を発揮するタイプだし」

「計算高い人かと思っていましたが、ちょっと見方を改めます。しかし、この村を救ってくれた琴は感謝しています。リリーの言葉を戯言だと切り捨てなくてよかった」

「そんなこと思ってたの!?」

「半分くらいですよ。半分は疑っていました」

「ぜんっっっぜん信じてないじゃない! 失礼しちゃうわ!」

「で、でも結果としてモンテ君のお、おかげで召喚魔法が成功したわけだし、ね?」

「そうね。ガイラムのバカとは違うし許してあげるわ」

「ありがとうございます、リリー。あの、ちなみに何でガイラムはバカ呼ばわりされているのかご存知ですか?」

声を潜めてモンテが聞いてくる。

「悪魔が来たら逃げるから村なんてどうでもいい、ってリリーの前で言っちゃったんだよ」

「それは、バカですね」

端的に感想を述べると、ガイラムが、悪態をつく。

「へっ、しょうがねぇだろ。こいつを呼び出したとき、悪魔を倒せるだなんて信じちゃいなかったんだからさ。信じてたのは、英雄英雄うるさいリリーだけだぜ」

お酒を飲みそうになっているリリーを必死に止めるトラムードさんをしり目に、モンテはガイデルに溜息をついた。

「ガイデルのそういうところがバカだっていうんです。いや、父親譲りの不器用さというべきですか」

「チッ、俺のどこが親父に似てるってんだよ」

「村を捨てる気なんてないでしょう。だからリリーの話にも一枚かんだんですし、一度納屋を離れて戻ってくる約束とした時も、一人で剣術の練習をしていたじゃないですか」

「ハァ!? なんで知ってんだよ、お前らこいつに食い物運んでただろうが!」

「いまのは引っかけました」

こともなげにモンテがいう。

唖然としたガイデルは呟いた。

「………クソがよ」

「なのにリリーには虚勢を張る。いじらしいというかなんというか。逃げてほしかったのは、リリーにじゃないんですか」

「うっせぇよ、クソ眼鏡。どうせあいつはいなくなるんだ」

「諦めてたら一緒に逃げようとか思ってました?」

「頭の中覗いてんのかよこのクソ眼鏡!」

「分かりやすい考えかたをしてる君の問題だと思いますが」

どうやらガイデルはリリーの恋愛感情を抱いているらしい。

「すきなんだ、リリーの事が」

そういうと、モンテとガイデルは顔を見合わせてきょとんとした顔をした。

「今の話、そう聞こえました?」

「…俺は別にリリーの事がすきなわけじゃねぇ」

「ばっちり恋愛感情の裏返しって感じだったけど」

取り繕っているわけではなさそうだが、じゃあなぜそこまでリリーの事を思いやっているのだろうか。不思議に思っていると、モンテは口をひらいた。

「リリーは両親がいないんです。トラムードさんが親代わりみたいになっていますが、あくまで代わりは代わり。リリーの家は代々猟師の家系だったので、畑も持っていませんし自分で生きていく方法がないんです。だからそろそろ隣の村に嫁ぐ予定でした」

「そろそろって、まだ12歳位じゃないか」

「家族がいないのは不憫だろうと、お爺さまが取りなしたんです。我が村の代表として嫁ぐので、苦労をさせるつもりはないと、お爺さまはいっていました」

「俺はあいつがやりたいことをやらせてやりたい。リリーは隣村の嫁さんなんて、嫌だって言ってたんだ。俺は聞いた。長老の前ではおとなしく頷いてたリリーがよ、自分が迷惑だの嫁いだら厄介払いできるだの言ってんだよ。だいたいあのリリーがおとなしくしてたって時点でおかしいだろうが! 目的の為なら祭殿から村の大事なものも、本も盗むくらいのお転婆なんだぞ」

お転婆ってよりは犯罪だとは思うけれど…。

「ちなみに祭殿から持ち出した時はボクもいました。借りただけですよ。もう返してます」

抜け目のない子だ。騒ぎにならないうちに対処したらしい。

「ならちゃんと言わないと。リリーだって誤解したままじゃかわいそうだよ」

「なんていやいいんだよ…。リリーはもうすぐいなくなる。それに俺はここの護衛隊の頭の息子だ。跡を継ぐ為に剣術の訓練だってしてんだ。村から離れられないってことは、もうあえねぇんだぞ」

そうか、ガイデルはリリーに自分をかぶせているんだ、きっと。

決められたレールの上を進むしかないリリーの力になりたかった、けれど自分も決められたレールを進んでいるなら、決して交差しないのなら、意味はないと思っている。

「……事情は分かった。俺が何とかしよう」

「ハァ? 聞いてたのかよ。てかなんとかってなんだよ」

「立場上ボクはどちらかに寄ったことは言えませんが、どうするつもりですか?」

「簡単だよ。みんな我慢してるのが原因なんだ、素直になってもらう。ガイデル」

「んだよ」

「お前は父親が絶対に負けない、絶対に勝てないからって諦めてるだろ。なに言っても無駄だと思ってるんじゃないか」

「そりゃ、親父はつえぇよ。俺じゃかなわねぇ」

吐き捨てるガイデル。

俺は準備が進んでいる呑み比べ会場を指差して言った。

「その親父さんの得意分野で俺が勝つ。そしたら言いたいこと全部言え。やりたいことも、やりたくないことも全部だ」

「なんだよそりゃ」

「なんか言ってぶん殴られるのが怖いか? 人にはやりたいことやれって言う割に、自分がやるのは怖いか?」

ガイデルに向かって、バカにするように笑った。

そんな表情を向けられたのは初めてだというように、ガイデルは一瞬呆然とした後に怒りをにじませた。

「あぁ、やってやるよ。お前が親父に勝てるってんなら、俺だってやってやる」

「よし。それでこそ男だ」

ガイデルの背中を軽くたたくと、何をされたのかわからないような表情を一瞬浮かべてすぐに憮然とした顔に戻った。

俺はその場を離れ、父子のようにじゃれついているトラムードさんとリリーに声を掛けた。

「あぁ、すみません。リリーちゃんが何とかしてお酒を飲もうとしちゃって。一緒に止めてください」

「わたしだってもう大人よ。お嫁さんになるんだもの、ちょっとくらいいいじゃない!」

ぴょんぴょんと跳びはねて、トラムードさんのお酒を盗もうとするリリーを持ち上げる。

トラムードさんは、何やってるんですか!と驚きの声をあげている。

「飲んでもいいよ。お嫁さんになるんだもんね」

「………」

リリーは不安そうにこちらを見た。

「飲んだらお嫁さんだ。優しい旦那さんと一緒に、幸せな家庭が築けるといいね」

「英雄さん、怒ってるの…? 怖いよ…? わたし何かわるいことした…?」

「ち、ちょっと、何言ってるんですか。リリーちゃんにそんなこと」

「リリーは何がしたい? トラムードさんの家で本を読んで暮らすのもいいと思う。彼のお仕事はとっても難しいけど、きっとリリーならできると思う。俺が保証する。英雄が言ってるんだ、間違いないさ」

「ほ、本当になにを…、どういうつもり何ですか…」

「お嫁さんになるものいいと思うんだ。リリーはかわいいし、ちょっとお転婆…行動力にあふれてるけど、村のことを好きだって気持ちをきちんと伝えられる真っすぐな心を持ってるから、いいお嫁さんになるとも思う」

「え、英雄さん…。そうよね、わたしお嫁さんになって、なりたいって思ってるもの」

「こんな子供になんて言葉を掛けてるんですか…! リリーちゃん、まだ時間はあるんだからゆっくり考えればいいんだよ」

「時間、あるんですか? 長老はもう話を進めてるってモンテが言ってましたけど」

「ッ、だからッ! そういう話はこの子のいないところでしてください…! この子の気持ちが分からないんですか!」

「分かってますよ。分かってるから言ってるんです。リリー、森の中でも言ったけど俺はこの祝勝会が終わったら王国に向かおうと思ってる。ここに呼び出されてから、まだまだわからないことだらけだからね。そこでさ、聞くんだけど。ついてくる気ない?」

リリーの大きな目が、それこそ飛びだしそうなほどに見開かれた。

桃色の髪が風に揺れる。

唇が揺れる。何かが口については、喉に押し返されているようだ。

何かが言葉を結ぶ前に、大きな声聞こえた。


「準備できたぜ! 席に着きな!」

幼女を勧誘するとは悪い主人公だなぁ(他人事)

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