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3.増殖する悪魔

ちょっと直しました。

悪食と言われるゆえんの部分。

外窓から朝日が差し込んでいた。

噛みついていた蔦を離す。

全身からじっとりと脂汗が滲んでいる。激痛はもうおさまっていたが、しばらく体を動かす気にはなれなかった。

「というより、まだ絡まってるから動けないが正しいね」

この蔦の大本は、悪食植物ミゴラギルという。

蔦は絡まってから1日が経過すると、大本の消化器官に取り込み始める。大きさによるが、人間くらいであれば3日程で消化してしまうだろう。

ちなみに植物が悪食と呼ばれる理由の一つは、生物だろうか無機物だろうがお構いなしで食べてしまうところにある。普段は自分のテリトリーに蔦を張っているが、周期によって蔦の位置を変えるときがあり、その時触れた物も食べてしまうのだ。それは大木だったり、大岩でもかまいはしない。

消化器官に入るのであれば、何でも食べる。それがミゴラギルだ。

なんて思い返していたら、触媒が燐光を放ち始めた。時間切れが近い証だ。

召喚陣は幾つかの要素で構成されている。

一つは対象、一つは場所、一つは時間だ。

誰を、どこから、どれくらい呼ぶか。

今回は時間を半日としたので、時間がやってきたのだろう。

触媒が光を失っていくのと同時に、蔦が陣に吸い込まれていく。時間切れでの召喚終了は、逆巻きされた映像のように対象が戻っていくため、俺への拘束も解かれる。

触媒が色を失うのを確認して、俺は辺りを見回した。

どうやらここは納屋のようだ。辺りには農具がたてかけられている。ここは農村だろうか。

外に出ようと立ち上がって、気付く。

なぜかいっし纏わぬ姿となっている。何だこれは、変態か?

自己緊縛までかまして変態度をあげたということか?

「子供の前では教育上良くない光景だったかも」

必要なことだったとはいえ、一抹の後悔がよぎる。

とりあえず羽織るものがないかと調べてみると、ご丁寧に扉の前に服が置いてあった。

彼らが置いておいてくれたのだろう。

袖無ワンピースのようだ。思い返してみると、彼らも同じ服を着ていた気がする。

ここの民族服か。

袖を通してみると、ゆったりとした着心地で特に違和感はない。

サイズも子供用と大人用くらいの違いしかないのだろうとは思われた。

蔦もほどけたことだし、恐らく彼らがまた来るだろうと思い、納屋で待つこととしよう。


しばらくすると、2人組みが扉を開けてやってきた。

桃色髪の少女と眼鏡の少年の組み合わせだ。

「服ありがとう。ちょうどいいサイズだったよ」

「えっと、どういたしまして。ボク達の子供用と大人用くらいしかありませんけれど」

「英雄さん、調子はどう? 昨日はいきなり自分を縛り始めたからびっくりしたわ」

「ごめんね。さすがにのたうちまわってる姿を見せるわけにはいかないし、もしかしたら暴れて君たちに危害を加える可能性もあったしさ」

「ショッキングな光景という意味では、どちらも同じくらいでしたよ」

「うんうん。始めはそういう趣味なのかなって思った」

「違うから、そこだけは訂正させてね」

口角をひきつらせながら、笑みを浮かべた。

咳を一つ。

「ところで、君たちが俺を呼び出したんだね。依代を使った召喚魔法で」

「そう!村長に内緒で、救国の英雄が持ってたっていう麻袋を持ちだして、召喚魔法は読書好きのトラムードさん家からこっそり盗みだしたわ」

「リリー言葉が悪いよ。お借りしただけです、終わったら返すつもりでした」

悪びれもせずに子供たちは言う。

肝の据わっているのか、道徳心が育ち切っていないのか。

「あなた救国の英雄でしょ? そうじゃないと困るわ!」

掴みかからん勢いで、リリーは俺の胸元を握った。

その悲痛な表情が、脳裏で何かと被りそうになる。

しかし、俺はなんかかんやあって転生した後にアストロノアのところにお邪魔していただけだ。

それ以前は、地球の日本で入院生活を送っていたわけだし、人違いである。

「君たちには悪いが、俺は国を救った事なんて――」

「この村は数日もせずに滅びます。悪魔の軍勢が襲いに来るんです。王国に嘆願を出しましたが、タチのわるい嘘だと一蹴されました」

モンテが表情を歪めた。

激しい憤りを押し殺すように、瞼を一度閉じて深く息を吐き出した。

「大人たちは、子供たちは怖がらせないように王国から竜級騎士がくるって言ってるけれど、ボクは村長たちが夜中に話しているのを聞いてしまった。この村に住んでいる人間は、この村での生き方しか知らない。外には出られないんです。だからと言って、黙って死ぬつもりなんてない。ボク達はボク達のやり方でこの村を守る。そのためにあなたを呼び出しました」

「モンテ…。ねぇ、あなた救国の英雄なんでしょ? 英雄さん、ねぇ、答えてよ」

………。

……。

…。

「そうか。なら、君たちの仕事はここで終わりだ。よくやった」

「英雄さん…?」

「……やってくれるんですか。できるんですか、あなたに」

「任せろ。一宿一飯の恩ってやつだ」

悪魔なんて倒したこと一回くらいしかないけれど。まぁ、なんとかなるだろう。

「やったーーー!!! ねぇモンテ、英雄さんが助けてくれるならもう大丈夫よ!」

「どちらにしろ、後はありません。彼に賭けるしか」

「モンテ君、現実的だけどちょっと正直すぎない?」

そんな事を言いながら俺達は連なって外に出た。


外には点々と民家と思しき家屋が建っていた。悪魔に攻め込まれるという割には、すれ違う住民の表情は穏やかだ。モンテに言わせれば、大人の嘘を信じ込んでいるのだろう。

見慣れない顔を連れているからか、モンテとリリーに声を掛ける人が多いが、リリーが「英雄さんに来てもらったのよ!」というと、あぁそういう遊びなのねという顔で見送られる。

しかし、ここまで気に掛けてもらっているということは、彼らはこの村でかわいがられていることが分かる。

「あそこが長老の家です。今は会議中ですので、顔見せにはちょうどいいかと」

「それって注目浴びる奴じゃない?」

「村に知られずに悪魔を掃討するなんてできるはずありません。ならここで顔を見せておいた方がいいと考えます。それとも、見られたら困りますか」

「いや、いいよ。まかせる、俺も言った言葉を曲げるつもりはない」

「…試す様なことを言ってしまい済みません。」

「英雄さんに失礼でしょ。ところで英雄さん英雄さん、竜を一撃で倒したってホント!? あとあと、王国を恐怖に陥れた沼の怪物を吐息だけで吹き飛ばしたとか!」

子供に聞かせる英雄譚とはいえ、大分誇張が混じっていないだろうか。せめて苦戦した程度にしておいたほうがいいような。本物の英雄も大変だな。

「他にどんな話があるか教えてもらってもいいかな」

夢は壊さないようにしておこう。

「英雄さんなのに、自分の事がわからないの…?」

意外と核心的なことを聞いてくるなこの子

「…話になっているのなんて一部だからね。本当はもっともっとすごいことをしてるから、どこまでお話になっているのか気になったんだよ」

ごめん、本物の英雄さん。

「…………………………カッッッッコイーーー!!! えっとねえっとね、後は空から降ってきた超大魔王を聖剣でズバズバっとやっつけたり!」

宇宙規模の英雄だったのか…。それ国レベルの話じゃなくない?

「それは後から尾ひれがついた話です。古い本を読むと、その話は入っていませんから」

「えーっ、そんなことないよー。英雄さんは世界で一番強いんだから。ねっ、英雄さん」

「まぁ、そこそこかな…」

「けんきょーーっ! ね、これも絵本に乗ってた通りだよ! 超大魔王倒した後英雄さんは『まぁ、そこそこの敵だったかな』っていうの!」

そこそこの敵のわけないだろ。魔王の前に超と大がつくんだぞ。その本を編纂した人はどんな思いでその話を追加したんだ。

「というか、モンテ君もそういうの読むんだね」

「この村では大人が寝物語として読み聞かせてるんです。誰だって知ってますよ。英雄の存在をここまで信奉してるのは、リリーくらいですけどね」

とはいえ、古い話まで追いかけるのは誰でも知っているレベルではないとは思うけれど。モンテ君はこの話をつづけたくないのか、固く口を結んでいた。

「……ここが、長老の家です」

その家屋には幾つかの布がはためいていた。

「この村の風習です。住んでいる男の年齢の分、布を壁から垂らす」

良く見ると、長老の家は他の家屋と比べてさがっている布の数が全然違う。

百枚以上垂れているんじゃないだろうか。

中からは微かに音が聞こえる。そんな事を意に反さないように、モンテが扉を開けた。

「モンテとリリーか。今は会議中じゃぞ、ここは大人しか入ってはいけないと何度言ったらわかる。それに、そこの見慣れぬ者は何じゃ。今は緊急時なのだから部外者を村へ入れるなと」

中にいたのは白いあげひげを蓄えた老人と、屈強な男、細目の女性、そして細身で陰気な男性だ。

「何が緊急なのですか。冬を乗り越えられる分だけの備蓄は収穫できる見込みはありますし、祭事の準備もできていますよね。まるで悪魔に攻められるのを恐れているようじゃないですか」

「……村長! 話したのですか!? いくらお孫さんとはいえ」

屈強な男が声を荒げる。

それに長いあごひげを蓄えた老人が溜息をついた。

「バカ者が、かまを掛けただけじゃろう。モンテ、それを知ってどうする。お前さんなら分かるじゃろう、それを村に広めたら混乱するだけじゃと」

「それなら、むざむざ死ぬだけだというのですか!」

「あ、あのね、そのために今話し合いを…」

陰気な男が口を開く。

「村を捨てるべきですわ。命あっての物種ですもの」

細目の女性が口を開いた。

「ダメだ。再び村として成りたたせる為に、どれほどの被害がでるかわからねぇんだ。いいか、悪魔何ぞ見たこともないものに恐れてどうする。俺等男衆が力を合わせれば絶対に倒せる」

「そ、そもそも悪魔はなんで私たちを…そこを確かめないと…逃げても追いかけてくるかも」

「悪魔の考えなんてわかるわけありませんわ。それこそ無駄です」

どうやら暫くまとまりそうにはないようだ。

「部外者ですが、俺もそこの人の言うとおり、悪魔がなぜこの村を襲うのか。それを考えることが先決だと思います。襲われるというのは、一体どういうことなんですか」

沈黙。

排斥というよりは、この中で一番発言力のある人間の反応を待っているように見えた。

「…モンテ、説明せい」

「分かりました。この人は、この村を救いに来てくれた人です。召喚魔法に精通していますので、悪魔が出現した原因にも何か助言が出せるかと」

「この人は英雄さんだよ! 悪魔なんてもうズバっとやっつけちゃうんだから!」

「話にならん。こ奴の素性は? まさか誰かもわからぬものをここまで丁重に案内したわけではあるまい」

「それは…」

「モンテ、これは大人の話じゃ。子供は気にすることはない。おぬしもこんな子供たちをだまして引き連れて、感じ入るところはないのか」

「言われてますよ」

屈強な男に言った。

「俺じゃねぇよ!」

「あれ、俺はこの子だましたつもりはなかったから、てっきり事実を隠ぺいしてるあなたたちの事を言っているのかと思いました。これは失礼」

「ッ、言わせておけば」

「やめい。何にせよおぬしには関係のないことじゃ。ただの旅人ならば、どこへなりとも失せるがよい」

「俺はこの子たちに頼まれてここにきています。この子たちがはいそうですかといわない限り、ここから出ていくつもりはありません」

「英雄さん…」

「じい様。ボクだってこの村の一員です。ともに考える権利があると思っています。まだ子供のボクの言葉なんて、なんの価値もないかもしれないけれど、それならばと行動で示しました。せめて、彼の言葉を聞いてください。聞いてもなお意味がないと断じるならば、ボク達はここから出ていきます」

「ふむ」

あごひげを撫でつける長老を横目に、俺はモンテの肩を軽くたたき、任せろ、と唇を動かした。

「先ほども言いましたが、悪魔がなぜ攻め込んでくるのか。そこを調査する必要があります。逃げるにしろ戦うにしろ、敵の目的が分からなければ対処のしようがない。敵の目的が人なら、逃げても追いかけて来るでしょう。敵の目的が場所なら、戦っても援軍を呼ばれる可能性もあります」

「そ、そう! ボクもそう言いたかった! あ、ごめんなさいつい」

陰気な男が声を荒げたと思ったら引っ込んでしまった。

「敵は悪魔と言っていますが、見た目は? 他に情報はありますか」

「…トラムード。答えて差し上げなさい」

「あ、いいんですか。その、ボクなんかが喋っちゃって、へへ。えぇとですね、あの、その、猟師の目撃証言から、悪魔は低級悪魔だとお、思われます。褐色の角と蒼ざめた肌に、ゴブリン兵の様な粗雑な衣服を身につけている、らしいです。遠目から見ただけですが、近くに中級悪魔の姿は見られず、低級悪魔のみがひしめき合っているとのこと、ですねはい」

「低級悪魔だけが? 彼らは何をしているんです」

「召喚陣を描いている、とき、聞いています。円を描いてその上に自らの一部を切り落として、新しい低級悪魔を呼び出していると。召喚魔法はなにも複雑な模様を描く必要なありませんし、低級悪魔が、低級悪魔自身を依代にして、新しい悪魔をよびだしているんじゃないかなぁ」

「単純な命令を繰り返しているということか。低級悪魔は基本的に中級以上の意思を持った悪魔の命令を遂行するだけの存在。複雑な命令と下すと命令通り動かないこともあるが、それだけならば可能か。でも、円だけということは時間制限を設けていないわけだから、誰もが同じ行動をとっているのならばいずれ起点となる召喚者が魔力切れを起こすことが考えられる。起点が消えれば連鎖的にほかの召喚陣も意味をなくすから……いや待てよ、そんなこと召喚魔法を使った事がある者ならだれだってわかること。ということはこれは確認…、実験か?」

「そ、そう! そうなんだ! 君も同じ結論にたどり着いたんだね! ボクもこれは命令を発した中級以上の悪魔が、低級悪魔の量産実験をしているのだと思っている!」

「盛り上がっているところすまんが、低級悪魔が、例えば何回かで召喚をやめたとしたらどうなんじゃ」

「それはあり得ない。なぜなら、低級悪魔には中級悪魔の命令を確実にこなすために、命令同調という能力が備わっているんだ。同調範囲は非常に狭いが、ひしめき合って低級悪魔が召喚しているのなら、彼らは同じ行動を繰り返すはずだ。それこそ魔力切れで自分の存在が消えようとも」

「その通り! 召喚魔法だけでなく悪魔にも詳しいんだね君は! あぁ時間があったら是非とも君と語り合いたいよ」

「ならば、ほっておけば悪魔どもは消えるってのかよ」

「村を捨てなくていいのなら、それに越したことはありませんけれど。どうなんですの」

鼻息を荒くする男と、不安げな女性に視線を向ける。

「確かに悪魔達はその内自壊するはずです。ただし、それがいつになるかは何とも言えません。地図はありますか」

「モンテ、地図を持ってきなさい」

きびきびとした様子で、地図が運ばれてくる。

長老の骨ばった指が広げられた地図を上滑りする。

「ここが件の磔の森、そしてここが我らの村じゃ。10日ほど前はここまでじゃったが、3日程前はここで悪魔を見かけたものがおった」

森の全長と低級悪魔の目撃証言を加味すると、発生源は磔の森のほぼど真ん中と思われる。

長老が10日前に見かけたという場所も、発生から1週間ほどたった後のことだろうと予測できた。

低級悪魔の魔力保有量は100~150。召喚と維持の消費量をを考えると。

「一ヶ月もたたないうちに悪魔たちは消えるでしょう。ただし、その時悪魔たちは」

磔の森の中央から指を滑らせ、村を通り過ぎて、はるか先。

「ここまでは一面低級悪魔になってるでしょうね」

「隣村まで来てるじゃない!?」

「ふざけてんのか、こんなのどうしろって言うんだ!」

「だから早く逃げていればよかったのよ! こんなの今から荷づくりしたって間に合わないわ…」

「うむぅ。何か方法はないのか」

眉根を潜める長老に、トラムードが両手を慌ただしくして声をあげる。

「て、低級悪魔達はシンプルな命令にし、従っています。だから命令を上書いてやればあるいは」

「何か方法があるのか」

「書物の記載では、悪魔達が好む果実があり、低級悪魔程度であればその果肉の匂いをかがせると、一時的に命令を忘れて食べに行ってしまうとか」

「つまりそのすきに倒すってことだな!」

「い、いえ、匂いにつられている悪魔は極度の興奮状態にあるため、迂闊に手だしすると低級悪魔とは思えないような力を発揮するとか」

「ダメじゃねぇか! もっと使える案をだせよ!」

「ひぃ、すみませんすみません!」

「これガイラム、声を荒げるでない。ここは厳粛な場じゃぞ」

「チッ、済まないな」

唇を尖らせた屈強な男、ガイラムはいらだたしげに足をふみならす。

細めの女性は、顔を青ざめながら胸の前で両手を組み合わせて祈りをささげているようだ。

「いや、方法ならある」

その場全員の視線が俺に集まった。

「…方法とは、何じゃ」


「悪魔を餌にする生き物を呼び出せばいい。そのために必要なものがあるんだけど、協力してくれる?」


その場にいた俺以外の全員が、息を呑み込んだ。

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