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言葉が分からない

 石畳は道の中央部だけだった。その左右は土が剥き出しになっていた。石の上に2台分の轍がところどころ入っている。馬車か、それに類するものも走るんだろう。左右の土の道はそれぞれ石畳と同じくらいの幅で踏み固められてはいたが、ところどころデコボコしていた。


 既にティナ達は石畳の上にいる。


「さぁ、冒険の始まりよ」


 なんて楽しそうな顔なんだろう。手を振ってくれる。遠足に出発した小学生だな。俺は今後の林檎支給のためにも手を振り返して応える。


「どっちに向かう?こっちが街に近いよ」


 ティナが俺に訊く。俺が決めていいなら言うぞ。


「まずは寝る場所を確保したい。その街に行くぞ」


 しばらく進んで、この世界で初めて三人組以外の人間に出会った。帯剣しており、その服装からしても兵隊のようである。彼は厳しい顔で俺たちに話し掛ける。


「ガッキャ、ザババジャイナトフニ!」


 予想していた通り、何を言っているのか分からなかった。ここは三人に任せよう。ダンが返す。


「ガッキャ、ノタヤシハヤナ。ハラヤカナマキヤビョーハナワ」


 何も分からない。これはきついな。一人で生きることを諦めるレベルだ。

 俺は少し離れてアンドーさんにお願いする。


「翻訳してくれ。もしくは、意志疎通できるような魔法を掛けてくれ」


「…」


 懇願度合いが足りなかったのか、アンドーさんは無言のままだ。失敗した。最初から全力で土下座して頼むべきであったか。ティナに頼むかとそちらを見るも兵隊さんとの会話に『ガッキャ』と言いながら入っていた。なんだよ、ガッキャ。

 仕方ない。アンドーさんにもう一度お願いしよう。


「このままでは一人で外出もできません。よろしくお願いしまっす」


 言うと同時に俺は90°腰を曲げてお辞儀をした。


「誠意が足りない。なんだ、その語尾は」


 ダメだった。やはり誠意と言えば土下座なのか。


 その後も頑張ったが、俺はアンドーさんから快い返事を貰えなかった。出会ったときと打って変わって笑顔の兵隊さんが去っていくのを見ながら、青い狸猫みたいに翻訳のための蒟蒻でも出せよ、と心の中で悪態を付くしかなかった。


 話終えたダンとティナがこちらに寄ってくる。


「ガッキャ!」


と俺は言ってみた。たぶん、こっちの挨拶だろうと踏んだのだ。さぁ、笑顔を見せるが良い。魔法なしで、謎言語を扱う俺を敬うが良い。


「どうしたの?」


 ティナは心配そうな顔で俺を見た。その目はやめろ。悲しくなるだろ。


「…大丈夫か?」


 ダンもやめてくれ。俺が見事にスベった感じの空気を出すな。


「…ガッキャ!ガッキャ!」


 アンドーさん、良くやった。しかし、その元気の良い返事は二人よりも先に欲しかった。

俺の『ガッキャ』のせいで、どうしようもない雰囲気になった。聞こえるのはアンドーさんが狂ったように言い続ける、あの言葉だけだ。どういうつもりだ、アンドー。お前は無口&セリフ短いキャラで通せ。

 俺の心の傷を広げるつもりか、この悪魔め!



「私らも言語をマスターしてる訳じゃないのよ。そういう魔法よ」


 ティナが言う。魔法便利だな。そして、彼女いわく、俺のガッキャは魔法では訳せなかったらしい。子音や母音が全く違うか、声を出す喉の位置が違うのではないかとのこと。ついでに、その魔法は相手と自分の意思も読み取りつつ作動するらしく、意味もなくガッキャ言ってもガッキャにしか聞こえないらしい。

 インタープレトっていうんだとさ、その魔法は。


「魔法の名前は英語なんだな」


「お前にはそう聞こえるだけだ。俺には『パコパコカ』と聞こえるからな」


「すげえ、カッコ悪く聞こえるな」



「で、あの兵隊は何って言ってたんだ?」


 俺はガッキャから話を切り替えた。もはや、時間の無駄だ。


「『馬車もなく旅をしている割には服や肌が綺麗すぎて怪しい』とのことだった。なので、金を渡して誤魔化した」


 なっ、問答無用の解決法だな。そんなんでいいのか、神様よ。



「さあ、行きましょう」


 俺はティナの言葉を無視し、その場で立ったままだ。


「どうした?ガッキャの意味が気になるか?」


 ダンよ、本当にそれはもういい。



「俺も現地の奴等としゃべりたいです。お買い物したいです」


「そりゃそうね」


 ティナが指輪を投げて寄越した。いつもどこから出してくるのだろう。これを身に付ければ言葉が分かるようになるのだろうか。相手は自称とは言え、神様だ、期待しよう。


 ん?嵌まらない。サイズ、ちっちゃいんですけど。俺の指では爪も通らない。


「何してるの?小さいなら小指に入れなさいよ」


「それも無理そうだが、そうだ、足の小指に嵌めよう」


 俺の返答にティナは驚愕したようだった。俺は自称神の創造力を凌駕した。

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