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渡辺と北島

「渡辺よ、あなたは渡辺です。電車の中で自己紹介していました」


 ティナが棒読み調でお告げのように言う。


「信じられるか、そんなもん!」


「渡辺みたいな顔。イメージ通り」


 アンドーさんが強引にアシストしてくる。


「どんなイメージだよ!」


「あなたが名前を忘れている事がバレると怒られるのです、渡辺よ」


 ティナが再びお告げ風に言う。誰に怒られるんだよ。


「だから、あんたは渡辺よ! 間違いなく、電車ん中で渡辺って言ってた。絶対言ってた! 足の裏に書いてあるから見てみなさい」


 ティナが突然口調を変えるものだから、俺は体がビクッとした。どこから出したのかペンまで持っていやがる。今から俺の足に書くつもりなのか。神様といえど、滅茶苦茶だな。


 えっ、そのペンは万年筆では? 傷痕で渡辺と綴る気か。ティナさん、笑顔が怖い。せめて画数の少ない『川上』で提案してくれ。


 ティナの万年筆で怯んだ俺はダンに頼ることにした。このマッチョマン、三人の中で最も話が分かる。


「渡辺だったと言って欲しい、渡辺よ」


 どんな希望だよ、それ。

 ダンは爽やかな笑みを浮かべてから続ける。


「名前を忘れているという記憶を、名前は渡辺だったという記憶に上書きすることもできる。渡辺と体に刻んだ上で実行しても良い。しかし、お前は渡辺だったはずだ」


 実行していいはずないだろ! 俺は心の中で叫ぶだけで口には出さない。ダンは良かれと思っての提案だと思っていそうだ。このままでは問答無用で渡辺にされる。俺は考える。しかし、ティナに先を越される。


「渡辺君、記憶操作は危険よ。失敗しないとは思うけど、渡辺以外の部分も上書きされるかもしれないわよ。早く渡辺という名を思い出して。下の名前がナオミになるかもしれないわ!」


 マジか!? ひどい脅しだ。


「…本当に俺は渡辺と名乗ったのか? 北島ではないのか。北島だった気がする。北島の方が、こうなんだ、しっくり来る。あぁ、そうだ、俺は北島だった!」


「なっ、そうよ。あなたは北島君よ。渡辺と北島って何か、……文字数が似ているから間違えたかもしれないわ。北島くん、ごめんなさいね」


「北島、確かに北島のオーラを纏っている」


「北島のオーラって何だよ! 演歌か、それとも水泳が凄そうなのか!? 北島と渡辺の文字数が似てるって、もう少し言い訳考えろよ!」


 一呼吸おいて、俺は決定的な発言をする。


「そもそも、俺は北島じゃない。今のはブラフだ。」


 三人組は同時にあちゃーと頭に手を置いた後、仕方ないかと顔を上げる。やられる! 絶対ヤル気だ!! ティナは両手に万年筆持ってるし。


「名前はアレキサンダーでいい。俺はアレキサンダーだ」


と俺は慌てて伝えた。


「いや、ナベでしょ。流れ的には」


「ナベ」


 確かにアレキサンダーはないな。ナベでいいや。俺は結局彼らの命名を認めた。


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