アンチエイジング
有った、有ったよ、右手! 人生でこんなセリフを思い浮かべることがあるとはな。
安心して改めて手を眺める。何だか、少しばかり小さくなったような。
俺が手を見続けていると、美女さんが膝を折って姿勢を下げた。そして、すっと手鏡を渡してくれる。俺は寝転んだまま、それを受け取る。
美女さんが鏡をどこから出したのかは見えなかった。一見ではポケットがありそうな服ではないが、懐に収納できる何かがあるのだろうか。
鏡を見て、俺は絶句した。
そこには、成長した俺には写真で見ても自分なのかと違和感しかなかった、中学時代の俺の顔が写っていた。自分の若い頃、特に中高生の時の写真って妙に気恥ずかしいよね。知り合いには見せたくない。あれは何っていう現象なのだろう。きっと偉い学者さんが名付けているはず。若しくはイグ・ノーベル賞狙いのテーマに成り得るんじゃないか。
俺は鏡から美女さんに目を移す。
「若返ったね」
簡単に言うな。アンチエイジングどころじゃないだろ。
「何これ?」
俺の問いにマッチョマンが答える。
「お前を連れてきた後にアンジェが若返らせた」
マッチョマンの返答は説明になっていないが、確かに鏡の中の俺は若くなっていた。若返っていたとして、それにどんな意図があるのか? 人体実験的な犯罪か陰謀に巻き込まれているのか。俺の脳裏に某有名小学生探偵が浮かんだ。
「安藤さん、何のために?」
俺は黒髪の女の子に質問する。安藤かどうかはジャージの名前を信じた。
状況整理のためには情報が必要だ。フェイクな回答であっても、そこから得られる情報もあるはずだ。どうやったのかも知りたいが理由が先だ。
「14は至高の数字」
彼女の回答は意味不明であった。何も得られなかった。状況整理どころか、却って悪化した。何かの符号の可能性もあるが、言葉通り、こいつは14という数字が好きなだけなのかもしれない。
その証拠に、答えた彼女は嬉しそうで少しほっぺが赤い。あっ、ちょっと可愛い。何で、嬉しそうなんだよ。
「14歳の時の体に戻したということだ」
マッチョマンが付け足してくれた。真偽は分からないが、アンジェにはもう二度と訊かないと心に刻んで、もうひとつマッチョマンに尋ねた。
「右手には何が起こったんだ?」
「こっちにお前を運ぶためにアンジェが一体化したのだ。さすがにあっちのものを転送できないというか、判別できないからな」
マッチョマンよ、それでは俺には説明不足だ。しかし、黒髪少女よりマシである。未だほっぺがほんのり赤いアンジェは、マッチョマンに続いてしゃべる。
「指も14本にしたかった」
しゃべるなよ! 思わず指を数えるくらい不安になっただろ!
まぁ、いい。手はあった。それが確認できた。14は忘れよう。
「服が欲しい。このままでは立ち上がれない」
「ん」
俺の要求にたいして、ほっぺの赤みが消えたアンジェが口を閉じたまま短く答え、指を弾いてパチリと音を出す。
毛布が独りでに動いて、俺の体に巻き付く。そして、一瞬の光が発した後、ロールプレイングゲームの村人が着ているような茶色い布服が俺を包んでいた。
驚きよりも唖然とした。そして、裸一貫や貧乳Tシャツで外に出されるという不安感を解消できた。
服を着たまま、寝転んでいる俺。少し離れて立ったまま見ている三人組。なんだ、これ、シュールすぎるぞ。
立ち上がる。体が軽い。そして、これまでの会話と状況を基に彼らに問う。
「宇宙人? UFO?」
「神様。異世界。」
三人組は声を揃えて返答した。