答え
正直、そんな気はしてた。いつかこんな風に言ってくる日が来るじゃないかって。だって俺…うっすらであるけど感づいていたから。美姫ちゃんが好意を抱いてるんじゃないかって。でも、俺はそれを否定してそんなことはないと言い聞かせ、自分のなかに生まれつつあるものにも蓋をしようとしてた。でも…もう無理だな。
「美姫ちゃん…。俺、凄いめんどくさいよ?」
だから会えてすぐには答えず試すようなことをしてしまう。
「大丈夫です!めんどくさいとこも好きです!」
「人に向けてはいけない黒い部分もたくさんたるよ?」
「上手くは言えないですけど、大丈夫!そんな部分も…しっかり受け止めます。」
「それから…ッ!。俺は…女の子を信用するのが恐い。」
それを言い切ったあと俺は美姫を見ることができず下を向いてしまう。俺からしたら最後の無意味な抵抗だ。俺は完全にこの子に恋をしてしまっている。さっき心配をかけてしまう人のなかでなぜか一番に美姫ちゃんが浮かび、それまでに自分がどれほど助けられ救われてきたかを考えると不思議と笑みがこぼれてしまう。笑いかけてくれたり、俺が抱え込んでるものに気づき温もりを与えてくれた。案外コロッといってしまうものだ。だからこそ苦しい。俺は信用できないことが苦しい。それを遠回りに伝えるためにわざわざこんなことをしている。その質問を聞いた美姫はベンチから立ち上がり一歩…また一歩と近づいてくる。
「確かに…春樹さんが女の子を信用するのが恐くなってしまっているのもわかります。それが貴方の黒い部分の根元になってしまっているのも。」
「…そうだよ。その通りだよ。こんな俺だから…たくさん傷つけるかもしれない。苦しむかも知れない。そんな思いはさせたくない…。」
頭を下げ顔を見ることはできてはいないが見透かされていることに俺は驚いていた。そんな素振りは見せたことはない。黒い部分を見せたこともない。いつも抑え込んでいたのにも関わらず黒い部分の根元すらもだ。美姫はもう目の前にたっていた。その表情は…怒ったり、苦笑いしているものではなく…ただ…柔らかな笑みだった。
「やっぱり…優しいですね。傷つけないように遠ざけようとしてるんですよね。だけど…お断りします。傷つけないように遠ざけようとするような優しい人ですもん。きっと大丈夫です!それに…こんなに私は春樹さんのことが好きなんですから。春樹さんのそばにずっといます。そばにいさせてください。」
その言葉を告げたあと美姫は、俺を抱き締めてきた。そのとき俺に黒い部分は問いかけてくる。
(こいつはきっと裏切るぞ。また苦しい闇のなかを歩くことになるぞ。いいのか?)
(…苦しい闇のなかを歩くことはもう慣れた。だからさ…もういいよ。黒い俺。美姫ちゃんは大丈夫。だって…)
俺は心のなかでいいかけてた言葉を口にしようとしたが出てこずはぐらかす。だが伝えなきゃいけないことは伝える。
「…質問をあんな風に返されるとは思いもしなかったけど…。だけど、美姫ちゃんがこれからそばにいてくれるならそれでもいいかなと思っちゃった。だから…こんな俺で良ければ付き合うよ。」
心臓が高鳴る。また俺がこんな言葉を…気持ちを伝えることが来るなんて思いもしなかった。一層、抱き締める力が強くなるのを感じた。そして俺の頬に雫が…降ってくる。
「…こんな俺なんて…悲しいことを言わないでください。私は…春樹さんことが大好きなんですから!」
泣き顔の美姫ちゃんがそこにいた。だからちょっと意地悪をすることにする。
「ちょっと苦しくなってきた!離してもらえる?」
「アワ!?ご、ごめんなさい!」
パッと離れたのを確認して今度は逆に俺から抱きつき俺のからだに美姫ちゃんをうめる。アタフタしているのもわかるが一気に…いかせてもらおうかな。そろそろ戻ろうとも思うし。
「じゃあ…一度しか言わないからよく聞いててね?俺は…美姫ちゃんが好きだよ。もう離せないかも知れないから覚悟しててね。」
と耳元で伝える。
「ふぇ!?そんなこと急に言われても…はうっ!!」
と頭から湯気を出し美姫ちゃんは気絶してしまう。
「はぁ…前途多難になりそうだな。とりあえず病室に帰るかな!」
俺は美姫ちゃんを抱え病室に帰っていく。だが不思議とその足取りは軽かった。