4時限目:8人のクラスメイト
これで終わりです。
中途半端すぎ!
給食なんて何時以来だ?
僕の学区だと給食が小学生までだったから……ひのふの…16年ぶりとか。マジか。
「それにしても、給食って美味いもんなんだなぁ」
ソフト麺のこのチープな食感がたまらない。ミートソースも肉がゴロゴロしてて、これこそミートソースだ!
「おっさん、そんなに貧相なもんしか食べてなかったのかよ」
机を寄せてきていたガキンチョAこと猪原武士が囀てくれる。
こいつは自己紹介の時から僕のことを『おっさん』呼ばわりする奴だ。
お返しに僕も『マルコメ』とあだ名を付けてやったら「マルコメって何?」と真顔で返された。
近頃の日本人は味噌を摂らなくなったと聞いてはいたけど…。
僕は生意気を言うマルコメを鼻で笑ってやった。
「回らない寿司屋に半年に1回は行ってる僕の食生活が貧相とか、笑わしてくれるなマルコメは」
「マジかよ、おっさん」
マルコメと他の男子生徒3人、加えて女生徒2人が顔を寄せ合う。
「あれさ、本気で言ってると思う?」
僕が出木杉と名付けてやった鳥島誠人が
「冗談で言ってるようには見えなかったわよ」
ポニーテールのポニーさんこと馬宿円が
「ということはさ…」
クラスで一番でかい、ウッシーこと牛ケ原大樹が
「可愛そう過ぎるだろ」
双子の片割れ、兄であるニッキーこと大寅光一が
「うんうん、可哀想」
双子の片割れ、妹であるところのナデシコこと大寅アリゼが
顔を寄せ合っていた6人が僕を見る。が、間違いない、哀れみがまなざしにありやがる。
「君たちさ、お兄さんに言いたいことがあるならハッキリ言いなさいな」
「じゃあ、言わせてもらうけど。おっさんさぁ」
とマルコメが僕の言葉を忖度することなく『おっさん』呼ばわりして言う。
「俺たち、回らない寿司屋なんて小学生の時に卒業してるんですけど」
「徳永さん、徳永さん」
僕が意味が分からずにいると、隣に机を寄せてきていた眼鏡の委員長こと宇佐美こだまが教えてくれた。
「私たち、学園にいるだけでお給金が毎月はいるんですよ」
「マジですか…」
「マジなんだな、これが」
マルコメが偉そうにふんぞり返る。
「ちなみに、お幾らですか?」
マルコメに訊くのは癪に障るので、僕はこだま委員長に訊いた。
本当に学級委員長をしているこだま委員長が僕の耳に口を寄せて囁く。
「…………」
「そうなんですか」
僕は思わず敬語で8人のクラスメイトを見てしまった。
大企業の給料並みだな。しかも新卒の給金じゃない。
「それに、私たち寮にはいってますし、食事はこの通りに朝昼と給食がでますから。お金はその…まるまる残るといいますか…」
ウッシーの次にノッポな、それでいてスタイル抜群のビーナスこと水槌苗が教えてくれる。
「教えてくれてありがとう、ビーナス」
俺がつけたあだ名を言うと「やだ」と照れたビーナスが無意識なのだろう拳を振るう。
見事、俺の横っ面にクリーンヒット。スナップが利いている。これがフリッカージャブってやつか?
「あ! ごめんなさい」
「気にすることはないよ、こんなの撫でられたようなもんだ。なんせ、君はたおやかな女神なんだから」
「やだ」照れた2撃目が、またしても俺の横っ面にヒット。うん、見えなかった。
「徳永さんさ、ロリコンなの?」
失礼なことを馬宿円が言ってくれる。
「ポニー、君は誤解してる。僕はフェミニストではあれど、決してロリコンじゃない。ただ、女性は褒めるべしと考えているだけだ」
叩きこまれたのだ、姉ちゃんに。それこそ徹底的に。1日に少なくとも姉ちゃんを50回は褒めなければいけないというノルマがあった。しかも、1週間以内に同じ誉め言葉を口にしてはならないという地獄の掟まであったのだ。くそが! 姉萌えとかマジで幻想だから!
「じゃあ、ボクのことも褒めてみてよ」
ボクっ娘のポニーが挑戦してくれる。
よかろう。
僕は立ち上がると、ポニーの隣に立った。
「君の髪は美しいね。毛先まできらめいて、まるで夜空を束ねたようだ」
「きもい! きもいぞ、おっさん!」
顔を赤らめたポニーに代わって、鳥島誠人がまっとうな意見を口にしてくれる。
だよね、キモイよね。我ながらキモいもん。
にしても、出木杉。君は若いな、誰に好意をもってるのかバレバレじゃないか。
僕は元の席に座ると、食事を再開した。
「師匠とお呼びしていいですか?」
牛ケ原よ、君は見る目があるな。
僕はニヤリと笑った。
「ウッシー、君が僕の一番弟子だ」
「は、精進いたします」
僕とウッシーは拳を突き合わせる。
「それにしても、これで僕も大金持ちってわけだ」
僕はまだ1年生、今は夏だから卒業するまで2年と2学期ある。
そのあいだ、大金がウハウハ懐に入ってくるのだ。
そう思っていたんだけど。
「あ、それは違うよ」
大寅光一が言う。にしてもこいつ、光一なんて和風な名前の割に、容姿が完璧に洋風だ。
「何が違うんだ?」
「おっさんさぁ、この学園のある意味を忘れてないか?」
マルコメに半目で訊かれて、僕は「ああ…」と忘れようと努めて、本当に忘れてしまっていた最悪の事実を思いだしてしまったのだった。