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1時限目:徳永衛【とくなが まもる】。28歳、会社員

ざんざの雨の音に気分が興って書いてみました。


現在、ふたつの連載を続けているので、続きを書く予定はほとんどありません。

ご了承ください。

「わたしたちもう…別れましょう」


何時もの焼き鳥屋だった。デートの後は、この焼き鳥屋でビールを飲んで、ほろ酔い気分で僕の家に転がり込む。

それがパターンだった。

色気や爽やかさはないけど、マンネリだけど、付き合って2年もたてばこんなもんだと思う。


へ? と僕は間抜けな顔をしていたと思う。


「なんて?」


「別れましょう、て言ったの」


気を落ち着けるために、ビールを飲む。


「なんで、いきなり?」


「私ね、好きな人ができたの」


ははぁ、なんて声が出てしまう。


「いい男なの?」


「いい男よ。年上だから、甲斐性もあるし」


「マジですか…」


僕は残ったビールを煽った。


話しは終わりとばかりに彼女が席を立つ。


「駅まで送るよ」


僕も席を立つ。

支払いを済ませようとすると、彼女が珍しく半額を出すと言ってきた。


「もう、あなたの彼女じゃないから」


妙なところで律儀だ。


僕と彼女は黙ったまま連れ立って駅まで歩いた。


土曜の夜ということもあって、通りは賑わっている。


彼女は『好きな人ができた』なんて言ったけど、おそらくはもう付き合っているのだろう。

そのうえで僕と比べて、相手のほうに軍配が上がったのだ。

女性というのが案外と尻軽だというのは、姉ちゃん絡みで知っている。


ふと影が差した。


暮れなずむ空には、大きな大きな島が浮かんでいた。


あの形は春島だろう。

ちょうど20年前。日本の上空に突如として出現した4つの島は、今ではそこにあって当たり前のように人々に受け入れられている。


「今夜は春島が近いな」


僕が呟くと


「ほんと」


彼女が息を吐くようにかそけき応えた。


横顔が綺麗だな、と思う。

いいや


「綺麗になったね」


僕がそう言うと、彼女は怒ったように返した。


「そういうところ!」


そういうところが、何だというんだろう?


でも実際、彼女は僕と付き合うようになってから目に見えて美しくなった。

化粧がうまくなったとかそういうことじゃなく、内面からあふれ出る雰囲気が彼女を美人にしていた。

街を歩けば、男が振り返るのだから、相当だろう。


だから。そろそろかな、とは思っていたのだ。


程なくして駅に着いた。


「ねぇ、マモくんさ。私のこと本当に好きだった?」


「好きだったよ」


「なのに、私のことを引き留めようともしないのね」


僕は何も言い返せなかった。

好きだったのは本当だ。愛してもいたと思う。

そうじゃなければ付き合ったりはしない。


「ならさ」


君こそ僕のことを本当に好きだったの?


だけど、そんなことを訊けるはずもない。

声に出したのは


「ならさ、最後の思い出に一発やらしてよ」


「…ゲス」


彼女はニッコリと笑顔で中指を立てると、くるりと背を向けて改札へと消えていった。


そのしばらく後だった。


彼女の消えていった改札から爆炎が立ち上がったのだ。


悲鳴と絶叫が場を満たし、叫喚が駅のほうから起こる。


「テロだ!」


誰かの声が耳に入る。


それが切っ掛けになった。

僕は全速力で駅に走った。


彼女の名前を大声で呼ばわりながら走る。


電車が横転して、ホームには大勢の人が転がっていた。


まるで現実感がわかない。


だけど、今はそれでいい。

そうじゃなければ、動けない。


彼女は…見つかった。


けど腹に腕ほどもある鉄棒が突き刺さっている。


僕は彼女のそばに膝をついた。


「生きてはいる」


生きてはいるけど…。


「マモ…くん?」


「しゃべらないでいいから」


「てん…バツ……かな?」


「違うから、天罰なんて受ける道理がないだろ」


ふっと彼女が微笑む。


「そーいう…ところ」


「何を言って?」


「今…まで……ありが…と」


目を開いたまま、彼女の息が止まる。


違う! こんなのは違う!

君は幸せにならないとイケナイんだ!


僕は彼女の体をつらぬく鉄棒を掴んだ。


邪魔だ! 沸騰した頭で思えば、鉄棒はサラサラと崩れて消えた。


次は彼女の体だ。


治れ、治れ! 唱えて思う。


すると、大穴の空いていた彼女の体のキズが見る見るうちに塞がった。


そして最後に彼女の頭に手の平をあてがう。


死ぬな、死ぬな!


体中の力が抜けていくけど、知ったことじゃない。


死んじゃ、だめだ!


ほう、と彼女の口から息がもれた。


呼吸をしている。

心臓も動いている。


「…よかった」


安堵した僕の背中に、ゴリッとした硬質の物が押し付けられた。


「動くな!」


警官だった。背中に押し付けられているのはショットガンの銃口だ。


「貴様! 神業かみわざ使いだな!」


僕は頷くことしかできなかった。

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