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「おはよう」メール

作者: 上山悟


私は母親似だとよく言われる。

喫茶店で、知り合いの女性に、十数年前の母の写真を見せた時、

「上山さんが女装したら、瓜二つですよ」

と高らかな笑い声を上げた事がある。

自分ではよく分からないないが、他人さまから見ればそうなんだろうと思う。


あれは小学校高学年の頃だっただろうか。

母とデパートに出かけた。はぐれてしまった。

あちこち探し回り、やっと正面遠くから歩いて来る母とおぼしき女性の姿が目に入って来た。

近づくにつれ、母だという確信は強まっていった。安堵の情も心に広がった。

その時、不思議な感覚が私をおそった。

ーこの身長、この体型、この顔を持った人が僕のお母さんなんだー

改めて、そう感じたのである。

この感覚を今、分解して考察すればこういう事だろう。

赤ん坊が外界を認識できる頃には、母の容貌と言うものは、なんの疑いを入れる事なくして、子供の脳裡にインプットされる。

そして、たいていの場合、子供は意識が芽生えた時に刷り込まれた母の像を、あたりまえのものとして持ち、成長していく。

私が子供の頃、デパートで抱いたあの不思議な感覚は、あたりまえのものとして刷り込まれていた母の像に、一瞬の間、疑念が入り込んだ結果生じたものなのであろう。

流行りのことばを使えば、ジャメビュに近い現象か。


あれから、かなりの歳月が流れた。離れて暮らす母親もたいぶ老けてしまった。

ふたり並んでいても、

「女装したら、瓜二つですよ」

と高らかな笑い声を上げる人もいないだろう。

母は毎日、「おはよう」とメールをうって来る。これは私がひとりで暮らす母の安否を確認できるよう、そうするように言ったものだ。

だから、何かと慌ただしい朝の時間、「おはよう」のメールを見れば、それでよし、いちいち返信することはしない。

しかし、こんな事を書いているうち私の心境も多少、変わった。

もし、明日の朝、母から「おはよう」のメールが来れば、「おはようございます」と返信してみようと思う。

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