二人目
帝都【オルレイアン】。
主に人間が多く住まう、魔法が主流の世界屈指の大国だ。
冒険者の数も多く、また騎士団の数も他の国と比べて圧倒的であり、その練度も半端なものではない。
騎士団への入隊は最低でもB級クラスの実力が必要であり、現在はB級、SS級の以上の実力者は殆どいないが、その大半がA級とS級の実力者で纏められている。
過去に魔王の軍勢を相手に、苦戦を強いられながらも撃退した事があり、その軍事力は生半可なものではない。
特に冒険者ギルドのギルドマスターと、騎士団のトップである騎士団長はSSS級と言う英雄クラスの実力者だ。
二人の英名は今や世界に轟かせており、二人の事を知らぬ者はいないと言っても過言ではない。
そんな二人の内の一人、騎士団長【カザフ・インチェスケア】は現在、一人の男と対峙していた。
「貴様…一体何者だ!!」
カザフの前にいる男。
腰程まで伸ばした艶のある黒髪に、着流しがよく似合う少女のような可憐さを併せ持った少年だった。
腰元にはカザフの見た事もない反りのある片刃の剣が握られており、少年はその刃に付着した真っ赤な血を悦楽とした表情で眺めている。
「おい貴様!
私の話を聞いているのか!?」
多大な怒気と、ほんの僅かな殺気を少年へとぶつける。
それにより、漸く少年はカザフへと反応を示し、僅かに顔を彼の方へと傾ける。
「やれやれ、人が気持ち良く余韻に浸っていると言うのに、無粋な人ですね。」
ヒュンっと剣を振り、付着した血を払い落とした少年は、見事な流れで剣を鞘へと納めた。
「それで、私に何用で?」
先の質問を一切聞いていなかったのだろう、もう一度聞き直してくる少年に軽く舌打ちしながら、再度問い直した。
「貴様は一体何者だ。
これだけの惨劇を作り上げたのだ。
只の旅人です…で済むとは思うなよ?」
カザフの後ろには、彼が信を置く頼もしい仲間達が居る。
彼自身が鍛え上げた、帝国騎士団の中でも精鋭中の精鋭達だ。
全員がS級クラスの実力であり、副隊長を務める女騎士【レシア・グランフィール】はSS級の実力者だ。
例えSS級の伝説クラスの魔物が現れたとしても、彼等が居れば問題はないと言わしめる程。
しかし、現在カザフが信を置く頼もしい仲間達の表情は張り詰めたものとなっている。
一人はガタガタと手足を震わせ、一人はガチガチと歯を鳴らし、一人は顔を青ざめ、中には嘔吐する者までいる始末…。
その原因が、カザフの目の前に佇む未知なる少年の背後にあった。
少年の背後にある物は、死体、死体、死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体……………
夥しいまでの死体の山。
まるで戦争でもあったのかと勘違いする程の死体の数に、流石のカザフも背中に悪寒が走り抜ける。
その死体の全てが、人間とは違う異形の者。
“魔族”…魔王が統べる人間より遥かに上等な生物であり、その力は強大だ。
過去に帝国へと攻めてきた魔王軍も、魔王の配下である【四天魔将】がいなかったからなんとか撃退出来たものの、それでもかなりジリ貧であった。
少年の後ろで山積みにされた屍の数は、過去に攻めてきた魔王軍に負けずとも劣らない。
これだけの数を、まさか目の前の少年がたった一人で相手取ったというのだろうか?
「私は只のしがない流浪人ですよ。
別にあなた達に危害を加えるつもりなど無いのですが、何故剣を此方に向けておられるので?」
「貴様が……危険だからだ。
後ろの屍は貴様がこさえたのだろう?」
「えぇ、襲われたものですから。」
語尾に♪が付きそうな笑みを浮かべて答える少年に、カザフも若干顔を青ざめる。
よくもまぁそんなセリフを屈託の無い表情を浮かべて吐けたものだ。
その晴れやかとさえ表現出来る笑みを見て、カザフは言いようのない本能的な恐怖を感じ取った
「私が危険だと判断するのは勝手ですが、私としてはこれ以上剣を振るうつもりはありませんので。
まぁ、其方がやる気ならばお付き合いしますが…ね。」
「ッ!!」
思わず聖剣を握る手がじっとりと汗ばんでいる事に気付いた。
目の前にいる自分の胸元よりもまだ少し小さい少年が、まるで見上げる程の化け物だと勘違いしてしまいそうになる。
それ程までの気当たりをぶつけられたカザフは、まるで氷漬けにされた様に身体が動かなくなった。
「………では、私はこれで失礼させてもらいます。」
ぺこりとお辞儀をして、ゆっくりと歩み出した少年がカザフの横を通り過ぎて行く。
此方に一切の興味を持つ事も無く、ただ行き先のみを見据えている少年。
暫くして少年の姿が完全に見えなくなった時、カザフは緊張の糸が切れたかの様に大きく息を吐き出し、その場に倒れ込んだ。
「ブハァッ!…はぁ……はぁ……はぁ……。
い…一体、何者なんだあの少年は…。」
結局、少年が何者なのかは知る事が出来なかったが、カザフも含めた他騎士団の面々達はこれだけは確信していた。
もし、あの場で少年がその手の剣を此方に向けていれば、敗北したのは我々である…と。
「直様国に戻り、皇帝閣下に報告せねばならんな。」
先の少年の特徴を鮮明に思い出しながら、カザフは騎士団を率いて迅速に帝国へと帰還して行った。




