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想像上のスティグマ  作者: kitaro-
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第四章 赤剣と千里眼 ~3~


          ✠  ✠  ✠


 左斜め上から斬撃が襲い来る。

 右下から足下を狙って赤い剣が払われる。

 左下から逆の袈裟斬りが放たれる。

 ――それら全てを、琥珀は磁場の生成でいなし、体術を以て躱し切った。

 この体質を得たことで感謝すべき点は、その能力が目前の大男と、相性が良かった点だろう。

 赤い両刃刀を振るう〝(せっ)(けん)のデルタ〟は、〝鉄分の結晶化〟能力を持った(そう)(ぞう)(しん)(かく)らしい。

 鉄は等しく磁場の影響を受ける。

 そのため、戦闘に無縁だった自分でも、何とか戦うことができるのだから。この能力がなかったらと考えるだけで恐ろしい。

 磁場による軌道修正を繰り返し、いなし、躱し、誘導する。

 と、琥珀は背面に感触を得た。デルタとの攻防――と言うか、ほぼ防戦――で、少しずつ後退していたようだ。

 壁を背負う形。琥珀は逃げ場を限定された。

 しまった! と思う暇もなく、デルタが容赦なく突きを放つ。

 刃は、横向きに倒されていた。本当に容赦ない。右に逃げても左に逃げても、即座の横薙ぎが襲い来るだろう。血も涙もない男だ。いや、彼は操られた被害者だったか。

 琥珀は一瞬逡巡し、だが、感じた。

 ――助かった! 鉄筋コンクリートか――!

 詳細は分からない。多分、自分自身が能力に馴染んできたのだろう。

 背後の壁から、〝鉄〟の気配を確かに感じたのだ。

 だから、琥珀は上に逃げる。直後、(せっ)(けん)が壁面を抉った。刀身の向きを考えるに、上方への振り上げは放てない筈だ。

 磁力を用いて鉄筋に吸い付き、壁面を足場に変えた。

 足下に磁場を作りながら、琥珀は走り行き、天井すらも踏襲する。

 左右前後に天と地を加え、立体的に動くことができれば、逃げ場は格段に増えるだろう。本当に、スティグマ様々と言うべきか。

 天を行くこちらに向けて、地に立つ男が更に赤い剣を放った。新しく、血中から生み出されたダガーだ。

 連続して投擲される短剣が、背後の天井に突き立つ。

 琥珀は足場を蹴り、中空で身を回転させ、フローリングの床に降り立った。

 天地を戻し、軽いステップで着地したこちらに、デルタが駆け迫る。

 琥珀は、駆け寄る相手に背中を向けた体勢だ。そこから左足を後ろに引き、バックターンを行いながら、左腕を横に振る。

 上段からの振り降ろしを、何度目かも分からない誘導でやり過ごし、琥珀は大きな隙を見付けた。

 右腕を強制的にねじ曲げられ、デルタの体躯がバランスを失っている。今、こちらがレガリアを振るえば、確実に命中するだろう。

 反射的に、掻き切ろうとして、慌ててその動作をキャンセルした。何故ならば、自分の役割を思い返したからだ。

 それがこちらの隙となって、男が逆に、正拳突きを放つ。

「うわっ!?」

 硬質化された拳が、壁を砕いた。間一髪、右下の床を転がらなければ、頭蓋骨が砕けていただろう。

「くそっ! こっちが反撃できないからって……」

 先ほどの一瞬、勝利は確定していたかもしれない。しかし、琥珀はトドメを刺す訳には行かなかった。

 飽くまで、自分は足止め係。ここで勝利してしまったら、信号が途絶えるかもしれないのだ。

 琥珀は舌打ちして吐き捨てた。

「防衛戦ってのは、キツいなあっ!!」


          ✠  ✠  ✠


 ルナは、キッチンに身を潜めながらも、琥珀の戦闘を眺めている。

 激しい戦闘だ。だが、確実に琥珀が有利を保っている。まさか、こんな展開になるとは、最初は思いもしなかった。

 そんな彼とデルタの再戦の中で、ふと気付いたことがある。

 ――明らかに、琥珀は成長していますね――。

 さっき、壁を背にして逃げ場を立たれた時点で、数時間前の琥珀ならば終わっていただろう。

 だが、彼は磁場を用いた探知によって、鉄筋の存在を確認し、それに吸い付くことで回避を行った。多分、金属探知の要領で。

 不思議なことだと感じる。

 当たり前の話だが、(そう)(ぞう)(しん)(かく)には、己の能力の使い方が予めインプットされており、ゾンビとなったものには、自然、そのプログラムが適応される。

 しかし、琥珀に限っては、使い方がプログラミングされていないようだ。

 彼は、実戦経験を基にして学習し、成長している。とても人間らしい。

 ……そう言えば、琥珀は多数の部活を掛け持ちしているとか――。

()(こく)(せき)(むら)〟で彼が話してくれたことだ。

 琥珀曰く、昼飯に困らないかららしいが、彼の気質を考慮したら、単純に断れなかったのだろう。どこまでも優しい人だから。

 ともかくとして、

 ――物凄いセンスと言えますね――。

 これも推測だが、運動部を転々としている内に、体使いの心得や、適応能力などが磨かれていったのだ。

 元々の素質とあいまって、戦闘技能にまで昇華されている。

 本当に、(そう)(ぞう)(しん)(かく)としてはあるまじき、イレギュラーな存在だ。

(そう)(ぞう)(しん)(かく)でありながら、(そう)(ぞう)(しん)(かく)とは異なる存在……ですか」

 ルナは呟いた。誰に聞かせる訳でもなく。だが、こうは思う。彼の存在はどんな結果を生むのだろうか?


          ✠  ✠  ✠


 黒い空の下を走り抜けた車が、路上駐車する。

 車の色も空と同じく、真っ黒だ。

 その車は外国製らしい。証拠として、左の扉から降りてきたのは、運転手であるイオータだった。

「ここで間違いないかい? リーガル?」

 彼は、助手席のドアを開けながら、己の従者をエスコートする。どうやら、生来の紳士気質のようだ。

「ハイー。考えにくくはあるのですが、ワタシのナビゲーションは嘘を吐きませんヨー」

「そう、か」

 斜め上を見ながら、言葉を落とすイオータにリーガルが、

「琥珀とルナは良かったのデースカ? イオータ様。居場所が分かったのですし、今からでも呼び寄せるのは遅くはないデースヨ?」

「悪くない考えだけど、それはまず相手を確認してからだね」

 リーガルの提案を、イオータは半分承諾し、さらに自分の考えを述べた。

「まだ、黒幕の手の内が明かされていないし、突入するより先にデルタを仕留めてしまっては、相手が逃亡を図るかもしれない」

 だから、

「ベストの選択は、こちらが黒幕と対面し、同時に琥珀がデルタを行動不能にさせることだよ。そうすれば、相手の駒を減らしながら、チェックメイトもできるしね」

「流石はイオータ様デスネー! 完璧な戦略デースヨ!」

「ルナならば、GPSもお手のものだろうからね。リーガルは二人に何時でも連絡できるように」

「了解デースヨ!」

 しかし……。

 と、囁くような小声でイオータが疑問した。

「何故、こんなところにいるのだろうね……?」

 二人が乗ってきた車が止まっているのは、煉瓦塀に囲まれた建物の前だ。

 教会にも似た造り。両開きの木製扉。

 現在は、進入が禁じられている、その建物があるのは、()()(ざかい)の南西〝(せい)(どう)()(かく)〟である。

 建物の名は、〝()()(ざかい)(しん)(きょう)聖堂〟。

 世界最大の宗教〝(しん)(きょう)〟の聖堂の一つであり、デルタの襲撃を受けた場所。

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