第6話「紅き戦士の素顔」
先ほどまでの戦いが嘘のように、山は静まり返っている。
白く霞むパーキングの片隅で、俺はただ立ち尽くしていた。
目の前にあったはずの奴の死体は、周りの霧に溶けるかのように消えてしまった。
まるで、さっきまでの事はすべて性質の悪い夢だった、とでも言いたげに。
「やっぱり、自壊プログラムを仕込んであったわね……。そうそう証拠は残してくれないってわけか……」
声のした方を振り向くと、紅い甲冑の女性が直ぐ後に立っていた。
どうやら、先の戦闘での負傷はそう酷いものではないらしい。
「大丈夫そうだな。良かっ……」
俺の言葉を最後まで聞くことなく、女性は質問、というより詰問に近い口調で問いかけてきた。
「心配してくれたのはありがとう、と言っておくけれど、貴方はいったい何者?」
それはむしろ、俺の方が聞きたい質問である。
俺が何故こんな姿になっていて、こんな力を使えるのか、俺にも全くわからないのだから。
「……何者?って言われてもなぁ……。俺にもわからん」
「じゃあ質問を変えるけど、貴方は何故、「Evorrior」になれるの?」
……だから、そんな聞いた事も無い固有名詞を持ち出されても、ますます判らない。
とりあえず、自分の体を覆っている甲冑を指差して、聞いてみる。
両手を覆っていた光は、いつの間にか消えてくれていたが、この白い甲冑は未だに俺の全身を覆っているのだ。
「エヴォリアー?ってこの鎧のような物の事か?」
「……どうやら、とぼけてるって訳でもなさそうね……」
そういって、女性は呆れたようにため息をつくと、こう言った。
「こんなケースは聞いた事が無いけど……。つまり、あなたはこのシステムの事について全く知らず、なぜ自分がこんな姿になっているのかも判らない、という事ね?」
その通り。
ようやく少しはこっちの状況を理解してくれたって事か。
「そう!その通りなんだよ!」
「そんな嬉しそうに言われても困るんだけど……。とりあえず、システムを解除できる?」
「解除って……元に戻るって事?」
……それが出来るならとっくにやってる。
「……どうやれば戻れるんだ?」
俺の問いかけに、女性は再びため息をつきながらも、
「……やっぱりそこから教えなきゃ駄目みたいね。『元に戻る』という事を頭の中で考えればいいのよ。後は、システムが判断して解除になるわ」
と教えてくれた。
俺は、言われたとおりに「元に戻る」事を考える。
すると、全身を覆っていた白い甲冑はだんだんと透明になっていき、やがてもとの姿に戻ってくれた。
「良かった、戻れなかったらどうしようかと心配してたんだよな」
喜ぶ俺を見ながら、女性もシステムを解除した。
「あ……」
人間の姿に戻った女性の姿を見て、俺は思わず呆けた声を上げてしまった。
そこに立っていたのは、妙齢の女性。
声の雰囲気からもっと年上かと思っていたが、俺と同じくらいか、ひょっとすると少し下かもしれない。
目鼻立ちの整った、美しい女性だ。
こんな真夜中の峠で変身して戦っていたというのが、実際に見ていた俺ですら嘘のように思えてくる。
むしろ、モデルとして雑誌なんかの表紙に載っている方が相応しいのでは、と思ってしまうくらいだ。
さらに目を引くのが、髪と肌の色だった。
髪は背中まで伸びるロングヘアー。
そして、その色は透き通るような金色。
さらに、肌の色も日本人とは異なっていた。
アフリカ系とまではいかないが、東南アジア系やインド系のような褐色である。
にもかかわらず、顔立ちは日本人であり、何所の出身なのか一見では全く判らない。
「? どうかした?」
彼女は、俺が見とれているという事に気が付かないのか、怪訝そうな顔で言ってくる。
「い、いや、なんでもない」
あわてて視線を逸らす俺に、彼女は一瞬不審そうな顔をした。
だが、直ぐにもとの顔に戻ると、こう話し始める。
「じゃあ、とりあえず貴方にEvorriorに関する基本的な情報を教えるわ。それと、今この街で何が起きているか、という事もね。この力を持ちながら、これが何なのかを知らずにいるのは危険過ぎるから……」
そう前置きされた彼女の話は、俺を驚愕させるには十分過ぎる物であった。
お読みいただき有難うございました。
さて、紅い戦士の素顔がついに明らかになりましたね。
彼女は一体何者なのでしょうか?
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