第4話「出会い、そして・・・・・・」
「今日も……誰もいないな。まあ、平日だし当たり前か」
誰もいない赤谷峠の展望台パーキングで、一人そう呟いてみた。
前回走りに来てから一週間、俺は再び赤谷峠に走り込みに来ていた。
今日もやはり、パーキングに車はない。
「せっかく来たのはいいけど……。ガスってるなぁ」
そう言いながら辺りを見回す。
俺のいるパーキングには霧が立ち込めていた。
ただでさえ視界の悪い夜である。
霧が出てしまうとほとんど道なんて見えやしない。
実際ここまで普通に走ってくるのにも大変だったし。
「上るまでに晴れるかと思ったけど仕方ない、今日は帰るか」
そう呟いてワークスのドアを開けた俺の視界に、何か動くものがちらりと映った。
「……なんだ?」
霧の向こうへと目を凝らしてみる。
白い靄の中で、確かに「何か」動いているようだ。
そして、その「何か」はまるで瞬間移動したかのようなスピードで近づいてきた。
「はぁ!?」
刹那、白い霧の中から現れたのは、紅い光沢を放つ甲冑だった。
普通、甲冑ならば金属で出来ていそうなものだが、その甲冑は、全身から金属光沢というよりも宝石の輝きのような光を放っている。
まるで芸術品のようであった。
色もそうだが、形も変わっている。
東洋風とも西洋風とも取れそうな、不思議な形だ。
背中には4本の羽とも見えるような物が生えている。
それが何の目的で付いているのかは、皆目見当が付かない。
そして、その手には体と同じ紅色をした薙刀が握られていた。
「だ、誰だ……?」
いったい何がおきたのか、頭をフル回転させてみても、全く答えが出ない。
完全に俺の理解の範疇を超えている。
すると、その甲冑はいきなりこう言ってきた。
「早く逃げなさい!ここは危険よ!」
声からどうやら女性であることは理解できたが、俺に判ったのはそれだけ。
何から逃げなくてはならないのか。
そもそもどうしてこんな甲冑が突然目の前に現れたのか。
全く、ホントに理解できない。
ただ立ち尽くすままの俺に、その女性は苛立ったらしい。
俺の首根っこを掴むと一瞬のうちに パーキングの端へと跳んだ。
距離にしてざっと5,60メートルは離れている。どう考えても人間ではありえない脚力だ。
「とにかくここから離れて!」
そういってその女は再び霧の中へと消えていった。
……それにしてもさっきから判らないことだらけ。
先週に引き続き、またしてもたちの悪い夢なんじゃないかって思えるくらいだ。
とりあえずここから離れた方がよさそうな事だけは判った。
あの人の言うとおり、俺はここから離れようと振り返る。
ところが次の瞬間、俺の体は猛烈な力を持つ何かにガッチリ掴まれていた。
「い、痛……。こ、今度は、何だよ……」
遠慮なしに俺の腹を締め付けてくれている。
俺は巨大な万力にでも挟まれたような痛みに耐えながら、ようやく振り返った。
そこに見えたのは、またしても甲冑だった。
色がグレーがかっていることを除けば、先ほどの女性と良く似ている。
しかし、そいつからは先ほどの女性とは明らかに異なる雰囲気が感じられた。
そいつは、言葉一つ発しない。
人間らしさが、全く感じられない。
まるで鎧だけが、意思を持って動いているかのような、奇妙な雰囲気。
(こいつは……危険だ!)
頭の中に、本能的にそんな考えがよぎった直後。
俺を抱えこんだ二人目の前に、別の人影が現れた。
見覚えのある、紅い体。どうやらさっき俺を抱えて運んでくれた女性のようだ。
「くっ、盾にするつもりね……。Evoldierとはいえ、戦術に関する知能はあるってことか……」
エヴォルジャー?聞いたことも無い単語だ。
多分俺を抱えている奴のことだろう。
そいつは、俺を抱えたまま、背中から伸びた羽根状のものを肩越しに正面へと向けた。
「まずい!」
女性が叫ぶのとほぼ同時に、その先端から青白い光が放たれた。
まるで雷のような暴力的な光が迸り、一直線に赤い人影へと吸い込まれていく。
直後、大音響と共に、まるで目の前でフラッシュを焚かれたかのような閃光が走った。
(や、やられてしまったのか……?)
どうやら、俺を抱えているコイツと、俺を助けてくれたあの女性は戦いの真っ最中だったらしい。
ということは、彼女が殺られれば、間違いなく俺も殺される。
コイツも倒したと確信したか、正面に向けていたレーザー砲らしきものを元の位置へと戻している。
「まだ……チェックメイトには早いわ!」
その声に驚いて顔を上げた俺の目に飛び込んできた物は、先ほどの女性であった。
左手からは半透明の盾らしきものが掲げられ、表面からうっすらと白煙を上げている。
どうやら、このシールドを使って先ほどの攻撃を防いだらしい。
コイツも一瞬怯む素振りを見せたものの、再び両肩にレーザー砲を構え直すと続けざまに発射した。
シールドを構える女性の呻く様な呟きが、大音響の合間に俺の耳に入ってくる。
「こ、これじゃ埒が明かない……でも、無関係な人を巻き込むわけには……」
「無関係な人」ってのは間違いなく俺のことだ。
ってことは、俺を助けるために攻撃を躊躇ってるって事なのか……?
女性はどうやら片手では押さえきれなくなってきたらしい。
両手から先ほどのシールドを展開させて攻撃を防ぐが、攻撃を繰り出しては来ない。
「こ、このままでは……」
女性が呟いた瞬間、何発もの攻撃を受け続けたシールドがついに限界を超えた。
半透明のシールドが粉々に砕け散る。
当然、盾を失った女性も無事では済まなかった。
「きゃああぁぁっ!」
レーザーは盾によってかなり威力を減じられていたが、それでも女性は10m近く後ろへと吹き飛ばされてしまった。
女性が地面に倒れ伏すのを見て、コイツは倒したと判断したらしい。
脇に抱えていた俺の首を乱暴に掴むと、上へと持ち上げてきた。
首がギリギリと絞まっていく。
「い、息が……」
どうやら、脅威が無くなった以上、人質はもう必要ないということだろう。
必死で抵抗するが、奴は微動だにしない。
力の差があり過ぎる。
俺の意識は、次第に遠のいていった。
お読みいただき有難うございました。
ようやくSFバトル物の展開となりました。
しかし、いきなりの大ピンチ。
大作は生き残れるのでしょうか?
ご意見、ご感想等お待ちしております。