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第21話「乗客のいない列車」

 赤谷山での闘いから、2日が経った。

 俺は辛くも生き残り、こうして日常の生活に戻っている。


 結局、あの後さらにEvoldier(エヴォルジャー)が出てくる事は無かった。


 だが、倒してすぐに消えてしまったEvoldier(エヴォルジャー)から情報を得ることは出来ず、周囲からもVictim(ヴィクティム)Trial(トライアル)に関しての手がかりとなるような物は見つからなかった。


 あれから2日、俺は晄との「これまでの生活に支障が出ない範囲で協力する」という約束どおり、仕事に戻っている。


 晄は昼間も調査を行っているので、その内容に関しても教えてくれる事になっているのだが、今のところ連絡は無い。

 ……つまり、何も進展は無い、ということだ。


「……ま、今考えたところでどうしようもないか。昼間の調査に協力すると言っても、俺にできる事は無いし」


 俺はそう呟きながら、これから乗務する車両へと向かった。

 今日乗務する列車は、既に側線に待機している。

 

 この列車には、お客は一人も乗っていない。

 もちろん、回送というわけでもない。


 列車の先頭に連結されているのは、こげ茶色で塗装された電気機関車。

 そして、その後ろにはコンテナ車や有蓋車、タンク車などが雑多に(もちろん行き先別に仕分けされているのだが)何両も繋がっている。

 そう、今日の乗務列車は、貨物列車というわけだ。


 工業都市鈴河を走るこの鉄道では、今でも貨物列車が頻繁に往来している。

 一時はトラック輸送に主役を持っていかれたものの、最近はモーダルシフトとかで鉄道の利用が増えてきているようだ。


 機関車の横まで来た俺は、乗り込もうと手すりに手をかける。


 この機関車は、側面は窓だけで、ドアがない。

 代わりに正面にドアとデッキのある構造だ。

 最近の機関車では見られない古風な形状だが、それもそのはず、この機関車は昭和一桁の生まれである。

 しかも国産ではなく、遠く英国から海を渡ってやってきた舶来機だ。

 この鉄道には戦争が終わってすぐの頃に入線し、それ以来ずっとこの街で働き続けている。


 運転席に乗り込んだ俺は、まず屋根のパンタグラフを上げた。

 スイッチを操作すると、すぐに屋根の上からパンタグラフと架線が当たる音が響く。

 それと同時に、機器室からは送風機ブロワーの回る音が聞こえ始め、コンプレッサーが圧縮空気を作り出すべく稼動を始める。


 出発前の始業点検を終えた俺は、時刻表を運転台の脇に差し込み、時計に目をやった。

 出発時刻までは、後10分ほどある。


 間隙の時間。

 俺は、古びた機関車の運転席に座りながら、目を閉じる。

 瞼越しに差し込んでくる日差しを感じつつ、これまでの事について、脈略の無い思考を巡らせていた。



 この街では本当に晄の言う「Victim(ヴィクティム)Trial(トライアル)」が行われているのだろうか?

 

 それがもし事実だとしたら、一体、何故?

 

 そもそも、俺は何故、こんな力を持っているのか?


 望んでもいないのに、望んでも手に入らないような力を持つ羽目になったのか?


 これから俺たちは何処に向かうのか?

 

 その先に、今の俺が探している答えはあるのか?



 どの問題も、これまで何度も考えていた問題だ。

 再び考えたところでやはり、答えは出ない。


 この場所に答えが無いのなら、答えのある場所まで進んでいくしかない。

 それが何処に在るのか、何時辿り着くのかは解らないけれど。

 止まっていては、辿り着けない。


 答えを見つけるまでは、走るしかない。

 これまでも、俺はずっとそうしてきたはずだ。



「……だな。何処に行くのか判らなくても、今は走り続けるしかないんだ」


 俺は、閉じていた目を開きながら呟く。

 時計に目をやると、出発までは後1分。

 

 既に、正面の出発信号機も進行現示を示す青色に変わっていた。


 定刻、俺は白手袋を嵌めた右手で、信号喚呼を行う。


「出発、進行!」


 喚呼と同時に、左手で握ったブレーキハンドルを操作し、単弁、自弁2つのブレーキを解除。

続いて、右手に握った扇状の主幹制御器マスコンのノッチを、ゆっくりと入れる。

 釣り掛け駆動特有の衝撃とともに、列車はゆっくりと動き始めた。


 列車の最後尾が駅の転轍機を通過した事を確認した俺は、主幹制御器マスコンのノッチを順番に入れ、列車のスピードを上げていく。


 速度を上げると、先ほどまでの送風機ブロワーやコンプレッサーに加えて、床下からモーターとギアの凄まじい唸りが聞こえてくる。

 最近の電車とは比較にならないほどの騒音だ。


 もし、隣に人がいたとしても、会話も困難だろう。


「ま、これもこの機関車の個性かな。新しけりゃいいってモノでもないし」


 運転しながらふと、そんな事を呟く。


 とかく、現代の日本人は新しい物に惹かれる傾向が強い。

 だが、「最新」の物が、常に「最良」とは限らない。

 古い物でも大事に長年使っていれば、新しい物を何度も作って使い捨てるよりずっと経済的だし、環境にも優しい。

 

 俺はそんな事を考えながら、工場の立ち並ぶ街の中を縫うように列車を走らせ続けた。


 時折、見通しの悪い踏切の前で警笛ホイッスルを鳴らす。


 甲高い空気笛の音が、煙突の立ち並ぶ街に反響していった。


お読みいただきありがとうございました。


久しぶりに鉄道ネタに戻ってきました。

作中の機関車、やっぱりモデルがあります。

気付く人がいるかな?(ヒントは「E,E」です)


ご意見、ご感想お待ちしております。

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