第20話「迷ってられない」
対峙する、俺と2体のEvoldier。
互いに、相手の出方を慎重に窺っている。
だが、そんな膠着状態を破ったのは、どちらでもなかった。
「きゃあっ!」
俺の前に立ちふさがるEvoldierの背後から、女性の声が聞こえた。
通常、Evoldierは声を出す事は無い。
ということは……!
「晄さん!」
俺がEvoldierの肩越しに見たのは、地面に倒れこみながらも、辛うじて薙刀の柄で相手の剣を受け止めている晄の姿だった。
さらに悪い事に、その周囲では他の2体のEvoldierが今にも攻撃しようとしている。
「……させるかよ!」
次の瞬間、俺はさっきまでの葛藤など無かったかのように、対峙するEvoldierに向かっていた。
向こうも均衡を破られた事に対して瞬時に反応し、いったん左右に別れる。
どうやら、両側から挟撃を仕掛けるつもりらしい。
「望むところだ……!お前たちにかまっている時間はねぇ!」
今は、たとえ0.1秒でも時間が惜しい。
同時に向かってきてくれるのなら、纏めて2体とも葬れる。
両側から、斧と槍が同時に俺に向かってきた。
しかし、先ほどの一手で、武器でも破壊できる事は判っている。
俺は臆することなく、その刃に向かって両手を突き出した。
相手の得物が、俺の手の中で砕け散る。
「まずは……コイツからだ!」
俺は、右側に立ったEvoldierに肉薄すると、躊躇せずにその胸を手刀で貫いた。
光る右手が、胴体を貫いて背中から突き出す。
Evoldierは、声を上げることすらないまま崩れ落ちた。
「次!逃がすか!」
左側のEvoldierは、仲間がやられたのを見て一旦退こうとしている。だが、俺は見逃しはしなかった。
一気に跳躍して相手の正面に立つと、膝に向かって回し蹴りを入れる。
足を掬われる形になったEvoldierは、バランスを崩して倒れこんだ。
そこに間髪いれず、手刀を振り下ろす。
俺の手は、相手のわき腹をザックリと切り裂いた。
そのまま倒れこんだEvoldierに、俺は容赦なくとどめの手刀を打ち込む。
2体目のEvoldierも、1体目同様動きを止めた。
「おおおぉぉ!」
2体のEvoldierを葬った俺は、一挙動で晄の傍に飛ぶ。
俺と晄の間には50m近い距離があったが、Evorriorの脚力ならば一瞬だ。
幸いにも、晄に襲い掛かっているEvoldierも、その近くにいる2体もまだ晄に対して有効な攻撃は行えていない。
着地した俺は、跳躍の勢いを殺さないまま、晄に襲い掛かっているEvoldierに正面蹴りを食らわせた。
晄を倒す事に集中していたためか、俺の蹴りをもろに食らったEvoldierは、10mほども吹き飛ぶ。
「もらった!」
俺は、背中のプラズマ砲を展開し、吹き飛ばされたEvoldierが立ち上がるより早く撃ち込んだ。
相手は、回避どころか防御する余裕も無かったらしく、プラズマの光の中へと消えた。
残るEvoldierはあと2体。
俺の後に立ったEvoldierが、俺を真っ二つにするべく、手に持った両刃の長剣を使って水平に薙ぎ払ってきた。
「……見え見えなんだよ!」
そう来るであろうことを読んでいた俺は、剣が触れるより早く体を倒す。
額が地面に擦れるほど伏せた状態から、後ろに向かって蹴り上げた。
剣の横薙ぎをかわされたEvoldierは、俺の後ろ蹴りを顎に食らって仰向けに倒れこむ。
立ち上がった俺は、倒れたままの相手の腹に踵落しを決めると、そのまま右手で胸を貫いた。
「あと1体!」
そう叫んで振り返った俺だったが、俺が攻撃するよりも早く、晄の薙刀がEvoldierの背中に突き刺さる。
先ほどと同じく、限界ギリギリの速度で相手の後ろに回りこんだのだろう。
最後の1体のEvoldierも、薙刀を引き抜かれると地面に倒れ伏す。
それが合図だったかのように、他のEvoldierも昨晩同様、霞と消えてしまった。
赤谷山に、再び静寂が帰ってくる。
尤も、騒がしかったのは僅か5分にも満たないだろう。
刹那の時。
だが、その僅かの間に、6つの命が消えた。
生き残った俺たちは、言葉を発する事も無いまま、消えていったEvoldierたちの遺した闘いの痕を見つめていた。
お読み頂き有難うございました。
ようやく戦闘シーンが終了しました。
一応格闘技の経験はあるのですが、得物を使わないタイプなので、武器の使い方に関しては完全に想像です。
もし間違っていましたら、ご一報ください。(汗)
ご意見、ご感想お待ちしております。