表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/28

第16話「個人情報漏洩?」

 午後10時の、赤谷峠山頂パーキング。

 灯りの絶えない街中とは違い、此処に在るのは闇と静寂だけ。

 疎らな電灯と星明りだけが、辛うじて辺りを照らしている。


 士と春奈さんの二人が去ると、途端にパーキングは静かになった。

 尤も、この場所はこれで普通なのだ。

 いつもどおりの、静寂に包まれた場所。


 ……できる事ならば、ずっとこの静寂が続いて欲しい場所でもある。

 昨日の出来事のような、命のやり取りは、この静かな峠には相応しくない。



「……それにしても、ナンセンスだわ」


 晄が、俺を横目に見ながら呟く。

 心なしか、顔も少し怒っているように見える。

 まあ、原因は大体判ってはいるが、あえて聞き返してみた。


「……何が?」

「あなたの危機感の無さ。昨日自分が殺されかかった場所に友人を連れてくるなんて、非常識にも程があるわ。普通、止めるくらいの事はするでしょう?」


 ……やっぱり、そう聞いてくるか。

 晄の質問は俺が予想していた通りだった。

 言い訳にしか聞こえないかもしれないが、俺はとりあえず釈明する。


「俺だってもちろん止めたさ。でも、俺以外の被害者は皆街中から突然いなくなっているんだろう?事件は何処でも起きる物じゃないのか?」

「だとしても、いらないリスクまで負う必要は無いわ」

「それに、もし昨日のような奴らに襲われても、俺たちと一緒ならまだ安全じゃないか?この街では俺たち2人だけが奴らに対抗出来る訳だしな。もし俺たちがいない時に襲われたら、それこそ生きて帰れない。士もそう言って……」

「ちょっと待った!」


 俺の釈明を、晄が突然遮る。


「……今、なんて言ったの?」

「え?だから、俺たちが居ない時に襲われたら生きて帰れない……」

「違う!その後!」

「後?士もそう言ってた……って所か?」


 俺が最後のフレーズをもう一度口にすると、晄は困ったように頭を抱えた。


「……つまり、あなたはEvorrior(エヴォリア)に関する事を友人に話したのね?」

「えーと、まあ、そういう事になるけど」


 俺の言葉に、晄は溜息をつきながら指を額に当てた。


「……昨日のうちに止めておけば良かったわ。Evorrior(エヴォリア)に関する情報はそうやすやすと人に教えていい物ではないのよ。……話してしまった以上、もう遅いけれど」

「大丈夫だって、士はそんなに口の軽い奴じゃないから。それに、他の誰にも話すなと言ってあるし」


 そう、士は今日みたいに悪ふざけするところもあるが、決して口の軽い奴じゃない。

 仮にそうだとしたら、俺は絶対にこんな重要な事を相談していない。

 俺は士を信用しているし、力になってくれると確信していたからこそ、相談を持ちかけたのだ。

 

 そう言い切った俺を見て、晄は再び溜息をつきつつ、こう言った。


「……判ったわ、そこまで言うなら大丈夫でしょう。ま、とりあえず彼らに関する情報は集めさせてもらうけど」

「何故?」

「あなたの口振りからは無いだろうとは思うけれど、彼らがEvorrior(エヴォリア)を悪用しようとする者と繋がっていないかのチェックよ。一応、規則でそうしなければならないから」

「チェックって……。そんなことできるのか?」


 さも簡単な事だといわんばかりの晄に、俺は思わず聞き返してしまった。

 個人に関する情報の保護が必要以上に厳重に行われているこのご時世に、そんなに簡単に情報を入手できるものなのだろうか?

 俺の疑問に、晄は憮然とした表情で答える。


「当然でしょう?何なら、証拠を見せてあげましょうか。……昼間のうちに、あなたに関する情報を集めてもらってあるし」

「俺の?」

「そうよ。……氏名、遠藤大作。年齢、23歳。血液型、B型。鈴河鉄道株式会社運転区所属、現在勤続5年。生年月日は……」


 怪訝そうな顔をする俺を前にして、晄は俺の個人情報を滔々と語り始める。

 名前や年齢はもちろん、趣味や既往症までも挙げてくれた。

 もちろん、間違っている点は無い。

 俺はその情報収集能力の高さと正確さに驚いてしまった。


「どう?合ってるかしら?」


 得意そうな表情で話しかけてくる晄。

 「集めてもらった」という事は、彼女自身が集めたわけではないのだろうが、どうやら、彼女がそういった情報を即座に集められるような能力を持つ組織に属しているのは間違いないらしい。


「判った判った、信用します」

「そう、判ってくれて嬉しいわ。それじゃ、早速調査に行きましょうか」


 俺は両手を上げて降参のポーズをとる。

 それを見た晄は、満足そうな顔でそう言うと、止めてある車へと向かった。



お読みいただき有難うございました。


昨今、個人情報にたいしては過敏な社会ですが、厳重にしても結局名簿屋等に漏れているのなら意味がない気もするんですよね。


ご意見、ご感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ