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第14話「勝ちたい相手」

 ワークスを路肩に寄せて停車させる。

 エンジンは掛けたままだ。

 オーバーヒートの症状が出ている時は、エンジンを切るよりも、停車してアイドリングさせておく方がいい。

 エンジンを切るとクーラントやオイルの循環が止まってしまい、かえってエンジンが冷めにくくなるからだ。

 特にワークスは、タービンの軸受けにフローティングメタルを使っているので、高温時にオイルの循環が途絶えると、タービンの軸が焼きついてブローする危険性がある。


 車を止めて直ぐに、後から追いかけてきていた士のXXがヘアピンを抜けてきた。

 俺が止まっているのを確認したらしく、XXをワークスの直ぐ傍に止める。

 中から士が急いで降りてきた。


「どうしたんだ?何かトラブったのか?」

「……まあな。スクランブルの使いすぎで、オーバーヒートしちまった」


 苦笑いしながら、ボンネットを開けるための開放レバーを引く。

 ロックを外して、ボンネットを開けた途端に、熱気が辺りに充満した。


「うわっと、凄い熱気。やっぱり無理させすぎたか……」

「まあ、馬力の差があったしな。ブレーキングからコーナー脱出までは詰めてたわけだし、腕では負けてなかったんじゃないのか?」


 そこまで話した時、もう一台の車がヘアピンを抜けてきた。

 春奈さんのコペンである。


「どうしたんです?故障ですか?」


 降りてくるなり、士と同じ事を尋ねられた。

 ま、この状況を見れば、誰だって同じ事を聞くか。

 

「オーバーヒートだと。やっぱり、パワーの差がありすぎたみたいだ」


 俺が答えるより早く、士が先程の答えをそのまま伝えた。


「そうでしたか……。残念ですね」


 春奈さんはそういって、自分のことのように肩を落とす。

 (もっとも、彼女も一緒に走っていたので、他人事で無いと言えば無いのだが)

 と、直ぐにいつもの雰囲気に戻ると、俺たちに質問してきた。


「でも、2人ともあまり残念そうな顔してないですね?負けてしまったのに、悔しくないんですか?」

「ああ、悔しいって気持ちは、あまり起きないよ」


 俺の答えに、春奈さんは不思議そうに首を傾げる。

 そんな彼女の顔を見つつ、俺は話を続けた。


「確かに負けて悔しくないといえば、嘘になるだろうな。でも、俺たちは勝つことだけを目的に走っているわけじゃない。勝つ事のみが目的なら、もっと高性能な車に乗れば良いだけだ。それよりも、自分の腕が今どの程度のレベルかという事や、あの「赤谷峠最速」と言われる走り屋に通用するのかという事、そっちの方がよほど重要なのさ」

「そう。挑戦して勝てれば嬉しいし、負けたら負けたで、また新しい目標が目の前に出来る。「次に会うときこそ、勝ってやる」ってね。何度も負けた相手ならなおのこと、初めて勝てた時の嬉しさが格別なものになるしな」


 俺と士の答えを聞いて、春奈さんは感心したように何度も頷いた。

 

「へぇ、二人とも色々考えてるんですね。私なんか、単純に負けたら悔しいとしか考えてなかったです」

「春奈さんも走り続けていれば、そのうち色々と考えるようになるよ。俺たちだって、走り出した頃はこんな事まで考えてなかったからね」


 そう、俺だって、走り出したばかりの頃はそうだった。


 この峠を走る奴は大勢いる。

 もちろん、さっきのAZ-1のように、俺より早い奴も大勢いた。

 俺は、そういった奴らに負けたくないと思って走り続けてきた。


 だが、そうして走り続けているうちに、だんだんと判って来たのだ。

 自分にとって一番の敵は、相手ライバルではなく、自分自身だということに。


 自分に勝てるようになれば、どんな奴とも臆さず戦える。


 いつか、彼女も気が付くだろう。


 己に勝つことは、何よりも重要だという事に。


 


お読みいただき有難うございました。


走りに限らず、どんな事においても自分の弱い部分に勝つという事は大事ですね。

私もそうありたいものです。


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