第12話「バトル開幕!」
バス停の横からローリングスタートした4台のマシンは、第1コーナーまでの緩い登りストレートをアクセル全開で上っていく。
「くそっ、やっぱりストレートではパワー差が出るか……」
俺はアクセルを床まで踏み込みながら悪態をついた。
こちらもノーマルに比べれば倍近いパワーを誇るマシンである。
だが、さすがに250馬力と120馬力では差がありすぎる。
そう長くないストレートとはいえ、第1コーナーに入るまでに3車身近い差がついてしまった。
「……だが、下りのコーナーに入れば話は別だ!下りはパワーさえあればいいって物じゃない!」
そのままの差で頂上を通過し、第1コーナーに入る。
右へと回りこむ高速コーナーをアクセルコントロールでクリア。
第2コーナーも同じくアクセルコントロールで抜けていく。
この2つのコーナーはグリップで抜けるのがベスト。
ところが……。
「……な!! 正気か!?」
俺の目の前には、初っ端からとんでもない走り方をするAZ-1の姿があった。
グリップではなく、ドリフトしながらコーナーを抜けていくのである。
第2コーナーは第1に比べて若干きつい。
確かに、このコーナーだけを考えれば慣性ドリフトを使った方が速いかも知れない……が、ここは次のコーナーに向けて グリップで回るのが一番いいはずなのだ。
「このコーナーを抜けられたって、次はどうする気だ!?」
次のコーナーは180度近く左へ回り込むヘアピンコーナー。
間に若干のストレートを挟んでいるとはいえ、この速度でテールを振ったままではブレーキング体制に入る前にヘアピンに進入してしまう。
俺の予想通り、AZ-1はドリフト状態のまま左ヘアピンへ入っていく。
向かっていく先にはガードレール。
……その下は谷。
このままいけば、運が良くてもガードレールとお友達。
最悪、谷底へ転落だ。
だが、俺はバトル開始早々大事な事を忘れていた。
奴は、「狂気の蒼」なのだという事を。
「……まさか、あの体制から『振りっ返す』つもりか!?」
俺の頭に、ひとつの可能性が浮かぶ。
あの位置からでも、フェイントモーションを使って振り返せば、次のコーナーに対して理想的なラインを取れる。
しかし、ただでさえ難しい舗装路でのフェイント。
その上、AZ-1は独特の超シャープなハンドリング特性を持っている。
良く言えば、「旋回性能が高い」車なのだが、悪く言えば、「スピンしやすい」車とも言える。
さらに、AZ-1は見かけによらず重心が高めな上、トレッドが狭いため、横転も有り得る。
つまり、とんでもなくハイリスクな選択肢なのだ。
だが。
「!! た、立て直しやがった!」
奴は、予想通りガードレール寸前でアクセルを一瞬抜き、フェイントを使ってテールを一気に右へと振り返した。
そして、そのままドリフトでヘアピンを抜けていく。
「……だが、こっちだって離されるわけにはいかないんだ!」
こちらもタックインで一気にノーズの向きを変え、インベタのラインでコーナーを脱出していく。
180度近く回り込むと、直ぐに逆方向へ再び回り込むヘアピンコーナーが現れた。
2つ目のヘアピンは、1つ目に比べてRがきつい。
しかも、路面のうねりが激しいため、ステアを切り返すタイミングを間違えると一気にブレイクする可能性のある、危険なコーナーだ。
だというのに、AZ-1は2度目のフェイントモーションを使って車体の向きを変えると、ドリフトでコーナーをクリアした。
その動きには、全く無駄がない。
とんでもなくハイリスクなドライビングを繰り返しているというのに、その姿勢制御技術は、何処までも正確だ。
奴が「化け物」といわれる理由が、改めて判った気がした。
「恐ろしいほどのハイテクニックだぜ……。まるで、コンピュータ制御でもされているようだ……」
思わず、そう呟く。
とはいえ、こちらも手を休めてはいられない。
直後にある眺めのストレートに備えてクリップを奥側に取り、加速重視のラインをトレース。
だが、コーナーを脱出した直後、俺の目にはストレートをとてつもない勢いで加速していくAZ-1の丸いテールライトが映った。
ここのストレートは250m近くあり、かなり長い。
このままでは離されてしまう……。
「まずい……。ストレートではどうしても離される……。やっぱり『アレ』を使うしかないか!」
俺はコーナーを脱出した直後、ステアの裏に装備したスイッチを押し込む。
次の瞬間、ワークスは先行するAZ-1に向かって猛烈なダッシュを始めた。
お読みいただき有難うございました。
バトルの舞台となっている赤谷峠ですが、ここも実在する場所をモデルにしています。
割合にメジャーな峠ですので、判る人は判るかも知れません。
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