カラフル
誰にだって、楽しかったり面白かった日々はあると思う。
けれど、俺にそんな日々があったのかはあまり記憶にない。
まだ新学期が始まり間もない時期のことだった。
何かしたいと思っていたが特にやりたいことを見つけられずにいた。
俺は中学の時、ひたすら部活に打ち込んでいたことくらいしか記憶にない。
それ以外には、早見舞と何気ない日常を過ごしたりしていたくらいだ。
今思えば俺は何もしていなかった気がする。
「なにしてるの隼人? 」
俺の名前は黒鐘隼人、高校二年で今はずっと帰宅部だ。
「もう! 置いてくよ」
「ちょっと待って今行くから」
毎日自問自答している現状には耐えられなかったが、それを解決する手段も思いつかなかった。
「最近、なんか悩んでない? 」
「そんな風に見える?」
舞とはただ幼馴染だ、それ以上それ以外の何事もない。
そんな他愛のない話をして帰っても特にすることもなく日を重ねていく。
しかし、そんな日々に一筋の光明が見えた。
放課後、たまたま図書委員の仕事が残っていたこともあって学校に残っていた。
夕方になり、仕事を終わらせた俺は忘れ物をして教室に戻ろうとした時、誰かが階段の上から顔を出していた。
上を見ると夕日の照らされた場所に彼女はいた。
今思えばこれが人生の分岐点だったのかもしれない。
「上見るな、変態」
それが彼女との最初の会話だった。
「あっごめん……」
「貴方こんなところで何してるの? 」
「図書委員の仕事を終わらせてきたところです」
よく見ると学年のバッジが一個上の代だったので高三なのがわかった。
「ふうん……まあ条件付きなら許してあげてもいいけど」
「最悪だ……自己紹介がまだでした俺の名前は黒鋼隼人です」
「ああそうね私の名前は雨宮雫」
「それで条件って……? 」
「よかったら水泳部入らない? 」
「何で俺が? 」
「あと一人で夏の大会出れるの まあ嫌って言っても強制だけどね」
「でも水泳って混合ってありました?」
「去年から追加されたの男女混合がね」
半ば強引な形で水泳部に入ることになってしまった。
しばらく経ったある日、雫先輩に練習に誘われて試しに見学させてもらっていた。
「ここが練習場所よ、って言っても狭いけどね」
既に何人かの部員は泳いでいた。
「ここで見ていていいから」
と言い彼女は更衣室に向かっていった。
(面倒な事に巻きこまれたなあ……)
けれど、練習を見ていてなぜか懐かしい気持ちが湧いてきたのだ。
(何だろうこの気持ち)
するとしばらくして彼女が戻ってきた。
「どう?興味湧いた? 」
「まだどうにも……」
「まあしばらく見てなよ」
彼女はそう言うとプールに入っていった。
(凄いめっちゃ速い)
彼女は確かに他の部員より速かった。
しかも、彼女には気迫があった。
他の部員も頑張っているがそれ以上に彼女の方が気持ちが入ってるように感じた。
ひたすらその姿に夢中になっていた。
気付いたら練習が終わっていて、雫先輩に話しかけられていた。
「どうだった? 」
「凄かったです、ただ何でそんな練習真剣なんですか? 」
「私ね、実は去年の夏の大会で負けちゃったの、私のせいで……
先輩が泣いてるの見て私がもっとやれていたらとずっと後悔していたの、けど前向かないと先輩達に申し訳ないと思ってさ」
俺は今まで全力を出したことはあったかもしれないけど彼女にあって俺に無いもの……
もしかしたらこの人といればそれがわかるかもしれない。
「大会まででよかったら付き合いますよ」
俺は水泳部に入部した。
翌日、俺は練習に参加したがやはり今までの空白もあったし水泳初心者の俺はやはり他の部員に比べるとまだまだだった。
「それなりにできると思ってたけど……全然駄目だな……」
「そんなことなかったよ! 水泳未経験者にしては」
「絶対上手くなって先輩に認めてもらいますよ! 」
こんな感情を持ったことは初めてだった。
俺の人生は彼女との出会いで景色が変わってきてるのかもしれない。
翌日の授業、俺はとんでもない疲労に襲われていた。
「隼人が授業寝てるなんて珍しいね」
舞が話しかけてきた。
確かに最近は授業中は真面目に聞いていた。
「部活入ってから大変でさ」
「ふうん。まあ隼人が何かを真剣にやるなんて久々に見たから頑張ってね」
「わかってるよ」
と言いつつ、自分自身でも何らかの変化があったことには気づいていた。
けど、その変化にまだ答えは出ていなかった。
そして、放課後になり部活に向かう。
この習慣に不思議と嫌な気分がしなかった。
なんらかんだで夏の大会まで残り1ヶ月を切っていた。
俺は気付いたら部活の中でも2人には勝てるようになってきたが、先輩に勝つことはできなかった。
「全然、先輩に勝てないや」
「まだまだ、始めたばっかの人には負けないんだから」
俺は気が変わったみたいに水泳に時間を費やした。
そして、前日になった。
「やっとここまできたわね、今まで練習お疲れ様」
「いえいえ、明日の大会頑張りましょう! 」
「そうね、でも貴方がここまで続けていることの方が私にとっての驚きだったけどね」
「俺自身も一番驚きでした」
なんでここまで続けてこれたのか自分でも理由はわからないが、ただ部活のためにひたすら頑張っていた彼女に突き動かされたのは事実だった。
(なんだろこのモヤモヤした気分)
ひたすらここ数日モヤモヤした気持ちを取っ払うことができていなかった。
「じゃあ私帰るね、明日頑張ろうね」
「ちょっと待ってください! 」
俺は瞬間的に呼び止めてしまった。
「ん? どうしたの」
「あ……いえ……」
「あれ、もしかして緊張してるの? 」
(何を迷ってるんだよ俺は……言うことなんて一つしかないだろ)
「先輩! 俺雫先輩の事好きになりました! 先輩の目標に対してひたむきに頑張るところとか俺にはないものばかりで、だから明日優勝できたら付き合ってください」
「いいよ……ただし優勝したらだからね」
「はい! 」
大会当日。
俺は全神経を集中させていた。
(先輩のために絶対優勝する)
そのことしか考えてなかった。
そして大会が始まり結果はーー俺らの優勝だった。
先輩は終わった途端、泣いていた。
多分嬉し泣きだと思う、大変なことを成し遂げたからだ。
次の日、俺は屋上に呼ばれた。
「いいよ、貴方の彼女になってあげる!」
「いいんですか? 」
「約束だからね、でも条件付きじゃなくて私も隼人君のこと好きになってたんだからね」
俺はこの人と会えて世界が変わっていた。
努力から逃げていた俺が見る景色は明るい色に変わっていたのだ。
どうもmakuraです。
やっと書き終えました。
受験生忙しいんですよ泣
僕自身、青春系を書くのは初めてのことだったので文章とかおかしくなってたりしたら教えていただけたらなと思います。
Twitter@makura_hobbyで宣伝なんかをしているのでよかったらそっちでも絡んでいただけたら嬉しいです。
そして感想や評価なんでもいいのでいただけたらめっちゃ喜びます!