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第二の人生も甘くない

 ブックマーク10人付きました。

 ここでこんなに付くのは初めてです。

 ありがとうございます

 祖父さんの家に着いたと、同乗していた侍女に起こされた。


 あまりに代わり映えしない風景に途中から眠ってしまっていたようだ。


 大きく欠伸をしてうっすら瞼に涙が滲むとすかさず侍女がハンカチで拭く。…まさか目やにとかないよな…

 伸びをして眠気を覚ましてから、侍女に手を取られながら馬車を降りる。


 馬車を降り、眼前の建物を見たオレはポカンと口を開けた。


 え?ここが王城じゃないの?


 レンガを積み上げた荘厳な壁に、重く閉ざした黒い金属の門扉。その前の左右に陣取るは屈強な門番。


 あんまり見上げていると後ろにひっくり返りそうになった。

 幼児体型(この体)って重心がすぐ崩れるんだよね。

 そのままだったら石畳に頭を打ちつけていただろうが、侍女が支えてくれた。


 侍女のダニエラは昔からオレの側役兼お目付け役だ。

 今回のドキドキハラハラお泊り教室にも付いて来た。


 ただ、ダニエラもオレを突き放しているんで心強い、とは言い切れないんだよね。


 いつまでも門の前で間抜け面を晒しているわけにいかないんで、中に入った。


 いくつかのドアを通り過ぎ、いくつもの回廊を渡っていき、最終的に通された書斎には窓に正面を向け、こちらには背を向けている長身の男がいた。


「…来たか」

「はい。私はアレクシス・ランドルフ・グーテンベルクと申します。お初にお目にかかります、お祖父様」

「貴様を孫と認めた覚えも無いがな」


 取りつく島もねぇ!!


 頭を下げながら内心突っ込んでいたが、祖父さんはクルリと振り返る。

「儂はヴォルフ・エッカルト・ベッケンバウアーだ」


 ヴォルフって狼って意味じゃないですかやだ~


 心の中で茶化しているとギョロリと睨む。子供に向ける顔じゃねぇよ。

 この威圧感は前世の神官交流で会ったマタギの熊さんに似てるな。


 祖父さんは見るからに厳めしい軍人って感じだった。

 服の上からもわかる鍛え上げた鋼のような身体に、口元には立派なカイゼル髭を蓄えている。その反面頭の上は…。


 …ヤバイ…笑うな…ここで笑うとマズイことになる…


 必死に堪えるが、体の震えは止まらない。


 …祖父さんは晩年のビスマルクそっくりだった。


 肩を震わせるオレに祖父さんは眉をひそめただけで追及はせず、下がらせた。


 屋敷に送り込まれたとはいえ、するのは場の提供と教師陣の手配だ。

 …だったらウチでいいだろと思わなくもないが、あのダダ甘の母上様に過保護な兄貴じゃグダグダになりそうだ。


 よっし、やるか。


 オレは教師を待たせているという教室に向かった。


 ま、一応精神年齢は前世と今世で合わせて二十歳越えてるし、あんまし指摘されることは無いでしょ。それにもしあってもすぐに呑みこむだろう。


 …そんな風に思った時期もありましたよ…



 いやさ。ウチって固い職業だから、前世では礼儀作法とか座礼とか色々と叩き込まれてたんだよ。

 剣道してたのもあっていつも姿勢もいいしさ。


 だから正直ある程度は出来ると思ってたんだよ。


 …貴族の作法舐めてたわ…


 お辞儀の時の角度一つ、タイミング一つも相手の身分や場の状況、会の趣旨で異なるし、そんな客観的な認識は人に見てもらって毎回修正してもらうしかない。


 だが何度も繰り返ししている内に頭がゴチャゴチャしてきてわけがわからなくなる。

 結局今日一日で進歩したのか退化したのかも全くわからない。


 しかもマナーだけに止まらずこの国の歴史とか王族の歴史、その係累の貴族についてとか、学ぶことはたくさんある。


 いや、確かに知っとくに越したことはないだろうけど、ただ謁見するだけでここまでいらないだろう。


 特に大物貴族の人物判別学とか、舞踏会にデビューする時までいらないって。

 別に王様の所に案内されるまで貴族とすれ違ったりしないんだろうしさ。


 とはいえ祖父さんセレクトの授業内容に文句を付けることも出来ず。


 そして体力回復のはずの食事も疲れすぎてて味覚が麻痺してんのか砂でも噛んでいるように味気ないし、その時ですら祖父さんのチェックが入るから気が抜けないし。(食事作法云々より、祖父さんの前で下手を打てないと余計な力が入る)


 祖父さんと別れると眠い目を擦りながら廊下を歩く。


 子供の身体ってのは燃費が悪い。すぐ腹が減るし、眠くなる。

 とはいえここは敵地。気は抜けん。


 部屋に入ったらぶっ倒れようと、気力で歩く。


「…アレク様。失礼を」


 その声の直後、背後からヒョイと抱き上げられた。

「ダニエラ?」

「坊ちゃまはお疲れのようなので」

 こうして気遣っていながらいつもの無表情のままのダニエラにふっと力が抜けた。


「…ダニエラは時々思い出したように優しいなぁ…」


 納得しかねる、というようにわずかに眉をひそめたけど、小言は明日にしてくれ。

 今はとにかく眠い。


 いい加減意識手離すのに慣れすぎだろと思いながら目を閉じ力を抜いた。


 明日も頑張るから、今は休ませてくれ。


 おやすみなさい。ダニエラ、後はよろしく。




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