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ダニエラ視点 -私も自由(かって)にします―


 夜も更けて来たのでお部屋に様子を見に行くと、案の定アレク様は机で眠りこけておいでだった。


 ここ数日、カール様に魔法の特訓をするようになってからはずっとこうだ。

 もっとも、元々本好きのアレク様だ。本を読んでいる途中でついウトウトとし、そのまま眠ってしまうこともままある。


 読みかけの本に栞を挟んで閉じ、机で灯ったままのランプの火を消す。抱き上げるとベッドにお運びし、毛布を掛けて差し上げる。


 今はまだお小さいからいいが、もう少し大きくなるとベッドに移動していただく為に起こさないといけなくなるだろう。

 どうもアレク様の成長は遅いようだから思うよりも長く抱き上げることが出来るだろうが、その頃にはそうされるのを嫌がるだろう。


 寝顔を眺めていると、不意に昼間取り交わしたバッベル様とのやり取りを思い出した。




 バッベル様は貴族のご出身だ。


 使用人となると皆等しくミドルネームを名乗らなくなるので自己紹介だけではそうと察することは出来ないが、生まれ持ち、培ってきた気品は隠しようがない。


 そんなバッベル様には当然魔法の心得があり、アレク様とカール様の特訓風景の解説をしていただいた。


 私は平民出身で、魔法の心得も無く、そもそも魔力を持っていない。


 魔力を持っていない人間は魔力を視認できず、魔法の発動も察知できない。


 生まれ持たなかった物だし、ご自分の魔力に振り回され、望まぬ運命を享受しているアレク様を見ていたので、魔法にはさしてこだわりは無かった。


 だが、アレク様達の特訓を見て、ふと思ったのだ。


 アレク様のお側にいる為には魔法も必要だと。


 アレク様はこと魔法に関しては私を守ろうとお考えだ。

 それこそ私の盾となり、撤退時には殿(しんがり)となるおつもりだろう。


 しかし、それではアレク様の支えになろうと側でお仕えしているというのに、本末転倒だ。


 ならば自衛の手段を持った方がいいだろう。




 わずかに温もりの残る椅子に腰かけ、机にアレク様が読んでいた魔法書を広げる。


 魔法は理知的で理論的な学問だ。

 ならば仕組みが理解出来れば対処のしようもあるだろう。


 理論さえ理解すれば、アレク様にお願いして魔石に籠めていただいた魔力で私でも発動できるだろう。

 主人に何かお頼みするなど畏れ多いが、アレク様は私が魔法を使う事で身を守る手段が増えると、快く引き受けて下さるだろう。


 もしかしたら私の危険を案じて渋るかもしれないが、そこは押し通そうと思う。



 アレク様は何もかも一人でお決めになり、ご自身の能力の高さへの自負と自覚から危険の只中に身を投じる事がある。

 

 まだお小さい時に暗殺されかかった王太子と刺客との間に割って入られた時は知らず胆を冷やしたものだ。


 その度にどれだけ苦言を呈してもお止めになって下さらないのだ。


 ならば私も勝手にアレク様をお守りさせていただこう。



 ダニエラは魔法を覚えるつもりの様です。

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