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第二の人生は上手くいきません

 部屋の中にいたのは、ステンドグラスを背にドラ〇エの神官みたいな恰好をした、丸眼鏡をかけた白い髭の爺さん。


 …ってか、眼鏡って…


 この世界(ここ)は中世ファンタジーに見えて、色々とおかしい。


 オレ達の格好は中世の貴族が着ていた、(ロココ・スタイルか?)18世紀のフランスの貴族の着ていた軍服のような恰好なんだが、窓ガラスもあるし水洗トイレもあるし太陽暦だしと、色々と突っ込みどころがある。


 まぁ、西洋(そっち)には疎くて中世と近世の区別もつかないし、わかりやすいからどうでもいいんだが。


 スタスタと爺さんの前に行くと礼をし、挨拶する。


「アウグスト・ローレンツ・グーテンベルクが二子、アレクシス・ランドルフ・グーテンベルクにございます」


 噛む。マジで噛む。

 そう思いながらも、どうにか親父とオレのフルネームを言い切った。

 初め舌が回らなくて困ったよ。


 挨拶を終えて顔を上げるとホッホ、と爺さんが目を細めていた。


 …オイ。良いのかよ。教会の最高権力者がそんな好々爺で


 思わず突っ込みたくなったが子供に偉ぶることもないし、意味の無い事だ。むしろ威嚇して泣かれても面倒だ。


 ……けどこの爺さん、ウチの神さんと同じく底抜けのお人好しの匂いがする……


 少し肩の力が抜け、オレは促されるままに魔具の前に立つ。


 …うん。当然の如く水晶玉でしたよ。ハ〇ターハンターみたくコップじゃないだけ良かったけどさ。


 どうせあれだろ?ある属性の分だけ色が変わるとか、精霊が出てきて判ずるとかだろう?


 実際は中に閉じ込められた靄が色を変えるとのことだった。


 そうかい、とオレは何も考えずに手を翳した。


 自分の魔力の制御も忘れて。


 直後、オレを中心に白い煙が渦巻き、部屋が薄暗くなった。

 爺さん共々「え?え?」ってなってると、呼んでもいないのに水晶から青白い筋骨隆々のおっさんが飛び出してきた。


 鋭い目に尖った顎、みるからに人間じゃない。

 言ってみれば『アラ〇ン』のジャフ〇ーがジンになった姿っぽい。


 ここまで考えて、そういえばと思いついた。


「…あ、…な、『七つの偉大な封印にかけて、おまえにおまじないをかける。もがくのをやめ、わたしに申し開きをせよ』!!」


 オレの言葉にそいつはピタリと動きを止めた。


 読んでて良かったよハウ〇二巻!!あ、オレファンタジー好きじゃん。って今はそんなことどうでもいい!!


 オレが今言ったのはジンへの(まじな)いだ。アラビアも入ってんじゃねぇかこの世界!!


 ジンの放った強大な魔力に何事かと駆け込んできた修道士達も入口でへたり込んだ。

 ドアの向こうでは子供の泣き喚く声が聞こえ、阿鼻叫喚だ。

 だったら丁度いいと、オレはジンと対峙した。


「自由になりたければなればいいし、閉じ込めた誰かに復讐したいならそれでいい。

 だからこの場の者には何もせずに立ち去れ!!」


 どうせ誰も聞いてないと、三歳児らしからぬ言葉を言い放つと、ジンはオレに恭しく頭を下げる。


 …え?そういうノリ?


 何となく次に言いそうな言葉に予想がついたんで先に言う。


「伝言ならウチの神様に言っといて。後で聞くから。今は一杯一杯だから」


 これからオレの魔力についての判定を受けるんだから、壮大な予言の類は後に回したい。

 その旨告げると、ジンはいたく残念そうな顔をして水晶玉の中に戻って行く。


 え?戻るの?だったら初めからそこで大人しくしててくれよ


 どうも神様といい、大きな力を持った存在は過剰演出がお好きらしい。


 オレが呆気にとられているとジンがいなくなり、周囲はほっと一息ついた。

 とここで、爺さんがヨロヨロと歩き、オレの頬を包む。


「…お、おお…。我が教会に伝わる予言にこういうものがある。

 数百の後に水晶に封じられし魔神を解き放つ者が在るだろう。その者こそこの国を守護する者なり、と」


 くっそ予言(トラップ)はこっちにあったか!!


 折角けったいなジンの口を封じたってのにこれじゃ意味が無い。

 周りの修道士も妙に期待に籠もった目を向けて来る。……数人化け物に向けるみたいな目の奴もいるけどな。


 オレはため息をつく。

「……神官様。私の持つ属性は何でしょうか?」

「全て揃っておる」

「…そうですか…」

 わかっちゃいたが、ため息が出る。だというのに爺さんはオレの肩を抱く。

「では行こうか」

「……どちらに?」

「そなたの家じゃ」

「………あの…両親には件の予言の事は伏せて下さいませんか?自分でもまだ受け止めきれていないので」

 爺さんはさもありなんといわんばかりの慈愛に満ちた目でオレを見やり、手を引いて歩き出した。兄貴が慌てて駆け寄るともう一方の手で兄貴の手を取る。


 …何というか、平等な爺さんだ。こんな出来た大人には今世で初めて会ったよ。



 オレ達同伴で屋敷に行った爺さんは両親にオレの魔力の巨大さと、その才能の凄さについてとにかく語った。

 アンタの養子にしてくれない?って位本当に褒めちぎり、オレを誇る。


 帰りがけもオレの頭を撫で、いつでも力になろうと確約してくれた。


 …初対面で判断し切らないが、どうもオレの味方が二人になったようだ。



 それから数日してオレの近辺も大人しくなった所で、自分の魔力について調べることにした。

 誰かに頼るにしてもまずは自分の現状を知らないと話にならない。


 そう思って向かった先は屋敷の裏手にあるウチの所有する山だ。

 所有する理由は敷地内に他人が踏み込まないよう、というだけで実際何の資産価値も無いごくありふれた山だそうだ。

 だったら少しばかり陥没させたり焦がしたりしても、そうお咎めは無いだろう。


 とはいえ二割であれだけの騒ぎになったんだから全力を出すわけにいかない。


 …精々五割…いや、四割五分かな…


 そう思い、片目を瞑って加減しつつ翳した手に魔力を送る。


 山が更地の焦土になった。


「……え~と……〝戻れ〟!!」

 願いを込めて叫ぶと一瞬で元の何の変哲も無い山に戻った。


 …オイオイマジかよ…


 本当にオレは笑えない位チートだった。


 その事実に脱力し、オレは意識を手離した。


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