第二の人生でもこじらせた
こうして始まった学校生活だが、一つ問題がある。
〝魔法学校〟なのに、オレに魔法で学ぶ事が無い事だ。
オレの人並み外れた魔力と魔法の才能のせいで、一律に教育する方法が合わない。
それに自分で興味の向くまま改造や改良をやってきたんで、そこらの魔術師よりは魔法のレパートリーに富んでいるし、精度も高い。
おまけに茶飲み仲間であるグスタフ爺は神官長。
つまりこの国随一の魔法の使い手。
……そんな爺さんに遊びに行く度に魔法の手解きを受け、お墨付きをもらった身だ。
小学校の先生程度が今更何か教えるのも恐れ多い、だそうだ。
そこでオレはどうなったか。
魔法の授業が免除になりました。
ハリ〇タみたいな授業風景を体験してみたかったのに!!
オレにはそこに交わる資格も無いと!?
そらオレの魔法使った姿が知られていないはずだ。
魔法小学校といっても魔法以外の普通科目や貴族らしく礼儀作法とかの授業があるから学園生活が送れない、ってことはないが、どこか味気ない。
オレは入学して一週間もしない内にそんなやるせない気分を抱くことになった。
その日もオレは校内にある草原で寝転がっていた。
…そういや、昔は〝ウィンガーディアム・レヴィ〇ーサ〟とか〝〇クスペクト・パトローナム〟とか悪友と言い合ってたなぁ…
立ち上がると杖を突きだすイメージで叫ぶ。
「エクスペクト〇トローナム!!」
「サーペン〇ーティア!!」
「………は?」
何ですかさずマル〇ォイが蛇出した呪文が返ってくんだよ。
そんな劇中で一回きりの呪文を覚えている奴がそういるか。
言ってみりゃ『天空の城ラ〇ュタ』で〝バ〇ス〟じゃなくて〝リテ・〇トバリタ・ウルスアリアロス・バル・ネトリール(ラピ〇タを目覚めさせる呪文)〟を覚えているようなもん…
ってそうじゃない!!
何で前世の魔法小説の呪文を知っている奴が今世にいるんだ!?
慌てて周囲を見回すと、こちらに背を向けて走り去る奴が見えた。格好からして男のようだ。
だったら多少手荒にしていいよな?
オレは足の裏にブースト(火と風の魔法の合わせ技)をかけ、そいつを追いかける。
校舎の立ち並ぶ区間に入るとあまり大っぴらに魔法を使うわけにいかず、身体強化の魔法にかけ直したが、速さは衰えず、撒かれることなくそいつを追いかけ、視界に収めていた。
しかし、その途中で横合いから突風にぶつかられた。
自然発生の風じゃなくて、渦巻く小さな竜巻をぶつけられた感じだ。
オレは独楽のように宙を回転し、強く地面に叩きつけられた。
痛みに呻いたわずかな間に、追っていた相手を見失った。
悔しさからオレは歯噛みして地面に拳で殴りつけた。
「畜生!!」
ダメ元で〝サーチ〟をしても、それらしい反応は無かった。
はぁ、とため息をついていると、オレ以外の反応があった。
一か所で留まっているからさっきの奴とは違うが、それにしたっておかしい。
今は授業中のはずだ。
なのにどうして校舎の外にいる。
反応していたのがそう遠くない所だったのもあり、オレは足を運んだ。
何となくの気晴らしのつもりだった。
まさかその気晴らしが思いもよらない方向にオレを進ませるとも知らずに。
反応があったのは塔と塔の間だった。
細長い路地のようになっていて、奥には光も届かず真っ暗闇だ。
こんな所に明かりも無しにいる人間は一体どういう奴なんだと思いながら手元に作った小さな火玉で奥を照らす。
そこでは地に這いつくばり、身を曲げて呻いている男子生徒がいた。
「オイ!!」
そいつの腕を掴んで引き摺って路地から出し、日の下へ連れ出すと、そいつは酷い怪我をしていた。
それも寄って集って殴られ蹴られいたぶられた、打ち身の怪我だ。
目立つ顔に傷が残らないようにしている所に、小賢しさを感じさせる。
そんな陰湿な事を考え始めるのは精々中学年からだろうと思っていたが、そいつはオレと同じ一年生だった。
クラスが違うのに同学年だとわかったのは、知らぬ顔じゃなかったからだ。
怪我をして一人呻いていたのはカールハインツ・ユルゲン・バッハシュタイン。
公爵令息で第二王子の従弟。
そして何より、攻略対象者だった。




