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ダニエラ視点 -私の坊ちゃまが…―

 ダニエラ、涙拭けよ、な話。



 今日、アレク様が十日振りに屋敷に帰ってこられた。


 出迎えた時に妹君がお生まれになったとお伝えすると、いつになく目を輝かせ(他の方にはいつもの無感動なように見えたろうが)、買って来たという薄桃色のブローチとナターリエ伝説の逸話をモチーフにしたオルゴールを妹君付きのメイドに託した。


 まるでお生まれになるのが妹君だとわかっての選択に見えたが、アレク様のことだからそうなのだろう。


 奥様にもお土産を渡しておいでだったが、

 ……いかにも子供らしいと奥様が喜びそうで、かつ邪険にされ捨て置かれても懐も胸も痛まない旅先で拾った貝殻と石だった。


 …アレク様は自分が他人にどう思われようと気にせず、傷つかないように見えて、その実心の中では好き嫌いをはっきりつけている。


 そうした所は子供らしいと安心し、アレク様の中で大部分を自分が占めていると思うと嬉しくあり面映ゆくある。


 産後で療養中の奥様と、お仕事でまだ帰って来られない旦那様を除いてアル様とフランツ様と夕食を摂られる間も旅行中の思い出を楽しげに語り合っているのを見て、胸を撫で下ろすと同時に寂しくもあった。


 しかしそんな寂しさも部屋に戻ってアレク様よりお土産があると聞かされて払拭された。


 …アレク様のお土産を見るまでは。


 アレク様が私にと選んだのはナイフ研ぎの砥石だった。


 私の用いる鋼のナイフに合った硬く、上質な天然石で砥石としてはこの上ない。この硬さなら面直しを頻繁に行う必要も無いだろう。


 それに、


 用途に合わせて刃欠けなどを修正する際や、刃の形を大幅に変更する『荒砥石』。


 通常使用する、刃先の微調整やしっかりとした刃先のラインを作る場合に用いる『中砥石』。


 中砥石で出来た細かい傷を取り去るために使用される砥石で、最終仕上げとしても用いる『仕上げ砥石』


 と、一式揃っている。


 ……その上、仕上げを行った刃先にさらに繊細な仕上げを行い、特に見栄えや切り口などを重視するプロの仕上げにふさわしい『超仕上げ砥石』まである。



 …どうして妹君には女らしく、奥様には子供らしいお土産を見繕ったのに私には武骨な(薄桃色でいくらか柔らかい印象だが)品なのだろうか。


 元々女が身一つで世間に放り出されたということで、私は自衛の手段として体術を鍛え、ナイフを用いての格闘術も修めている。

 それにしたってアレク様の前ではそうした素振りはなるべく見せないできたというのに、どうして…。


 その思いから不躾にも一体アレク様の中での私の評価をお尋ねすると


『優しくて、オレが一番信頼しているメイド』


 とのことだったので、どうにか心の平穏を保つことができた。


 それから多分フランツ様やアル様に勧められて選んだだろう、女性向けのお土産も別に渡され、ご自分用に買ってこられたお菓子を一緒に食べようと誘われ、私の心はいくらか浮遊した。


 疲れから微睡む主人(アレク様)をベッドに寝かし付け、私はまた改めて誓う。


 預けられた信頼には報いると。


 …ですが、どうか私を〝メイド〟ではなく〝戦闘要員〟として認識しないで下さいね?




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