第二の人生は順調です
オレが生まれ変わった先は魔法と剣の世界だった。
町を外れた岩山地帯に行けば竜が飛び交い、森の奥では妖精と小人がダンスを踊り狂っているような、そんなファンタジーの世界だった。
…オレ、結構な読書家だったけど、SFとファンタジーには興味無かったんだよな…
そう思って始めた人生だったが、まぁ、不満は無い。
オレが生まれたのはグーテンベルク伯爵家だ。
まずまずの家柄だし、その気になれば母親の実家が王家に連なる公爵家なんで高い地位だとも言い張れる。
そんな美味しい生まれだ。
そして望み通りオレの前に兄が生まれていた。
オレは次男坊でさして期待されていないのと、両親が優秀な兄を可愛がってるのもあって程好く放置されている。
放置、といっても朝晩の食事じゃ顔を合わせるし、あからさまな無視とか虐待はされていない。両親共、たまに思い出したようにオレに構ってくれるしな。
それに兄貴が出来た奴で何かとオレを気にかけ、手を差し伸べてくれるんで疎外感とか孤独感だとかを感じずにこれた。
今日も今日とて自室で机に向かってると兄貴がやって来た。
「アレク。お外に行こ」
兄貴に手を差し伸べられたんでオレは椅子から降りるとポテポテと歩き、兄貴の元へ行った。兄貴はオレが目の前に来ると抱き止めた。
…言っとくがオレはまだ三歳だ。オレを抱き止めてる兄貴も五歳だから傍から見ると微笑ましさ一杯の光景だ。
オレの名はアレクシス・ランドルフ・グーテンベルクで、家族とか親しい奴はアレクと呼ぶ。
兄貴はアルフレート・ライナルト・グーテンベルクだ。
兄貴は腕の中のオレを覗き込むと柔らかく笑いかける。
ふわふわでカールした金髪に青空みたいな青い瞳も相まって、まるで絵本の王子様みたいだ。
「アレク。今日は教会だよ」
教会?ミサは今度の土曜のはず…。……ああそうか。魔力の適性検査か。
この世界じゃ生まれた時は洗礼、結婚の時は立ち合い、死んだ後は葬式ともう一つ、魔力の適性検査まで教会のご厄介になる。
いつだったか夕食の席で親父が「そろそろアレクにも受けさせよう」と言ってたしな。
兄貴は「大丈夫だからね」とか言って来るが、そんなに意気込まんでも…。
とはいえ兄貴の心配もわかる。
平民はともかく、貴族社会じゃ魔力が全てだ。
いかに位が高くとも魔力がお粗末じゃ話にならない。
ま、そういうお貴族様は政略結婚とかの結果で血筋はいいからそんなことにはならないか。
そう。うんざりする程に魔力は血筋に依存する。
だから一般庶民が持って生まれることはまず無い。だがもし持ち得ていたなら突き抜けていて、それこそ神話扱いとはいかないまでも英雄として名を刻むことだろう。
オレとしてはそこまでいらないんで、そこそこの量で万遍なく属性網羅してくれてればいいです。
火とか風とか雷に憧れるけど、日常じゃ使い勝手悪いだろうしな。
だから日常生活に役立つ水・土・木がありつつ攻撃属性もあるとありがたいです。
…ま、ウチの神さんのこったから手を回してくれてるとは思うけど。むしろやり過ぎてると思うけど。
そんなことを思いながらオレは脇の下に腕を入れられて持ち上げられたまま兄貴に運ばれ、玄関へと向かってく。
何か兄貴とは別の意味で心配になってきたよ。
…そしたら案の定だったよ。
教会の奥まった部屋の前の通路に置かれた木の長椅子にワクワクでもドキドキでもなく、ハラハラして座って待つ。
オレ以外は皆母親同伴だが、それはいい。
兄貴が自分が連れてくって言い張ったし、そもそも母上様は来なかっただろうからそれはいい。
問題はそこじゃない。
五歳以下の子供の持つ魔力は微弱で捉え難いんで、ここら一帯には魔力の増幅と凝集をする術式がかけられている。
隣から伝わってくる兄貴の魔力もそれを差し引いても大したもんだ。
…で、オレの魔力が半端じゃないみたいだ。
さっきから見張りの修道士のおっちゃんが顔引きつらせてるし。ただでさえ悪い顔色がもう土気色になってるし。
…んー…嫌な予感がして魔力の出力を二割位にまで抑えてたんだが、それでもマズイのか…
二割でこれって、神様はオレに何をさせる気だ?
これじゃ検査に使う魔具を壊しかねないからセーブするのをイメージトレーニングしようとしていると、順番が来た。
まだ自分の魔力を制御しきれない兄貴はここで待機だ。
何でも同じ場にいると魔力が混じり合ってオレの魔力がわからなくなるからだそうだ。
オレはあっさりしたものだったが兄貴がいたく心配した。
オレが「にーちゃ。またね」と目一杯背伸びして頭に手をやると、やっとうん、と涙目で頷いた。
ついでとばかりにバイバイと手を振ると手を振り直し、やや安心した様な顔をする。
…兄貴ってブラコンだよな…
そんな生温かい感想を持った。今更だが。
さて、どう乗り切ろうかね魔力測定。
オレは魔法の居城に乗り込む心構えで部屋に入る。