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第二の人生も変わらない



 目を覚ますといつぞやの精神空間だった。

 靄のかかったような曖昧な視界に、フワフワとして実感のない足元。


 そこでオレと神様は向かい合って正座をしていた。

 オレが腕組みをしているのに、神様は膝に手を置き、俯いている。


 「神様ちょっと話をしようか」とここに乗り込んでからずっとこうだ。


 神様と会話するだけなら心の中で念じるだけで事足りるし、いつもなら神様が勝手に頭の中に語りかけてくる。


 だが、今回ばかりは面と向かって話をしたかった。


 今のオレは倉持(くらもち)敬大(けいた)の姿で、何故か宮司服だ。

 …多分神様の趣味だろう。この格好好きだったから別にいいけどさ。


「なぁ、神様。オレが何をした」

「…………」


 人と話をする時に目を逸らすな!!アンタどんだけオレに顔向けできない事してんだよ!!


 この神さんは気の毒な位オレ達に嫌われるのを恐れる。そのくせ色々と手を回したり気を回したり色々してくれてんだが。

 これで反抗期の息子・娘を「あらあら」とあしらって、することをする肝っ玉母ちゃんみたいに図太けりゃ良かったんだが、何を間違えたかこの通りだ。


 …オレの先祖何をした


 一体何をしたら神様がこんなに下手に出るんだよ。


 オレは畳返しのように右手でバン、と膝の横を叩く。その音と勢いに神様は気の毒な位身を縮こまらせる。


「神様!何かオレまた別の神様に気に入られたみたいなんだけど、どうしよう!!」


 神様はずっこけた。


 ウチの家系はやたら色んなものに好かれる。

 肝試しすりゃその場に巣食ってた幽霊が付いて来るし、修学旅行で寺社仏閣に足を踏み入れればそこの神様が付いてこようとする。

 幽霊なら祓うか、霊験あらたかな寺を紹介して、成仏する手伝いをすればいいが、神様はそうもいかない。


 どんなに礼を尽くしても、頭を下げても、オレにはもう守護神がいますと言っても引いて下さらない。


 最終的には神様同士のガンのつけ合いになるんで、毎回気が気じゃない。


 だから今回もどうしたらいいのか相談しに来たわけだ。

 あと、一時脱出。


 ん?じゃあ何でああも威圧的なのかって?


 まずは必要以上に重くなっている空気を変える為。そして神様の顔を上げさせる為。


 あ。もしかしてこんなんだから神様必要以上にウチの連中に委縮してるんじゃないか?

 ウチは軍神を祀っている関係で、これでもかって位の武闘派一家だったから。


 そんなこんなな本題に入らずに全く噛み合わない一方通行のやり取りをしていると、オレは背後からふわりと抱きしめられた。


 抱きしめられた、というか首に腕は回されているがそれ以外の感触は伝わってこない。


 …まさか…


 嫌な予感を払拭も出来ないでいる内に、聞こえてきた声に強められ、確信に変わる。


「あら。私を差し置いて何の話?」


 鈴を転がしたような可憐で涼やかな声。さっき聞いたばかり、そして逃げ出そうとした声だ。


 何でついてくんの!?距離取った意味ないじゃん!!


 振り返ると…そこにいたのは巫女さんでした。


 何で巫女装束!?ここって自動的に神職衣装になるの!?


 …いや…神様の存在意義を強める為か…


 ただでさえここは異次元で、それも異国となると神様の影響力どころかその存在すらも危うくなる。

 そこで架け橋となるオレの中に自分に利する空間を作り出し、どうにか存在を保ち、力を及ぼせるようにした。


 …神様の心遣いに涙が出そうになった。そこまでしてオレを守ってくれなくていいよ。オレが死んだのもオレの無茶のせいなんだから。


 だってのに女神様は辛辣に言い放つ。


「一体どういうつもりかしら。別の世界に渡ってまでこの者に干渉するとは。


 この者を守れもしなかったくせに」



 その言葉にオレの中で何かが切れた。


 オレはダン、と膝を立てて立ち上がる。剣道と弓道両方したが、剣道の立ち方の右膝を立てるやり方だ。

 そのまま右足を軸に半回転し、女神様をキッと睨み据える。

 女神様はポカンとしている。


「神様は悪くない!!」


 オレは死んでからずっと言いたかったことを訴えた。


「オレが死んだのは止めとけって言われたのに樹海に踏み入ったからだし、神様はオレや悪友(ダチ)が家族の元に帰れるよう骨折ってくれた!!


 だから、神様にそんな事言うな!!」



 オレと悪友二人が踏み込んだ樹海は本気でヤバイ所だった。

 いや、途中まではごく普通の心霊スポットに近かったんだ。だから拍子抜けした位だ。


 でも、中程を越えると別次元だった。


 オレ達の骸はどこも損ねることなく、樹海の入口で回収されたはずだが、それが奇跡に思える位、足を踏み入れた者を喰らいつくす場所だった。


 悪友の骸を抱えて出口に走るオレをサポートしてくれたのは神様だった。

 せめて悪友(こいつら)を家族の元に、というオレの最後の願いを叶えてくれる為に。


 本当はオレ一人でも生き残らせようとしてくれたのに、それを望んでいたのに。


 救いの手を拒んだのはオレだ。



 涙目になりかけたのをグッと堪えると、ポン、と肩を置かれた。振り向くとさめざめと泣く神様だった。



 ああそうだよ。アンタら神様はいつも勝手だ。人とは尺度も違う。


 でも、それでもオレ達はアンタが好きなんだ。だから祀り続けた、信じ続けた。

 そうして続いて来たのがオレ達一族だ。


 神に何かしてもらえた人間が同じだけのものを返すわけではないけど、少なくともオレ達はアンタが好きでいてくれる分だけアンタが好きなんだよ。


 だからたとえ尊い、力を持った女神様でも、神様の事を悪く言うのは許せない。


 女神様はしばし目を瞬かせていたが、笑みを深くした。


「ああ。そうか」


 来るか、と身構えていると、頭を抱き寄せられ額に口づけられた。


「…え…」


 全く動きが読めなかった。


 固まるオレを抱き、女神様はオレの背後の神様と向き合う。


「                              」


 女神様は何かを言い、神様はそれを受け入れた。


 だが、オレの耳には聞き取れず、オレは女神様に連れられて現実に戻って行く。


 手を伸ばした時に見せた神様の穏やかでどこか悲しげな表情が目に焼き付いたまま、オレの視界は白んでいった。




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