アルフレート視点 ―空回ってる兄の思いー
弟は昔から規格外の子供だった。
言葉を発するのも早かったし、自主的に寝返りから始まって歩く為の訓練をしていた。
そして魔法を使うと伝説の先祖、エドウィン・フェリクス・グーテンベルクと生き写しの、暗灰色の髪に瑠璃色の瞳になる。
そのくせ本人は自覚も無くのらりくらりとしている。
そんな弟の兄をして早五年。いや、実際は二つ違いだから二年なのだけど。
いい加減弟の突拍子の無さには慣れていたつもりだったけど、流石にこれは…
叔父上の説明によると、あまりに引き止められて渋々この地に留まるも、永の退屈から神殿の最奥に引き籠ったまま出てこないというナターリエ神が弟にまっしぐらだ。
そして弟が度々ある突然の気絶をした今、弟を膝枕して頭を撫でている。
僕のフワフワして頼りなげな髪と違って固くて真っ直ぐな弟の髪はさぞかし撫で心地が良い事だろう。
少し遠い目をして意識を飛ばしかけた僕の頭の上で叔父様がポンポンと手を撥ねる。
しっかりしろとの励ましか。
だが、現実逃避をしたくもなる。
僕らを遠巻きにした神官様達は口々に神殿に戻るよう、せめて地べたに座らないでくれと訴えるも、聞く耳持たずだ。
僕と叔父様も事の成り行きについて行けず、ポカンと見ているしかなく、今も女神様に世話を焼かれている弟を眺めているだけだ。
女神様は弟の額に手をやると、わずかに眉を寄せる。
「…あら。私を差し置いて他の神と…」
そう呟くと額を合わせ、コテンと眠り、弟と添い寝するように転がった。
そうするとまた周りの神官様達が「早くお運びせよ!!」、「しかし神聖なる玉体に触れるなど畏れ多い!!」などと慌てふためく。
そんな中、僕はどこか落ち着いた心持ちで叔父様に問いかけた。
「…叔父様。僕の弟は一体どこに向かっているんでしょうか…」
「さて。オレの考えも及ばない所だろうな」
僕達は苦笑いするしかなかった。